4 / 21
04
しおりを挟む
嘉島にはさして驚いた様子も無く、蓮も喋れないことを気にしている色は無いが、二重の双眸は微かに潤んでいる。
「何だ、その眼は。俺が居なくて淋しかったとでも云う気か、」
蓮の瞳を見下ろしながら、嘉島は小馬鹿にしたように笑う。
一ヶ月以上も会えなかったと云うのに、普段通りの冷たい態度をとられ、蓮は悲しげに目を伏せた。
嘉島の身を心から案じていた蓮を、他愛の無い言葉で密かに傷つけたことすら、嘉島は気付かない。
蓮は嘉島の身をずっと案じていた所為で、食欲も失せ、ろくに眠りもしなかった。
抗争が始まったことを嘉島の腹心の田岡から聞かされて以来、無事でいるようにとただ祈るばかりで……嘉島が傷を負わないか不安で、眠れぬ夜を何度も過ごしたと云うのに。
相手は、そんな自分の気持ちなど全く知らないし、気付くことすら無い。
――でも、仕方の無いことだ。
自分は嘉島にとって、恋人でも無ければ愛人でも無いのだからと、蓮は考える。
ただの抱き人形でしか無いのだと考えて、微かに感じた胸の痛みに眉を寄せた。
が、嘉島の視線を感じ、すぐさまかぶりを振って見せる。
……本当は、淋しかったし、とても心配だった。
だけど、それを嘉島に伝えたところで、何かが変わる訳でも無い。
「だろうな。俺が居ないだけで淋しさなんざ……おまえは感じる筈もねぇよな」
素っ気無く冷たい口調で吐き捨て、嘉島は自嘲気味な笑みを口元に浮かばせる。
目を伏せたままの蓮はそれに気付かず、嘉島に視線を向ける事もなく、胸の痛みにひたすら耐えることしか出来ずに居た。
嘉島からして見れば、目を合わせようとしない蓮の態度は、頑なに自分を拒んでいるように見える。
その上、眉を寄せている彼の表情はどう見ても、嫌がっているようにしか思えない。
徐々に不快な気分になり、忌々しげに大きく舌打ちを零すと、蓮の肩がびくりと跳ねた。
「寝る気がないなら、俺の相手をしろ」
突き放すように冷ややかな声音を放つと、片手を伸ばして蓮の肩を押さえ付け、華奢な身体を組み敷く。
唐突にのしかかって来た嘉島の姿に圧倒され、蓮は瞳を大きく見開いた。
体格差の有る嘉島に迫られると、あまりの迫力に怯え、身体が震えてしまう。
恐怖の色を浮かべ、顔まで反らした蓮の態度に嘉島はひどく苛立った。
畏怖されるのは構わないが、拒むように顔を背けられるのは、癪に障る。
嘉島は一度目を細めた後、不意にぐっと力を込め、蓮の細い肩を更に強く押さえつけた。
「蓮、立場を忘れるな……おまえは俺に買われた身だろう、」
痛みで、反射的に片目を瞑った蓮を、冷たく見下ろす。
額にはうっすらと汗が滲み出していたが許す気にはならず、もう少し力を込めてやろうかと考えた瞬間、蓮は反らしていた顔を戻した。
視線がようやく絡み合うと嘉島はすぐさま力を抜き、肩から手を離してやる。
「忘れるんじゃねぇぞ、蓮。ただの抱き人形に、拒否権はねぇんだ」
――痛い。
胸の奥がひどく痛んで、蓮の瞳が微かに揺れる。
冷たすぎる言葉が心に深く突き刺さって、何よりも、痛い。
嘉島の元に来た当時は、どれだけ冷たい言葉を浴びても、ひどい仕打ちを受けても平気だった。
それなのに……と、蓮は歯を咬み、シャツの胸元をきつく握り締める。
嘉島に恋心を抱いてしまってからは、苦痛ばかりの日々で……本当に弱くなって、傷付いてばかりだ。
相手は自分を玩具のようにしか思っていないから余計に、想いを打ち明ける事など出来なくて。
冷たい言葉を投げ付けられても、雑に抱かれても、彼を嫌いになれない自分が……ひどく、愚かしくも思える。
「何だ、その眼は。俺が居なくて淋しかったとでも云う気か、」
蓮の瞳を見下ろしながら、嘉島は小馬鹿にしたように笑う。
一ヶ月以上も会えなかったと云うのに、普段通りの冷たい態度をとられ、蓮は悲しげに目を伏せた。
嘉島の身を心から案じていた蓮を、他愛の無い言葉で密かに傷つけたことすら、嘉島は気付かない。
蓮は嘉島の身をずっと案じていた所為で、食欲も失せ、ろくに眠りもしなかった。
抗争が始まったことを嘉島の腹心の田岡から聞かされて以来、無事でいるようにとただ祈るばかりで……嘉島が傷を負わないか不安で、眠れぬ夜を何度も過ごしたと云うのに。
相手は、そんな自分の気持ちなど全く知らないし、気付くことすら無い。
――でも、仕方の無いことだ。
自分は嘉島にとって、恋人でも無ければ愛人でも無いのだからと、蓮は考える。
ただの抱き人形でしか無いのだと考えて、微かに感じた胸の痛みに眉を寄せた。
が、嘉島の視線を感じ、すぐさまかぶりを振って見せる。
……本当は、淋しかったし、とても心配だった。
だけど、それを嘉島に伝えたところで、何かが変わる訳でも無い。
「だろうな。俺が居ないだけで淋しさなんざ……おまえは感じる筈もねぇよな」
素っ気無く冷たい口調で吐き捨て、嘉島は自嘲気味な笑みを口元に浮かばせる。
目を伏せたままの蓮はそれに気付かず、嘉島に視線を向ける事もなく、胸の痛みにひたすら耐えることしか出来ずに居た。
嘉島からして見れば、目を合わせようとしない蓮の態度は、頑なに自分を拒んでいるように見える。
その上、眉を寄せている彼の表情はどう見ても、嫌がっているようにしか思えない。
徐々に不快な気分になり、忌々しげに大きく舌打ちを零すと、蓮の肩がびくりと跳ねた。
「寝る気がないなら、俺の相手をしろ」
突き放すように冷ややかな声音を放つと、片手を伸ばして蓮の肩を押さえ付け、華奢な身体を組み敷く。
唐突にのしかかって来た嘉島の姿に圧倒され、蓮は瞳を大きく見開いた。
体格差の有る嘉島に迫られると、あまりの迫力に怯え、身体が震えてしまう。
恐怖の色を浮かべ、顔まで反らした蓮の態度に嘉島はひどく苛立った。
畏怖されるのは構わないが、拒むように顔を背けられるのは、癪に障る。
嘉島は一度目を細めた後、不意にぐっと力を込め、蓮の細い肩を更に強く押さえつけた。
「蓮、立場を忘れるな……おまえは俺に買われた身だろう、」
痛みで、反射的に片目を瞑った蓮を、冷たく見下ろす。
額にはうっすらと汗が滲み出していたが許す気にはならず、もう少し力を込めてやろうかと考えた瞬間、蓮は反らしていた顔を戻した。
視線がようやく絡み合うと嘉島はすぐさま力を抜き、肩から手を離してやる。
「忘れるんじゃねぇぞ、蓮。ただの抱き人形に、拒否権はねぇんだ」
――痛い。
胸の奥がひどく痛んで、蓮の瞳が微かに揺れる。
冷たすぎる言葉が心に深く突き刺さって、何よりも、痛い。
嘉島の元に来た当時は、どれだけ冷たい言葉を浴びても、ひどい仕打ちを受けても平気だった。
それなのに……と、蓮は歯を咬み、シャツの胸元をきつく握り締める。
嘉島に恋心を抱いてしまってからは、苦痛ばかりの日々で……本当に弱くなって、傷付いてばかりだ。
相手は自分を玩具のようにしか思っていないから余計に、想いを打ち明ける事など出来なくて。
冷たい言葉を投げ付けられても、雑に抱かれても、彼を嫌いになれない自分が……ひどく、愚かしくも思える。
10
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
酔った俺は、美味しく頂かれてました
雪紫
BL
片思いの相手に、酔ったフリして色々聞き出す筈が、何故かキスされて……?
両片思い(?)の男子大学生達の夜。
2話完結の短編です。
長いので2話にわけました。
他サイトにも掲載しています。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる