アンリとアンヌのバラード

ぱとす

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天空は閉ざされた闇。人魂の群れが舞い、その隙間を列を作った群衆がうなだれて行進する。肩にツルハシ、手にはシャベルを持って。

不幸と苦痛のポーズはしても痛みはもはや感じちゃいない。
慣れること……………それが<地獄>


鎖につながれて一日働く
沈黙の親しさと無力の甘さ
何だってどうだっていいじゃないか……………
ああ、ワーキン。Working。


足に鎖で繋いだ鉄球がおぞましい大地を削り、生命のない草花は咲き乱れる。
名前を持たない幽霊達の讃歌。地獄の住人達の惨禍。

>若者ヨ! 君達ノ時代ダ!
>繁栄・秩序・愛・進歩
>君達ノ時代ダ!

弗紙幣を瞳に貼り付かせた「監視魚」が鉄条網の隙間を泳ぐ。
涙すら泥まみれの鎖しか持たぬこの混沌。

死んだ葉っぱ
ふやけた怨み
欲望に対し
喜悦に対し

巨大なハンマーを際限もなく打ちおろす男たち。
もんどり打ち、這いずりながらも働く影と影。

一人の銀髪の青年は細い横縞の囚人服を着て巨大な丸太を肩に担いでいた。
細身の身体を酔ったように。削げた頰は病んだように。





囚人服が似合わない華奢な、片目を隠した黒髪の少女は片手にツルハシを持ったまま少年に語りかける。死者に似合わない光を放つ瞳。死者に似合わない幼い唇が言葉を紡ぐ。歌のように。唱のように。詩のように。ありえない風のごとく。
青年を片目で訝しげに見つめて問いかける。

「何故? 臆病なの? 莫迦なの? 素直なの?」

語りかけられた青年は意表を突かれ、思わず丸太を取り落とした。ごろり。どすん。そして怯えたように周囲を伺う。

「シッ。しゃべっちゃいけない、監られてるんだよ」

黒髪の少女は鉄球を繋いだ脚を抱え、鉄格子の窓のそばの階段に座り少年を見上げた。

「怖いの? 死はもはや支配しないのよ」

ワイヤーが断ち切れ、鉄塊の下敷きになる囚人服の男を横目で見ながら銀髪の青年はつぶやいた。

「死はもはや支配しない……………苦痛さえも」

黒髪の少女は感情のない死者の言葉を囁く。

「ことばが通じるのはいいことにちがいないわ……………さあ話して」

5番目の箱に身を潜めた青年は炎の燃え盛る丘陵を遠望する。
卍の記号が描かれた宮殿を。空に漂う「監視魚」を。

「話して…………何をすればいいのか新しいことばで…………犬さえも不幸よ」

少女の黒髪はすでに両目を隠している。
蒼白の顔色は死者であることを雄弁に物語る。

「沈黙の花を信じてはいけないわ。不死の宿命のため死人のように造られた花。完璧の貧弱な花」

青年は身体に鉄条網を絡ませたまま、天空の闇にまで消える永遠の壁を少女とともに見上げた。

「太陽のない夢と永遠の日々をとじこめたこの壁がわが住居」

人魂が無数に浮遊する煉瓦の壁は全ての希望を拒絶する悪夢の美女。
「沈黙者の黒い孤独は無意味だ。だけどこの場違いの広場から何が見つかるのか?」

漆黒の髪で顔を隠し、その桜色の唇だけの少女が織りなす言葉は。

「見つかる? 見つける? 何故ここへ来たの……………話して昨日のこと」

鉄条網を身に纏い囚人服の胸に番号を刻んだ青年は。
その端正な横顔の瞳を開き、絶望に苛まれるように。
一筋の銀の涙を流した。



昨日……………それは青春


昨日……………それは約束





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