僕の恋人

ken

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「口を開けろ。」

冷たく言い放たれて、僕は床の上で震えそうになるのを堪える。正座する足から床の冷たさが伝わり、全身がヒヤリとする。無意識に喉から唾がグッと込み上げる。
「早く、開けろ。」
苛立った目で言われ、すぐに僕は口を開けて恋人を見上げる。
「ゥッ!ング!」
喉を思い切り指先で突かれて、思わずえずきそうになるのを堪える。口を閉じそうになって、手を、爪が掌に食い込むくらいに硬く握りしめて耐える。彼は嬉しそうに笑って、さらに指先で喉の奥を突いたり撫で回したりする。
痛くて苦しくて涙が出る。
「ッウ!ウェッ…」
「目をつぶるなよ!ちゃんとこっちを見ろ!」
「……ゥ…グェッ」
僕は慌てて目を開けて奏さんを見る。奏さんの目はどこまでも冷たくて、僕は悲しくなる。


初めてこれをされた時、思わず顔を背けて口を閉じ、酷く失望された。奏さんは僕に関心をなくしたようにソファに座ってスマートフォンで何かに熱中し、謝罪も言い訳も聞いてもらえなかった。
仕方なく服を着ていると
「誰が服着て良いって言った?あ、もう俺とはセックスしないんだね。」
と言われた。慌てて服を脱いで、
「ごめん、もうしないのかと思ったんだ。ごめん、する。したい。
でも… 喉に手を入れられると…
痛過ぎて無理かも。ごめんなさい。」
僕がそういうと、奏さんはバカにしたような目で僕を見て、またスマホに目を戻した。僕は悲しくなって思わず
「ごめん、やる。やるから。そんな目で見ないで。頑張ってみる。」
と言った。やりたくなかったけれど、見捨てられるのはもっと嫌だった。

「ハハ、縋りついてくるユウト、可愛い。いいよ、頑張れるならしたげる。して欲しいの?」
「うん、して欲しい。」

でも、その日、僕は頑張れなかった。何度やり直しても苦しくなってすぐに口を閉じてしまい、顔を背けるか身体ごと後ろに倒れ込んでしまった。咳き込みとえずきが止まらず涙を流して、それでも必死に謝ったけど、許してはもらえなかった。
彼は怒って僕の頬を2度平手で叩き、そのままソファにもどってゲームをし始めた。僕はキッチンの床の上で全裸のまま、途方に暮れた。服を着たかったけど、着たら彼とのセックスを拒否したと思われるのかもと心配で、どうすれば許してもらえるのか分からず俯いた。
「キモっ、いつまで裸?露出狂の変態。キモっ!」
彼の言葉は容易く僕の心を抉る。でも、泣いてはいけない。奏さんは僕が泣くのが好きではないから。僕は唇を噛み締めて立ち上がり、黙って服を着た。
その後一週間、僕は触れてもらえなかった。話しかけてももらえず、目も向けてもらえなかった。
無視をされると、実家を思い出した。存在しない者として扱われていた、あの辛い日々を思い出して、僕は胸がキリキリと痛んだ。


「イラマチオって言うんだ、あれ。」
一週間ぶりにかけてもらった最初の言葉はそれだった。久しぶりに声をかけてもらえた。ようやく無視が終わった。その事が嬉しくて、思わず微笑んだ。
「ごめんね。俺、今まで言ったことなかったんだけど、あれ、やってみたかったんだ。」
「ごめんなさい。できなくて。」
「いいよ。ユウトができないんだったら、無理にはしないよ。誰か、他の子とそれは楽しむから。やれる子、いっぱい知ってるし。セックスも、もういいよ、もう無理しなくて。他の子とやってくるね。」
「………。ご、ごめんなさい。」
僕は小さく呟いて俯き、その場に正座した。口をなるべく大きく開けた。
「なに?やるの?できるの?」
口を開けたまま僕が頷くと、僕の恋人は嬉しそうに笑って、頭撫でてくれた。
「ユウト、いい子だね。頑張り屋さんのユウトが大好きだよ。もう二度と、僕を失望させないでね。」


頭の芯がじんじんと痺れてぼうっとなる。涙とよだれがダラダラと僕の顎から首元を濡らし、身体の奥から込み上げる嘔吐感が限界に達した時に、彼は手を離した。
「ングホッ!ウェッ!!グェ!」
激しく咳き込みながらえずいていたら、平手で頬を軽く打たれた。慌てて正座し直し、口を開ける。
「脱がせろ。」
僕は正座の姿勢のまま手を上げて、彼のズボンのチャックを開け、そっとズボンを下ろし、パンツに手をかけてずり下げる。途中、大きく勃起した彼の性器に引っかかってもたついてしまい、また頬を打たれる。それほど強い痛みではないが、頬がじーんと熱くなる。涙がツーと頬を伝うが、この涙は生理的なものだ。喉を使われる時はいつも涙が出る。

僕は聳り立つ彼の性器の先を舌を使って丹念に舐め、それからそのまま竿とその奥の睾丸も丁寧に舐める。何度も何度も口付けをし、手で彼の尻の肉や太腿を優しくさすりながら性器全体を時間をかけて舐め上げる。
「手を床につけて舐めろ。」
「はい。」
手を床につけると必然的に頭の位置が下がり、首をグッと上げて背中を反らして下から舐める。
「もっとケツを上げろ。」
「はい。」
僕は膝を少し後ろにずらして背中を更に反りお尻を上げる。苦しい体勢で疲れるけれど、彼が望むならどんな姿勢にもなる。バシッと音がしてお尻に痛みが走る。何かでお尻を叩かれたのだとワンテンポ遅れて理解すると同時にまたバシッと叩かれる。痛みはそれほど強くはない。
僕はそのまま口の中に彼の性器を含み、吸い付くように何度か頭を動かす。ここからが苦しい。口を大きく開けて、彼の性器を喉の奥まで受け入れる。えずきそうになるのを必死で堪えて、喉の奥に深く性器を突き刺し、そのまま喉を締めて耐える。喉が異物を排除しようとグェッグェッと小さく動き、その間も舌を絶えず動かして性器の下を舐める。
「もっと奥だ。」
彼はそう言うと僕の髪を掴んで彼の下腹部に押し付ける。反射的に手が彼の太腿を押して身体を離そうとして、そうしない為に僕は彼の太腿に抱きつく。
「手、床だろ!」
そう言って更に強く頭を押さえつけられて、僕は手を床につけようとするが苦しくてどうしても床につけられず、手は何かを求めるように宙を彷徨う。涙と涎で顔はぐしょぐしょだ。強く頭を抑えつけられているせいで、鼻が半分塞がれていて更に酸素が取り込めなくなり、酸欠で頭がぼうっとする。
「フグッ!グェ!グェ!ンゴー」
僕の喉の奥からは絶えず小さな音が漏れる。胃液と涎がダラダラと顎を伝う。もう気を失うかも、そう思った時に手が離され、僕は口の中の性器を吐き出して咳き込む。しばらく咳き込んでいると、急かすように頬を平手打ちされまた性器を口に含む。次はもっと深く、もっと長く。
「目を上げろ!」
僕は苦しくて苦しくて下半身をのたうたせながらも彼を見上げる。見下ろす彼の目の中に、ほんの少しでも優しさや愛情がないか、探すように彼の目を見つめる。彼はにっこりと微笑んでくれる。

ああ、彼が僕に笑いかけてくれる。この笑顔のために、僕はどんなに痛い事も苦しい事も我慢する。蹲ってえずいては四つ這いに戻って性器を咥え、堪えられずまたえずいては平手打ちされる。
何度目かの平手打ちに、四つ這いに姿勢を正してまた口を開け、自分から身体を前に動かし彼の性器を更に深く、喉の奥に突き刺す。彼は僕の髪を掴んで乱暴に腰を打ちつけ僕の喉を突き上げる。痛みで意識が飛びそうになった頃に彼が喉の奥に射精し、僕は溢れないように注意してそれを嚥下する。生臭い匂いと味に身体が反射的に吐きそうになるのを必死で堪えて飲み込む。全部飲み込んだら、床に手をついて四つ這いの姿勢のまま、丁寧に彼の性器を舐める。頬を窄ませて吸い上げ、僕の涎や彼自身の精液で汚れた彼の性器を舌を使って掃除する。

「よく出来たね。いい子。」

全部終わると彼は頭を撫でてくれる。僕は涙でぼうっとなった目で彼を見上げる。ああ、奏さん。奏さんがふわりと笑うと、頬に笑窪ができる。薄い唇が少し空いて、舌が見える。奏さんにキスしたい。奏さん、好き。愛してください。僕を見てください。何でもするから。何をしても良いから。だから、僕を嫌いにならないで。
「ンクッ!ああ!」
きゅっと乳首をつねり上げられて、思わず声を漏らす。
「キスして。キスして下さい。」
「嫌だよ、涎でぐちゃぐちゃに汚れてるから。」
そのまま乳首を引っ張りあげられて、僕は慌てて立ち上がる。足が痺れて力が入らないけれど、彼はお構いなしに僕の乳首を引っ張って僕をキッチンの流しまで行かせる。乳首で身体を動かされる屈辱感に頬が赤くなる。
僕は流しの水道を上げて水を出し、汚れた顔を洗う。そのまま彼の方に向き直ってキスをしようとしたけれど、彼にくるりと身体を回されてまた流しに向かう。両足の間に足を入れられて軽く蹴られ、僕は足を広げて立つ。今度は後ろの穴を使いたいって事だ。そう理解して足を少し後ろにずらし広く開け、前屈みになってお尻を突き出す姿勢になる。
「自分の指でやれよ。」
最近彼は、指で愛撫してくれなくなった。ちゃんと丁寧に洗って準備しても、それでも汚いと言って後ろの穴には触れてくれなくなった。彼と付き合い出してから毎朝、僕はシャワーに入る時にお尻の穴の中にシャワーの水を入れて、そこを丁寧に洗うようにしているけれど、やはりもともと排泄器官であるそこは綺麗とは言えない。僕は指を舐めてから自分の肛門に入れてほぐす。
「ローション、取ってきても良い?」
「だめ、今ここでその姿勢のままやって。じゃなきゃもうやらない。」
僕は諦めて、右手の指をさらに舐めて涎をつけ、屈み込んで自らのお尻の穴に指を入れる。左手の指にも涎を垂らしてお尻の穴に何度も涎を擦り付け、両手の指を穴の中に差し込んで広げるように中から穴を擦る。
「ローションなしならせめて、挿れる前に僕の口で舐めさせて。乾いてると擦れて痛いんだ。」
お尻の穴を自分の指で解しながら頼んでみる。平手でお尻をバシッと叩かれて、それが返事だと理解する。
乱暴に手首を掴まれて、穴の中に入れていた指が内壁を引っ掻き痛みで顔を顰める。
「あっ!まだ…」
そのまま両手を一纏めに背中の上で掴まれ、頭を押されてグッと流しに突っ込むように下げられる。
「その姿勢のままでいろ。」
彼が手を離しても、僕は後ろ手に縛られたかのように手を後ろに回したまま、頭を下げて流し台に肩をついて身体をなんとか支える。後ろの穴に彼の性器の先があてがわれ、グイッと強引に穴を押し広げて挿入される。痛みで頭がぼうっとなり、歯を食いしばる。力を抜かないと。大きく呼吸しながらなんとか肩で身体を支え、力を抜くように努力する。グイグイと腸の内壁を押し広げて彼の性器が僕のお腹の中に入ってくる。手は後ろに回したままだ。彼が僕のお腹の中を掻き回すたびに、ビクビクと身体が震える。
「はぁ、はぁ、んぁ!」
「気持ち良いか?」
「うん。」
「うん?気持ち良いです、だろ!」
そう言われてお尻をバシッバシッと叩かれて、僕は慌てて言い直す。
「気持ち良いです。ありがとう。」
でも僕は分からない。気持ち良いってどういうことなんだろう。これが気持ち良いって事なのかな。
身体を内側から掻き回される感覚。抜き差しされる度に、腸を引き摺り出されてまた押し込められるような。これが気持ち良いって事なんだろうか。でも、セックスの時、ほんの少しだけ優しく身体を触ってもらえる時がある。その時は胸が温かくなって、お腹の下の方が疼くような感覚になる。キスしてもらえたらもっと嬉しくて、お腹がムズムズする。何より、セックスしている時は、彼は僕をたくさん見てくれて、僕は自分がこの世界に存在しても良いのだと思える。乱暴に、痛い事や苦しい事をされても、彼が気持ち良くなってるのを見たら、僕は彼の役に立ってると思える。彼に身体を使ってもらえる時だけ、ほんの少し僕は自分の身体が好きになれる。それがきっと、気持ち良いって事なんだろう。それで良い。それだけで良い。僕にはもったいないくらい幸せだ。

パンッパンッと乾いた音をたてて彼は激しく僕に腰を打ちつけ、手を後ろに回したままの僕は流し台や水道の蛇口に肩や頭をガンガンと打ち当てられ痛い。時々平手でお尻をバシッと叩かれて、そんなに強く打擲されているわけではないが、何度も叩かれると痛みが重なる。お尻の穴も擦れて痛い。全身が痛む。涙が滲むけど、でも僕は幸せ。幸せだ。
「痛いと気持ち良いは同じなんだよ。」
そう彼が教えてくれたから。

彼は僕の中で射精すると、フゥ、と満足げにため息を吐き僕の中から出た。
「床に溢したら舐めさせるからな。締めとけよ。」
「はい。」
僕は彼の性液が溢れないよう肛門の筋肉に力を入れながら、彼の方を向いて床に膝を付き、僕の中から出たばかりの彼の性器を丁寧に舐めて舌で掃除する。彼の性器は僕の中の匂いがして、僕の喉はまたもやえずきはじめ、嘔吐感が込み上げて痙攣するが、僕は構わずそれを抑え込んで彼の性器をしっかりと口に含み舐め上げる。もういい、と軽く肩を押されて合図されるまで、いつまでも舐める。
安堵感と身体の疲労で、僕は放心したように床にぺたん座り込み、ぼうっと彼を見上げる。
「気持ち良かったよ、ユウト。ユウトの身体は最高。好きだよ。足にキスして。」
僕はそれだけで嬉しくなって、土下座のような格好で彼の足の甲に唇をつける。
「この角度のユウト、最高。可愛い。」
そう言われると、何度も何度も足にキスをする。
「服を着せてあげる。」
僕はそう言うと肛門の筋肉を緊張させたまま彼のズボンとパンツを取りにいき、跪いて彼に服を着せる。もっと喜んで欲しい。もっと好きになって欲しい。
僕は全裸のまま、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを出してグラスに注ぎ、彼に手渡す。
「サンキュー。シャワー浴びてこいよ。」
彼はそう言うとリビングのソファに向かった。
彼がソファに座って寛ぐのを見てから、僕はシャワーを浴びた。シャワーを浴びながら、僕は自分の性器を自分の手で慰める。彼が僕の性器に触ってくれる事は少ない。僕は慣れた手つきで自分を射精に導く。感情のない、ただの排泄行為のような反復運動。僕は涙が出るのを感じないようにするために、シャワーの湯を顔にかけながら性器を手で動かす。射精の時、涙が出るのは生理現象なのだろう。
それから、指を肛門に突っ込んで中のものを掻き出す。ダラダラと足を伝う彼の性液をシャワーで洗い流し、そこに血が混ざっている事に見ないフリをする。痛みを堪えて最後まで掻き出し、軽く身体を洗って、シャワーを出た。


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