保健室の秘め事

桜屋敷 櫻子

文字の大きさ
上 下
8 / 35
秘密の放課後

しおりを挟む
 私が高校に入学してから二週間が経つけど、二週間前、そう、今井先生と出会う前は、まさかこんな高校生活を送ることになるとは思っていなかった。



 私が予定していた高校生活は「慣れない高校生活に戸惑いつつも新しい友達に囲まれてお昼休みと放課後はワイワイガヤガヤ!ガールズトークに花を咲かせちゃったり!!」みたいな、ごく普通のものだった。

 予定とは全然違うものになっている、私の高校生活。でも、これは、私が好きで選んだ毎日だ。私は、ショートケーキにフォークを突き刺しながら、今井先生の顔を盗み見た。ちらり。しかし、ばっちり目が合ってしまって、慌てて視線をショートケーキに戻した。

 ドキドキ、ドキドキ。うるさいぞ、心臓!もう二週間も経つんだから、いい加減、慣れてよ!私は平静を装って、ショートケーキを一口分取って口に入れた。……こんな状態でも、ショートケーキの味は蕩けるように美味しいとわかるのだから、今井先生の腕はすごい。機会があったら、パティシエへの転職を勧めたい。



 

 「どうですか?味は」



 「美味しいです、お店のケーキみたい……」



 「それは良かった。あぁ、口の端に生クリームが。取ってあげましょうか?」



 「い、いえ、大丈夫です、自分で、」



 「遠慮しないでください。ほら、取れましたよ」

 



 入学式のあの日、運命的な出会いを果たした私と今井先生は、今ではそれなりに親しい仲になっていた。口の端に付いた生クリームを指で取ってもらうとか、こんな甘いやり取りをするくらいには。けど、私には一つ、疑問に思っていることがある。

 毎日のように、というか、毎日、私に紅茶とケーキを出してくれる今井先生。今井先生は、どうして私にだけ優しいんだろう?最近知ったんだけど、今井先生はサボり魔な上、生徒に冷たい「嫌いな先生ナンバーワン」に輝いてしまっているらしい。



 サボり魔なのは、私が一番……か、どうかはわからないけど、よく知っている。今井先生は私が来ている間、絶対に保健室の扉を開けない。生徒が来ても、他の先生が来ても、居留守を使ってやり過ごす。それは、お昼休みであっても放課後であっても一緒で、よくクビにならないな、と思ってしまうほどだった。





 「考え事ですか?」



 「……あの、今井先生に質問があるんですけど」



 「質問、ですか。なんでしょう?」





 この際だから、聞いてしまおう。どうして、私が今井先生の「特別」なのか。





 「えっと、今井先生、どうして私にだけ優しいんですか?」



 「あぁ、そのことですか。いつ聞いてくれるのかなーと思っていました」





 ニコニコ。今井先生の表情が明るく、柔らかくなる。やっぱり、今井先生は笑うとちょっと可愛い。じゃなくて、本当にどうしてなんだろう?

 私が答えを待っていると、今井先生がスッと私の顔に手を伸ばしてきた。デスクの前に座る今井先生と、デスクの脇に座る私との距離は、そんなに遠くない。今井先生の長くて細い指が、私の顎を撫でた。思わず、びくっと反応してしまって、恥ずかしくなる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...