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 思えば、蓮の、本心をあまり明かさない面に惹かれたのだが、今は逆に、彼の本音を聞いてみたいと望んでいる。

 蓮に初めて出逢った時は、そのあまりの美しさに、暫く目が離せなかった。
 元から男に興味が有った訳では無いが、同性だと云う事が気にならない程、蓮は佳麗で、その上育ちが良い所為か、ひどく淑やかで、汚らしい言葉を全く吐かず、煩くもない。
 穏和で物静かなその性格は、彼の美をより一層強めてゆくばかりで……だからこそ、抱き人形として手元に置こうと決め、蓮が自分のもとに来たその日に、無理矢理組み伏せた。
 だが、何よりも惹かれたのは、華奢な外見とは違って意外にも我慢強く、本心をあまり曝さない面だった。

 ――両親が、憎くないのか?
 以前、そんな事を尋ねてみたが、蓮はかぶりを振って諦めたように笑い、仕方の無いことだと返した。
 俺から逃げたいかと、尋ねた事も有る。
 しかしその時も、蓮は諦めたように笑い、逃げれば両親に迷惑を掛けてしまうからと口にした。

 悔しくとも、自尊心をどれだけ踏み躙られようとも、両親の立場を守る為に、謙虚な態度を貫き通し、蓮は常に命令を受け入れて来た。
 この世は、保身ばかり考えている者しか居ないと考えていた嘉島にとって、保身を全く考えず、両親を何処までも庇い続ける蓮は徐々に気になる存在となり………いつしか、心を奪われていた。
 そして今では、どうしようも無いほど強く惹かれ、惚れてしまっている。

「……そんなに答えたく無いなら、答えなくていい。だがな、ちゃんと飯は食え」
 いつまで経っても視線を戻さない蓮に焦れ、苛立たしげに言葉を放つ。
 蓮は目を少し見開き、恐る恐る視線を戻して、嘉島をじっと見据えた。

 ……もしかして、心配、してくれているんだろうか。
 そう考えると、胸の奥底から強い期待感が湧き、心が熱くなった。
 けれど――。

「今のおまえは抱き心地が悪い。いいか、俺に抱かれる為に、おまえは存在しているって事を忘れるんじゃねぇぞ……分かったら、ちゃんと食え。何か運ばせてやる、」
 続く言葉が耳に入ると、胸の奥が締め付けられるような痛みに、襲われる。
 傲慢な嘉島なりの精一杯の気遣いだったが、蓮は言葉通りにしか受け止める事が出来ず、力無く頷いた。
 何を期待しているんだろうと考え、僅かでも期待を抱いてしまった自分に、嫌気が差す。
 徐々に俯きがちになった瞬間、唐突に腕を掴まれて強い力で引かれ、蓮はソファの上へ倒れ込んだ。

「俺だ。今直ぐ、何か食いモノ運んで来い。」
 困惑気に此方を見上げて来る蓮を眺めながら、嘉島は携帯電話をスラックスの隠しから取り出して掛け、言葉を交わし始める。
 そうしながらも片手を伸ばし、蓮の内股をさするように撫で上げた。
 嘉島のその行為に体温が急激に上がるが、拒むことはせず、されるがままになる。
 抵抗する素振りも見せず、顔を反らす事も無く、従順に受け入れようとしている相手の姿に満足し、嘉島は薄く笑う。
 丁寧な手付きで肌に指を滑らせ、なぞり上げてやると、蓮は背筋を震わせた。
 その様子に更に気を良くし、通話を終えた携帯電話を無造作に床へ放り投げ、無数の傷痕が残った蓮の肌を眺める。

 蓮は以前、一度だけ菅田に拉致された事が有る。
 その時の事をあまりのショックで蓮は覚えておらず、保護された時には、既に声が出せなくなっていた。
 喋れなくなったのは強いストレスが原因で、回復するかどうかは判断し難い、と医者から深刻な表情で告げられた。

 傷痕を目にする度に嘉島の脳裏には、自分の元に連れ戻した際の蓮の姿が、はっきりと浮かぶ。
 柔らかな白い肌には、いくつかの刺し傷や殴られた痕と……嘉島に見せ付けるかのような、鬱血の痕が多数あった。
 菅田に抱かれたのかは定かでは無いが、蓮が傷付いて汚れたとしても、手放す気にはなれなかった。
 その頃には、もう蓮に惚れていたのだと考え、嘉島はうっすらと苦笑する。
「蓮、飯が届くまで俺の相手をしろ。おまえの役目はそれだけだ……余計な事は、考えるな」

 ――おまえは、何も気にしなくていい。菅田の事も。声を出せなくなった理由も。

 冷淡な物言いで言葉を紡ぎ、続く言葉は胸の内だけで留めた嘉島は、上衣を脱ぎ捨て、蓮の上へのしかかると躊躇い無く、何度も、傷だらけの肌へ口付けを落とした。
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