4月1日の母ちゃん

桜屋敷 櫻子

文字の大きさ
上 下
4 / 24
ミッション1:母ちゃんを生き返らせろ

しおりを挟む
   1階の茶の間に行くと、父ちゃんと悠介が沈んだ表情で特上寿司を囲んでいた。俺はどんな顔をしている?父ちゃん、特に気落ちの激しい悠介にはとてもじゃないが言えない。今さっき、母ちゃんの幻覚を見た、なんて。俺も寿司の前に座り、まだ湯の入っていない急須にポットからお湯を入れる。

    茶っぱを蒸らしながら、俺は無言で割り箸を割った。特上寿司のマグロの大トロに箸を伸ばし、醤油もかけず一口。涙が出たのはワサビがツンとしたからだろうか、さっき見た母ちゃんの幻覚に向かって「ごめん」を言えなかったからだろうか。俺も、気落ちしているらしい。急須から湯呑みに茶を注ぐ。


    「……大介、泣いてもいいんだぞ」

    「いや、なんか、さ……」


    父ちゃんは、俺が長男だから気丈に振る舞っていると思っているらしい。実際にはそんな意図は無く、ただ、ワサビか罪悪感か理由の分からない涙が出ただけだ。やたらワサビの効いた特上寿司のサーモンに箸を伸ばす。今度は醤油をかけた。悠介もホタテ軍艦に箸を伸ばした。父ちゃんだけが茶を啜る。

    3人だけでどうしろと?という量の特上寿司は案外、俺と悠介の2人で何とかなってしまったのだが、茶ばかりの父ちゃんが少し心配だった。まさかとは思うが、母ちゃんの後追いなんて……。嫌な考えが頭を過ぎり、物理的に頭を振ることでその考えを消す。

    ──そして、食後。

    自室に戻った俺は、白装束の母ちゃんに出迎えられた。どうせ化けて出るなら父ちゃんのところに頼むよ、という言葉が俺の頭を占拠した。どうやらこの母ちゃんは一時だけの幻覚ではないらしい。つまり、非現実的の極みだが、幽霊、なのだろう。

    絶対ない、と思ったのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

多彩な異世界

色月はじめ
ファンタジー
色の力を使うことができる異世界に転移した蒼井悠気。 王国騎士であるヨシノに命を助けてもらったことから人を守る強さに憧れを抱く。 「俺、誰かを守る強さが欲しいです」 「強くなることを止めはしない」 守る強さを求め、悠気の異世界冒険がいま、はじまる。

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

W-score

フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。 優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です。

日野 祐希
大衆娯楽
 就職初日に階段から足を滑らせて死んでしまった、新人司書の天野宏美(見た目は大和撫子、中身は天上天下唯我独尊)。  そんな彼女に天国の入国管理官(似非仙人)が紹介したのは、地獄の図書館の司書だった。  どうせ死んでしまったのだから、どこまでも面白そうな方へ転がってやろう。  早速地獄へ旅立った彼女が目にしたのは――廃墟と化した図書館だった。 「ま、待つんだ、宏美君! 話し合おう!」 「安心してください、閻魔様。……すぐに気持ちよくなりますから」(←輝く笑顔で釘バッド装備)  これは、あの世一ゴーイングマイウェイな最恐司書による、地獄の図書館の運営記録。 ※『舞台裏』とつく話は、主人公以外の視点で進みます。 ※小説家になろう様にも掲載中。

処理中です...