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前編
06
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「……細い身体だな、」
まるで小馬鹿にするような呟きに、感情が冷えるように頭の中が冷静になってゆく。
さっきは驚きがあまりにも強かった所為で、何とも思わなかったけれど……僕は他人に、抱き支えられているのだ。
人がこんなにも近くに、しかも身体に触れられているんだと考えると、途端に嫌悪感が込み上げて来て――。
僕は軽い恐慌状態に陥り、礼を云う事すら忘れて、男の腕の中でもがくように身体を動かした。
「い、嫌だ……離せ……っ」
搾り出すように言葉を掛けると、男は可笑しそうに低い笑い声を立てた。
何が可笑しいのか疑問に思ったが、問い掛ける気にはならない。
「……先に云う言葉は普通、礼の言葉だろう?」
叱ったり不機嫌になる、と云った様子は無く、男はただ可笑しそうにそう言って来た。
その言葉に少し冷静さを取り戻し掛けたけれど、男の次の行動に、頭の中は一気に真っ白になる。
相手は更に強く、僕を抱き締めて来たのだ。
それは本当に、抱き締めるとしか云い様の無い行動で、僕は小さな悲鳴を漏らす。
男の胸元に顔を押し付けさせられて息が詰まり、身体が一瞬強張って徐々に震え始めた。
「どうした……、」
震えている僕に気付いたのか、男はようやく身体を離してくれた。
逃げるように、少しよろけながら後退りして、僕は壁に背を付けて凭れ掛かる。
俯いて呼吸を整え、思い出したように軽く頭を下げた。
「あ、有り難うございました。本当に、すみません。もう、大丈夫です」
「無理はするな、……顔色も悪い」
「いいえ……もう本当に、大丈夫ですから。すみま、せ……、」
最後までちゃんと言いたかったのに、僕は咄嗟に口を抑えて咳込んでしまう。
しまった、と遅れて考えたけれど、相手は「ほら見ろ」と、意外な言葉を発した。
そんな言葉を、目の前で聞いた事は無い。
何だか呆れたような口調だったが、何処と無く優しい感じに思えたのは、僕の気の所為だろうか。
常に感じるあの黒々しい雰囲気ですら、今は薄れているように思える。
何時もは身体が震えるぐらいに恐ろしくて、息が詰まって、呼吸すら上手く出来ないほど張り詰めた雰囲気なのに。
あの責めるような双眸は、今はどうなっているのか何故か無性に気になって、僕は顔を上げようとした。
その瞬間冷たい感触が額に触れ、咄嗟に首を竦めると、男は愉しそうに笑い声を立てた。
自分の額に触れている冷たいものが男の手だと云う事に気付いて、身体は一瞬だけ強張った。
でも、何故かさっきのような嫌悪感が湧かない。
……気持ちがいいのだ。
男の手があまりにも冷たすぎて、気持ちがいい。
「熱が高いな……少し休んだ方が良い」
笑っていたのとは打って変わって、男の口調はとても真面目なものだった。
僕は掛けられた言葉が上手く呑み込めず、ただぼんやりと相手を見上げる事しか出来無い。
余計な事など何一つ考えず、この冷たい感触に浸っていたいとすら思った。
でも、その手は、あっさりと離れてゆく。
離れてゆく手をまるで惜しむように眼で追って、直ぐに僕ははっとした。
相手の手を眼で追ってしまった事が、無性に浅ましい事のように思えた。
まるで小馬鹿にするような呟きに、感情が冷えるように頭の中が冷静になってゆく。
さっきは驚きがあまりにも強かった所為で、何とも思わなかったけれど……僕は他人に、抱き支えられているのだ。
人がこんなにも近くに、しかも身体に触れられているんだと考えると、途端に嫌悪感が込み上げて来て――。
僕は軽い恐慌状態に陥り、礼を云う事すら忘れて、男の腕の中でもがくように身体を動かした。
「い、嫌だ……離せ……っ」
搾り出すように言葉を掛けると、男は可笑しそうに低い笑い声を立てた。
何が可笑しいのか疑問に思ったが、問い掛ける気にはならない。
「……先に云う言葉は普通、礼の言葉だろう?」
叱ったり不機嫌になる、と云った様子は無く、男はただ可笑しそうにそう言って来た。
その言葉に少し冷静さを取り戻し掛けたけれど、男の次の行動に、頭の中は一気に真っ白になる。
相手は更に強く、僕を抱き締めて来たのだ。
それは本当に、抱き締めるとしか云い様の無い行動で、僕は小さな悲鳴を漏らす。
男の胸元に顔を押し付けさせられて息が詰まり、身体が一瞬強張って徐々に震え始めた。
「どうした……、」
震えている僕に気付いたのか、男はようやく身体を離してくれた。
逃げるように、少しよろけながら後退りして、僕は壁に背を付けて凭れ掛かる。
俯いて呼吸を整え、思い出したように軽く頭を下げた。
「あ、有り難うございました。本当に、すみません。もう、大丈夫です」
「無理はするな、……顔色も悪い」
「いいえ……もう本当に、大丈夫ですから。すみま、せ……、」
最後までちゃんと言いたかったのに、僕は咄嗟に口を抑えて咳込んでしまう。
しまった、と遅れて考えたけれど、相手は「ほら見ろ」と、意外な言葉を発した。
そんな言葉を、目の前で聞いた事は無い。
何だか呆れたような口調だったが、何処と無く優しい感じに思えたのは、僕の気の所為だろうか。
常に感じるあの黒々しい雰囲気ですら、今は薄れているように思える。
何時もは身体が震えるぐらいに恐ろしくて、息が詰まって、呼吸すら上手く出来ないほど張り詰めた雰囲気なのに。
あの責めるような双眸は、今はどうなっているのか何故か無性に気になって、僕は顔を上げようとした。
その瞬間冷たい感触が額に触れ、咄嗟に首を竦めると、男は愉しそうに笑い声を立てた。
自分の額に触れている冷たいものが男の手だと云う事に気付いて、身体は一瞬だけ強張った。
でも、何故かさっきのような嫌悪感が湧かない。
……気持ちがいいのだ。
男の手があまりにも冷たすぎて、気持ちがいい。
「熱が高いな……少し休んだ方が良い」
笑っていたのとは打って変わって、男の口調はとても真面目なものだった。
僕は掛けられた言葉が上手く呑み込めず、ただぼんやりと相手を見上げる事しか出来無い。
余計な事など何一つ考えず、この冷たい感触に浸っていたいとすら思った。
でも、その手は、あっさりと離れてゆく。
離れてゆく手をまるで惜しむように眼で追って、直ぐに僕ははっとした。
相手の手を眼で追ってしまった事が、無性に浅ましい事のように思えた。
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