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こうしてヒロインは追放された。
しおりを挟む「リリー、貴様はこの優しいローズのことを階段から突き落としたな。国外追放だ。」
この国の王子のその声を聞いた時私は『やっと終わる。』と思った。嬉しさのあまり涙がこぼれ落ちた。
義姉のローズのこと階段から突き落としてよかった。
ローズは王子に肩を抱かれ怯えたように私のことを見ている。
変な女。人に嫌がらせしていたのはあなたじゃない。あなたの親もそうだったじゃない。何被害者ぶってるのよ。
ローズ斜め後ろには、憎々しげに私のことを睨みつける。恋人、否元恋人。それもダメね、元恋人とも呼びたくない。下半身に素直な男がいた。
キリリと胸が痛む。だけれどもこんな感情今は必要ない。
もう今後も必要ない。何度も何度も死にたいとすら思った。自由になれるのならばなんだってよかった。
だから殺人未遂をしたのだ。
殺人未遂と言ってもたかが階段の真ん中ぐらいから強く背中を押しただけよ。若いんだし、上手く受け身は取れるでしょ?死なないとわかってた。
嘘、死んでもよかったわ。ローズのこと嫌いだから。
死んでしまえばよかったのに。
ニーっと笑うとローズは怯えた顔をした。
美しいと言われる笑みのはずなんだけれども、変ね。
気持ちが悪いわよ、ローズ。
でも、もっと怯えて。気持ち悪い顔を歪ませて。
愉快なのよ。
すべて計画通りだ。繰り返すけど本当突き落としてよかった。
さっきも言ったけど、ローズは突き落としたついでに死んでしまったらよかったけど、死んでしまったら私は大変なことになってしまってたから、やっぱりこれでよかったのだ。
悦に浸り今度は美しく笑みを浮かべた。
「いつ追放してくださりますか?」
笑みを浮かべつつ首を傾げると、息をのむ音が聞こえた。
はあー、この反応うんざりするわ。気持ちが悪い。
私のお顔はどうやら息を呑むほど美しいらしい。
気持ち悪いけど、笑顔は保つのよ私。
「そ、そうやってお前は男を誑し込むんだろ!今すぐ追放してやる!捕らえろ!」
私の微笑みは男を誑かすとよく言われた。
久々に言われた言葉が不愉快で微かに顔が歪みそうになった。
だが、歪む間も無く王子が叫ぶと背後から現れてきた騎士たちが私のことを乱暴に捕まえた。
痛いわ、とても痛い。
だけれどもこれを耐えれば私は自由の身よ。
だから歯を食いしばって耐えた。
あれよあれよという間に馬車に乗せ身1つで隣国との国境にある森のど真ん中に捨てられた。
ああ、何で素晴らしいの。
私はもう自由よ。やはり喜びのあまり涙がこぼれ落ちた。
あまりにも気分が良くて、もう死んでもいいとすら一瞬思ったけれども私は死にはしない。
歯を食いしばって、自由を享受するのよ。
★
私は生まれた時から自由を奪われていた。
そして私の母は、18歳の頃に奪われた。悲惨なことだ。
まずは全ての始まり。母の悲しみから語ろう。
★
母は金と権力を振りかざした父に無理矢理犯された。
結婚の約束を交わした恋人がいたのにも関わらずだ。
子を孕むと一応囲われた。一応というのは、守ってはもらえなかったということだ。
1人目の子供は男だったために取り上げられて遠くに送られた、2人目の私は女であったために放置された。
1人目の子供の名前はおろか、顔すら見せてもらえなかった。
そう日記には綴られていた。
母は衰弱していたから、日記の内容は虚実の判別はつかない。
そもそも日記とは主観塗れのものだ。だから虚実はどうだっていい。母が苦しめられたのは紛れもない事実なのだから。
母は私が9歳の頃に窃盗を理由に死刑にされた。正室の指輪を持っていたという。
死刑にされなくとも母はどの道命尽きていただろう。
日記を読む限り母の心は壊れる寸前だった。
そして身体はもうボロボロだった。
目を瞑れば美しくも消えてしまいそうなほど儚い母が見える。
『リリーへの愛で堪えている。』
何度こう書かれているのを読んだか。
何度この文字を見て泣いたのだろうか。
母は窃盗で死刑にされた。だが普通窃盗では死刑にされない。それに母は盗んでない。
『私は盗んでないわ。違うのよ、正室様が30分だけ預かってと言ったの。』
そう書いてあった文字は滲んでいた。きっと涙だ。
母が亡くなって1年してから彼女の日記を見つけた。
床下に隠すように保存されていた。
それが痛ましかった。
私はいつか父と義母に復讐すると胸に誓ったが、復讐は簡単には出来ない。虎視眈々と狙ったが、毒を盛ることも殺すことも子供の私には不可能に近かった。
第一必要な知識も力も持っていなかった。
そう私は穀潰しと呼ばれ、必要最低限の物資を与えられ、その後もネグレクト状態で育てられたのだ。
辛うじて母の愛と残した日記があったから狂わずに済んだと思う。
それに使用人は基本的に冷たかったが、時々クッキーをくれたりと優しい使用人も存在したのだ。
だから何とか私は生き延びられた。
★
穀潰しと呼ばれ、使用人にも冷たくされ、幽霊のように生きていた。いつまでも人生は変わらずにこのまま死ぬのだろうかと思いながら、いつも通り義姉の気晴らしの泥水シャワーに付き合っていた時世界が変わった。否、義姉が変わった。
「リリーがヒロインで、私が悪役令嬢?
そんなの絶対に嫌だ嫌だ嫌だ。」
そう叫んでから気絶したのだ。
義姉のローズのことを気絶させたと気を失いそうになる鞭打たれながら義母に叱られた。
ローズはその後度々その言葉を言うようになった。
まるで何かに取り憑かれたかのようだった。
否、事実取り憑かれていたのだろう。
ローズは、ちーきゅという人に憑依されていたのだ。
ちきゅーと言ったかしら、そんなのどうだっていいわ。
「リリーがヒロインで、私が悪役令嬢?
そんなの絶対に嫌だ嫌だ嫌だ。」
何度この言葉を聞いたかわからない。
義姉に紅茶を持っていこうと部屋の前に立ったところ聞こえてきてしまった。
ただ義姉は、10歳の私に泥水をかけて遊んでいる最中に倒れてから、人が変わったかのように優しく真面目な女になった。まるで別人のように変わった。まあ、憑依されているのだから別人だろう。
そしてこれまでは人のことを虫けらのように蔑んだ目で見ていたのに、まるで愛おしい妹かのように扱った。そして私の家の中での立ち位置は、死んでも構わない穀潰しから使用人、そして学校へ通わせてもらえる娘になった。
義姉のおかげで私の人生は前よりもずっと生きやすくなった。私は義姉に感謝しなければならない。
路地裏の孤児と違い、私は教育も授けられ、満足に食事を取ることができるようになった。
だから私は義姉や義母、そして父にされた嫌がらせを全て水に流して、彼らのことを許さなければならない。
彼らのことを許さない私はわがままなのだ。彼らを許さない私は、自己中心的などうしようもない人物なのだ。
彼らにしてもらっていることは数えきれずに恩があるのだ、だから私は彼らのことを許し尊敬し慕わなければならない。
義姉が人が変わったかのように優しくなってからこのようなことが私に強要されるようになった。
少しでも否定的な態度をとれば義母に鞭打ちにされた。
父は時々思い出したかのように、いかに私の母が卑しい身分だったのか語って聞かせてくれた。
色々語ってくれたが、正直平民だったということしかわからなかった。
そのうち気持ち悪いほど優しいローズと私は学校に通うようになった。そしてそこで私は緩やかに恋に落ちた。
★
緩やかに恋に落ち、色々捧げ蔑まれ、結果はこれよ。
緩やかに恋に落ちて両思いかと思っていたのに、遊びだった。
忌々しいローズに寝取られたってわけよ。
処女も金も家も身分も何もかも失った。
道中、美しいと言われた髪の毛も無理矢理切られた。なぜかなんて考えない。そういうものだから。
ただこれ以上はもう何も失うものはない。
ここからは這い上がるしかないし、何より自由を手に入れた。
そう思うと少しだけ幸せな気持ちになった。
ボロボロの鞄と己をこぼれ落ちないように抱えながら、一歩また一歩と歩き出した。
そして2時間歩いた頃に、運良く一軒の素敵なお家を見つけた。
中に何がいたって構わない。居候させてもらおう。
何もいなかったら私のお家にしてしまいましょう。
あら、よく見ると明かりがついているから人がいるのかな。
トントントン。
「こんにちは、誰かいますか?
わたしのこと拾ってもらえますか?」
そう声をかけると、私は返事を待たずに中に入り込んだ。
後になってわかったことは、そこは底なし沼の魔女の家だったってこと。
追放からの不法侵入が原因かわからないけれども、
私は後に世を混乱に陥れ『世紀の悪女』又の名は『革命の女リリー』と呼ばれることになった。
仰々しい名前で面白いわね。ただ私的には幸せな日々だった。
やっと自由になったの、これからは幸せになったっていいでしょ?
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