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アンリの八番目の物語
しおりを挟む驚愕は全身から血が引いてゆくほどの恐怖に
おののく掌は震え始めて
「どういう意味だい!?
君は自由になるために……………
君は……………
僕は………」
女神の微笑みはいつにもまして薔薇色に染まり
そして聖母のようにその柔らかな指でアンリの頰を包む。
かわいそうなものを見るみたいに
あわれなものを見つけたみたいに
「ああごめんなさい……
あなたの勇気を
ためしたかったの
あなたはすばら……………」
「や、やめてくれえ」
「本気だったんだ!
ぼくは一生を賭けたのに
君は一晩を
賭けただけなのか?」
女神は振り返り豪奢な自室を見つめる。
黄金のふちに飾られたドレッサー
カーテンにまで散りばめられた数々の宝石
天蓋付きのベッドは皺一つなく
足元は異国で織られた段通。
金とプラチナがねじり上げられた燭台には火が灯っている
「聴いてよ……ベイビイ……ね
ほんの小さな小娘の頃から怖れていたことが
二つだけあったわ…………
一つは美しくなくなること
もうひとつは貧乏……
きっと…………」
振り返ったヴィーナスは微かな憂いを秘め
それでもその美貌を隠さなかった。
そのはちきれんばかりの胸を抱くようにして
その金糸の髪には黄金の輪の耳飾りが光る。
「軽蔑するわね……
好きよ……あの手紙は
真剣だったの……でもね」
そして無邪気に微笑んだ。無垢にして完璧な微笑みで
身体のまわりに星が降るごとく
「でもやっぱりダメ…………
こわいのよ……………………
絶望と混乱がアンリを襲う。
救いようがない 救いようがない もうどうにも救いようがない
Blue, blue windows behind the stars,
Yellow moon on the rise,
Big birds flying across the sky,
Throwing shadows on our eyes.
青い青いいくつもの窓が
星のかげに浮かぶ
黄色い月がのぼってゆく
ぼくらの瞳に影を投げかけながら
大きな鳥たちが空を横切ってゆく
Leave us
Helpless, helpless, helpless.
Helpless, helpless, helpless.
Helpless, helpless, helpless.
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