僕の恋人

ken

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僕が設計し、信頼できる小さな工務店に施工を任せた春美ちゃん夫婦とお母さんの家は、僕と斗真さんの夢にさらに火をつけた。僕達はもともと年に2回か3回ほど、まとまった休みを取って旅行するのが好きだったのだけれど、それからはそんな旅行に土地探しという新たな目的が加わった。
何度かこれという土地に巡り合ったが、契約に至る前に土地の所有者の気が変わったり、法的な問題があったり相続人が他にもいたり、どうも決定までには至らないまま10年が過ぎた。僕は58歳、斗真さんは56歳になっていた。
僕も斗真さんも、焦ってはいなかった。仕事の合間に1人で、また休みを合わせて2人で、共に過ごす老後の生活を想像しながら土地を探すのは、楽しかった。

それに、この10年間には、ハードな出来事も幾つかあった。

まず、父が亡くなった。脳溢血での突然死だった。兄の所に病院から連絡があり、日本にいた僕がまず駆けつけた。母に会うのは実に30年ぶりだった。母は駆けつけたのが兄でない事に苛立ち、取り乱した。30年ぶりに会う母は、痩せた小さな老女で、僕はこの人にあんなにも怯えていた幼い自分が酷く不憫に思えた。僕には彼女は精神を病んでいるように見えた。病院の医師や看護師、葬儀の業者、市役所の職員、関わる全ての人に誰彼構わず怒鳴り散らし、泣き喚き、宥められて何とか興奮を鎮めると今度は何時間でも虚ろな目で座っていた。僕が目に入ると更に不安定になるので、僕はなるべく彼女に接しないように、事務的な手続きを粛々と済ませた。兄もすぐに帰ってきてくれた。母は兄を見るといよいよ取り乱して泣き喚き、「裏切り者!殺してやる!」と叫び続けた。どうしようもなくなって兄は母を入院させた。
兄と2人、母不在のまま葬儀を済ませた。
寂しい葬儀だった。
兄によると、母は兄がイギリスに行く前の数年、兄の事務所や玲香さんの事務所に度々連絡してきては金の無心をしていたという。ストーカーのような行為があったのもあり、双方の事務所の弁護士が法的措置を取り接近禁止になっていたらしい。
「そんな事があったなんて。言ってくれたら良かったのに!」
僕が言うと、兄は力なく首を横に振った。
「いや、優斗を巻き込みたくなかったんだ。父さんがね、そんな母さんを持て余したのか、優斗の連絡先を教えろってしつこく言ってきてね。優斗に帰って来させたいなんて言い出して。母さんを押し付けようとしてて。どこまで自分勝手な奴らなんだって虫唾が走ったよ。」
「そっか。兄さんが庇ってくれてたんだね。ありがとう。」
「いや、庇うっていうか。腹が立ってね。優斗の幸せを壊す奴は親でも許せない、そう思っただけ。」
「紘兄ちゃん、ありがとう。」
「ふはは!久しぶりだな、紘兄ちゃんって言うの。俺たち、もういい歳したおっさんだからな~。兄ちゃんなんて!」
「いやいや、幾つになっても兄ちゃんは兄ちゃんでしょうよ、兄弟なんだから。」
「久しぶりに飲もうぜ。」
「そうだね、不謹慎だけど。」
「良いんだよ。俺はもうずっと前に親は捨てた。戸籍上親になっても、本当の意味で親になれない人間もいるんだよ。」
「うん、そうだね。かわいそうだね。だってさ、僕は親じゃないけど、葵と茜の成長に関わらせてもらって、本当に幸せだった。ただまっすぐ愛するだけで、こんなにも幸せなんだって思って、そういうのを知らずにお父さん死んじゃったと思うと、かわいそうだね。」
「自業自得なんだよ。」
「そうだけどね。」

僕と紘兄ちゃんは飲みながら、今後の事も話し合った。母が精神を病んでいるのは明白だった。自分達に出来る事はやろう。金銭的援助もしよう。でも、母の人生に巻き込まれないようにしよう。自分達を犠牲にするのはやめよう。そう2人で約束しあった。
「特に優斗、俺はお前が心配だよ。日本にいるから物理的に近いし。約束しろよ。絶対に犠牲にはならないって。自己犠牲なんて、美しくも何ともないんだからな!」
「分かってるよ。それに、斗真さんがいるから。僕が自分を犠牲にするって事は、斗真さんを犠牲にするって事だから。それは絶対にしない。」
結局、精神科の母の主治医と市のソーシャルワーカーや福祉課の職員と協議し、母は精神科にしばらく入院し、その後は精神疾患のある方専用の老人ホームに入居する方向で話がまとまった。かかる費用は兄と僕とで全て払うが、直接母に会う事はなるべく避けたい。その要望は、主治医の意見もあってすぐに聞き入れられた。母自身、僕や兄に会うとより精神状態が悪化するからだった。


ようやく相続の手続きも終わり、母も無事老人ホームに入居できて一安心していたら、今度は翠ちゃんに乳癌が見つかった。骨に転移していて、放射線と抗がん剤治療は本人にとってはもちろん、見ている周りにも辛いものだった。渚ちゃんは気丈に振る舞っていたけど、時々僕達のマンションで泣いた。僕達は何も言えず、ただ一緒に泣くだけだった。あんなに辛い治療を乗り越えても、それが成功する可能性は五分だという残酷な事実が、僕達を更に苦しめた。
でも、翠ちゃんは、辛い治療を3クール乗り切って、治療は成功し、翠ちゃんは1年後に仕事に復帰できるまでに回復した。僕達はみんな、喜びと安堵に包まれた。今思えば、翠ちゃんだけは、自分がもう長くないと悟っていたのだろうか。その後2年半、翠ちゃんは素晴らしい仕事を次々とした。鬼気迫るような仕事ぶりだった、と後に翠ちゃんの勤める美術館の後輩のキュレーターが泣きながら教えてくれた。2年半後、翠ちゃんに癌の再発が見つかった。ステージ4だった。
そして翠ちゃんは今度は、一切の治療を拒否した。渚ちゃんと翠ちゃんの中で、どんな話し合いがあったのか、どんな葛藤があり、どれほど愛が試されたのか、僕達にはそれは分からない。
でも、最後には渚ちゃんも、翠ちゃんの意思を尊重した。翠ちゃんと渚ちゃんは仕事を辞めて、2人は瀬戸内に浮かぶ小さな島に家を買った。そこに移り住み、最後の日々を過ごす事を決意した。そこは2人の気に入りの場所だった。僕達は1ヶ月に一度はその島に行き、翠ちゃんと渚ちゃんと過ごした。最初のうち、翠ちゃんは末期癌だなんて嘘のように元気だった。庭で野菜を使ったり、釣りをしたりしていた。暖かな瀬戸内の気候が心地よい庭で、翠ちゃんに会いにくるいろんな人達と笑い転げながら食事をした。翠ちゃんは大好きなワインをいつも通り飲んでいた。僕達だけでなく、兄夫婦や葵、茜もその島に集まった。
4ヶ月後、少しずつ翠ちゃんはできない事が増えていった。家の中で過ごす事が多くなり、痛み止めが効いてウトウトとする時間も増えた。その頃には翠ちゃんの家族は島に長期滞在するようになった。最後の1ヶ月、翠ちゃんのお兄さんが付きっきりで翠ちゃんを診た。
 最後の1週間、僕も翠ちゃんとずっと過ごす事ができた。渚ちゃんや僕、翠ちゃんのお母さんやお兄さんに囲まれて、翠ちゃんは静かに息を引き取った。最後は渚ちゃんに抱きしめられながら、大きく息を吸って、そして、息は吐かれなかった。
葬儀は島の翠ちゃんと渚ちゃんの家で、賑やかに行われた。翠ちゃんは事細かに葬儀、彼女はそれをお別れパーティーと呼んでいたが、そのパーティーの指示を紙に残していた。かける音楽、出す料理、飾る花も。最期には間に合わなかったけれど、兄夫婦と茜ちゃん、斗真さんも駆けつけて、翠ちゃんの元職場の人も何人も来てくれた。みんなで料理を作り、庭で翠ちゃんの思い出話をしながら食べた。翠ちゃんのお母さんが、翠ちゃんが産まれた時の映像を見せてくれた。人は産まれ、そして死んでいく。それは、何千年も続く自然の摂理だった。僕達は翠ちゃんの思い出話に泣き、そして笑った。
翌日、島の火葬場で翠ちゃんは荼毘に付された。そして、僕達はまた翠ちゃんの思い出話をしましょうと、口々に言い合って別れた。僕はその後もう1週間島に残っていろんな手続きをする渚ちゃんを手伝い、そして東京に帰った。
渚ちゃんは今もその島に独り住んでいる。今は島の子供達に勉強を教える小さな塾を運営しながら、戸田翠がキュレーターとしてした仕事を纏めた回顧録を自費出版しようと少しずつ進めている。

そして去年、斗真さんのお母さんが亡くなった。突然の事故だった。孫の亜紀ちゃんを小学校まで迎えに行く途中、信号のない横断歩道を歩行中に脇見運転の車に撥ねられた。病院に駆けつけた時にはまだ意識があって、しきりに亜紀ちゃんの心配をしていたという。
一日中、懸命な治療が行われたが、2日目の夜、生命維持装置が外された。斗真さんはもちろん悲しんだが、大人たちは皆、おばあちゃんっ子だった亜紀の心配をした。春美ちゃんの夫は亜紀に、何も気にせず思う存分泣きなさいと言った。「かけたいだけ、必要なだけ、時間をかけて。」
そう言うと亜紀は、自室に閉じこもって独り、泣いた。
「いつでも必要な時に言いなさい。すぐに亜紀のところに行くよ。パパとママはリビングにいるからね。」
そう言われて、亜紀は思う存分泣いた。通夜と葬儀は自宅で執り行った。亜紀は通夜にも葬儀にも出なかったが、いよいよ荼毘に付す時には部屋から出てきて最後の別れをした。骨になったおばあちゃんを、泣きながら見つめていた。

お母さんの一周忌が終わってしばらくした頃に、斗真さんがふと言った。
「ねえ、家の事だけど、海外も探してみない?」
「うん、僕もそれが良いと思う。どこが良いかな?」
「ぼくさ、優斗さんと結婚したい。同性婚が認められている国で結婚しない?」
「斗真さん!!斗真さんと結婚したい。」

僕は思わず斗真さんにキスをした。僕達はもう以前ほどは頻繁に身体を求め合ってはいなかったが、それでも斗真さんとキスをすると僕の心は未だに静かな興奮に包まれた。斗真さんの目尻に刻まれた皺や、若い頃と比べたら少し弛んだ頬の肉が、愛おしかった。皮膚が歳と共に弱くなって剃刀負けがひどくなった斗真さんは、ここ10年ほど髭を剃らず生やしていた。髭の斗真さんはワイルドでとても格好良い。その髭に最近白いものがチラホラと見えるのも、渋くて素敵なのだ。もともと体毛の薄い質の僕は、そんな風に格好良く髭が生えない。斗真さんは太らない僕の身体を羨ましがってくれるけど、僕は油断するとすぐに痩せてしまう、筋肉の薄い貧相な身体が少しコンプレックスだった。歳と共に、見た目はどうでもよくなって、とにかく健康である事がお互いの関心事になったが、今でも時々斗真さんを見るとなんて素敵な姿なんだろうと思う。

キスをすると、斗真さんは僕を抱きしめてキスを返してくれた。久しぶりに双方予定のない休日で、僕達はリビングのソファの上で抱き合った。
「久しぶりだね、優斗さん。」
「うん、できるかな、僕達。」
「何言ってんの、もう勃ってるくせに。」
「だって、斗真さん格好良いんだもの。」
「あ、そんな事言われたら…もう…」
「え?もう、なに?」
「あー、優斗さんが珍しくイジワル言うね。もう、やめてって言ってもやめてあげないから。覚悟してよ。」
僕達は、互いに煽り合う言葉とは裏腹に、丁寧で優しいSEXをした。終わったあと、ベッドの上で2人グッタリと身体を預け合って、僕達は結婚について話し合った。外国で結婚するということは、日本ではなく外国で生きていくという事だ。それなりの覚悟と煩雑な手続きに耐える忍耐力が必要なはずだ。

「ちょっと忘れてきてるから、英語の勉強、また始めるよ。」
「ぼくも。むしろぼくは日常会話を習わないとな~。職人同士はさ、言葉があんまり堪能じゃなくても何となく通じ合うんだよね、仕事は。そんな感じで英語は怠けてきたから、海外出張でも。」
「そっか、そうなんだ。意外だな。だって1カ月とか海外で生活してたら、英語は使うでしょ?」
「でもさ、限られてくるの。仕事行って、終わったら決まった店で食事して、ホテルとか宿舎に帰って寝るだけだから。かえって優斗さんと旅行する時の方が英語喋るよ。」
「そうなんだ…」
「え?何?なんか言いたげ?」
「いや~、いやね……引かないでね。」
「なに?」
「僕さ、ちょっとだけ不安だったんだよね。斗真さんが海外出張で1カ月とかいないとさ、寂しいし、変な妄想しちゃう訳よ。斗真さん格好良いからさ、向こうでモテちゃってるんじゃないかな~とか、さ。」
「えー!そうだったの?」
「いや、ちょっとだけよ。ほんの少し。もちろん信じてるよ、斗真さんの事は。でも、ね、やっぱりちょっと不安だった。」
「もー、言ってよ。仕事だし、けっこうタイトなスケジュールも多かったから、全然連絡しなかったじゃん、ぼく。そんな不安に思ってたなんて知らなかったよ。言ってくれたらちゃんと毎日電話とかしたのに。今度からするね、毎日。」
「それはいいよ。迷惑かけたい訳じゃないから。」
「いや、する!実はぼくもちょっと遠慮してたんだよね。時差とかあるしさ。でも今度から毎日する!」
「無理はしないで。」
「無理じゃないよ。したいんだよ。」

「ねえ、斗真さん。僕達、結婚するんだね。なんか、不思議な気持ち。いろいろ
調べてみなきゃね。忙しくなるかなぁ。」「うん、でも、嬉しいね。」
「うん、嬉しい。あ、って事はさ。僕、プロポーズしてもらったんだ!
ああ、嬉しい。ねえ、斗真さん。もし良かったら、もう一回しない?」
「え!できるかな…」
僕はたまらなくなって頬に頬を寄せ、擦り付けるように髭に鼻や頬や唇を這わせた。そのまま鎖骨や首筋、耳の後ろ、背中、斗真さんの全身に唇をを付けていくと、斗真さんはたちまち甘い吐息を吐いた。僕は斗真さんの少し昂ったものに口付けし、舌を下から上にスッと這わせた。

「はぅ!んはん!だ…だ…め…優斗さん。ゆ…ゆう…はん!」

 斗真さんは僕をうつ伏せにし、背中や尻、内腿に這う傷跡を舐めた。それはもう白くなりほとんど見えないが、いつも斗真さんは優しくそこに舌を這わせてくれる。もう癖みたいなものだそうだ。そして僕も、そうされると勝手に身体が嬉しくなる。それから斗真さんは僕を仰向けにし、胸の突起を口に含むと吸い付いたり舌で転がしたりした。

「はぁ!あ…  んあ!」

 僕はいよいよ我慢できなくなって、知らずのうちに腰を浮かしてゆらゆらと、まるで斗真さんに入れてもらうのを強請るように尻を振ってしまう。斗真さんは僕の後孔を優しくほぐしてくれて、それから手で温めたローションをゆっくりと塗り付けてくれる。そしてそっとその昂ぶりを僕に差し込んで、そしてグッと奥に挿れた。身体の中心で斗真さんを感じると、僕は嬉しくて堪らなくなる。

でも結局、斗真さんは激しく動かす事はせず、僕達はそのまま繋がったままでウトウトと微睡んだ。そして目が覚めたときには、僕も斗真さんももう勃ってはいなかった。それでも僕達は心が満たされ、充分に愛し合った感覚がした。
最近、そういう時に時々子供の頃のことをまた思い出す時があった。
あの小さな部屋で、キリキリと痛む胸を押さえて全身に力を入れ、丸まって震えてる子供の頃の自分を。
両親の愛情を求めて、見てももらえないのに縋るように見つめる自分を。
あの頃、こんなにも愛で満たされて、こんなにも穏やかで、こんなにも幸せな日々が訪れる事など、想像すらできなかった。そして、小さな子供の自分が、僕が生きてきた歴史全部が、愛おしく感じるのだった。

頑張ったね。頑張ったよ、僕。

自分を愛おしく思えば思うほどに、隣の斗真さんの事を愛おしく感じて、彼をもっともっと慈しみたいと思うのだった。


その2年後、僕達はタイのチェンマイ郊外に小さな家を建てた。
仕事でチェンマイに行った斗真さんがその土地を見つけた。風通しの良い小高い丘の上にあって、裏には小川が流れていた。もともと寒いのが苦手な斗真さんは、歳を重ねる毎にますます寒さが身体に堪えるようで、タイの気候が性に合っているようだった。そして、タイ料理が大好きな僕も、チェンマイの街の雰囲気と人々の温かさ、そしてその土地の美しさに惹かれた。その土地を購入する手続きと同時に、僕達はタイで正式に結婚した。僕達は3年かけて、そこに自宅と2部屋だけの小さな宿泊施設を建てた。部屋はいずれも独立したヴィラ形式の建物で、トイレとバス、そして小さなキッチンが付いている。

完成した時、僕は65歳、斗真さんは62歳になっていた。斗真さんは会社を辞めた。僕も仕事を大幅に抑えて、もう自分が本当にやりたいと思う仕事以外は受けない事にした。斗真さんはさらに仕事を減らした。そして2人で、2組だけの小さなB&Bを始めた。
最初の客は仔犬だった。耳の垂れた白と黒の小さな仔犬が、どこからかやってきてヴィラの前の庭に住みついた。僕達はその犬をラックと名付けて、自宅で飼い始めた。そしてそのラックが1年後、散歩中に側溝の中に仔猫を2匹見つけた。ようやく目が開いたばかりのようなその小さな仔猫を、ラックは本当の母親のように世話した。


僕達の日常は平穏で愛に溢れている。この国は経済発展が著しいが、チェンマイの人々は皆穏やかで温かい。
僕は毎朝、まだ薄暗いうちに小さな市場に行き、その日の食事の材料を買う。そして行きつけのカフェでコーヒーを一杯飲み、そこでご近所の人やカフェの店員と少し話す。
それから帰って、朝ごはんを作る。お客さんが要望すれば部屋まで運ぶが、大抵のお客さんは中庭で僕や斗真さんを含めたみんなで食べる事を望む。
日中、僕達は庭仕事をしたりヴィラの修繕や清掃をしたりする。斗真さんは週に二回、チェンマイの左官屋で若い職人に仕事を教えている。


僕達は今日、結婚5周年のパーティーを開く。僕達が出会って、ちょうど40年が経った。
「葵、花の色はやっぱり黄色なの?」
「うん、優にいちゃんとトーマのイメージカラーは黄色なんだよね、なんか。」
「もうおじいちゃんだよ、ぼく達。大丈夫かな、黄色?」
「オレを誰だと思ってんの?オレの手にかかれば、黄色でも激渋のアレンジになんの!」
「へー、楽しみにしてるよ。」

晴れやかな12月の午後。

渚ちゃんが僕の手を取ってしみじみ言った。

「優斗、本当に幸せそう。」
「うん、本当に幸せ。今ね僕、毎日毎日、1日でも長く生きられますようにってお祈りしてるんだよ。」
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