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マグカップ
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それから、僕は陸杜と何度もSEXをした。陸杜が僕の働くバーに来たり、僕が陸杜に連絡して彼の部屋に行ったりした。彼と身体を重ねるたび、僕は自分と悠が本当にヤリ友だったという錯覚に浸れた。僕は悠が好きなのではなく、SEXが好きだったのだと思い込めた。
彼は僕のお願い通り、痛い位に激しくしてくれた。僕は陸杜の上に跨り、狂ったように腰を振った。擦れて痛くなっても構わずに奥深くまで打ちつけるように挿れられると、頭が空っぽになれた。
「痛いのが好きなの?」
陸杜に聞かれて初めて、僕は自分が痛いのが好きなのか考えた。
「たぶん、違う。別に痛いのが好きって訳じゃない。ただ、何も考えられなくなりたいんだ。」
「ユウって人の事を考えないように?」
「え?」
「え?むしろ、え?時々ユウ!って口走ってるけど?気付いてなかった?」
僕は驚き、そして自己嫌悪で吐き気がした。最低だ。
謝るのも最低だと思い黙って俯いていると、陸杜は駅で見せてくれたような穏やかな微笑みを浮かべた。
「そんな顔しないでよ。気にしてないから。本当に、嘘じゃなく、気にしてない。オレもね、いろんな事、考えたくなくてSEXしたくなるんだから。お互い様。」
それでも僕は陸杜の顔を見られなかった。陸杜はしばらく携帯を触っていた後、大きく伸びをして
「ワイン、飲まない?オレ、ワイン苦手なんだよね。会社のゴルフコンペの景品。」
と言いながら冷蔵庫からワインボトルを取り出して、マグカップと一緒に栓を抜いてベッドまで持ってきた。
「ワインなんて飲まないから栓抜くヤツ無いって言ったらさ、なんかワイン通のヤツが持ってたから抜いてもらったんだ、ゴルフ場で。そいつ、いつも持ち歩いてんだって、ソムリエが持ってるのとおんなじヤツ。」
茶化すように笑って、マグカップになみなみとワインを注いでくれた。
「ワイングラスとかも無いからさ、これで良いでしょ。」
「うん。」
僕は悠の家の乾杯するとキレイな音がする大きなワイングラスを思い浮かべた。
マグカップで飲む赤ワインは、冷え過ぎていて渋かったけど、美味しかった。
「悠はね、たぶん持ってる、ソムリエと同じヤツ。持ち歩いてるかは知らないけど。乾杯するとキーンッて高い音がする大きなワイングラスもあった。お誕生日とかクリスマスとかじゃなくてもさ、ワイン飲むんだ。そんなに高くないけど美味しいワインを知っててね。アンチョビの入ったポテトサラダとか、魚のマリネとか。そういうのをササっと作るんだ。」
「うん。良いよね、そういう子。好きになるの、分かるな。」
「うん。好きだった。」
「別れたの?」
「付き合ってもなかった。好きってのも、言えなかった。」
「そっか。」
僕はマグカップでグビグビと赤ワインを飲んだ。
「へへへ、僕さ、痛いのが好きだったのかもね。昔から、痛いのには強かったんだ。なんかさ、痛いのよりも、痛いのがくるかもって時が一番嫌でさ。
あー、なんか、可笑しくなってきた。
はは、はははは。
僕ね、お金無いんだ。時々めちゃくちゃ不安になる。貯金、10万円も無いの。
はははは。もう26なのにさ、あ、もうすぐ27だ。お金さ、余るとすぐ使っちゃうからさ~。
でも、痛いの好きだったら、お金に困ったらSMクラブで働こうかな。」
「SM?好きなの?」
「見た事ない。」
「男の需要無さそうだけど、SMクラブ。」「え?そうなの?」
「ふはは!何も分かってないじゃん!」
ワインを1本飲み終えた頃には、僕はすっかり楽しくなった。
「オレ、もうちょいビール飲みたくなってきた。ワインも無いじゃん。コンビニ行こ!」
「うん。」
僕たちはゲラゲラと笑いながら手を繋いでコンビニに行き、酒と乾き物のつまみを買い込んだ。ジロジロと眺める好奇心を隠さない店員の目線に、陸杜はレジの前で僕にキスをして挑発した。
「なに?ケツ掘られたいの?混ぜてやっても良いよ、3Pする?まあ顔は全く好みじゃねーけど、目つむれば何とかヤレるよ?」
陸杜は若い店員を睨みつけ、僕は驚いてしまったが内心いい気味だと思った。
コンビニを出ると、僕は鼻歌を歌いながらスキップした。こんなに楽しい気持ちになったのは久しぶりだった。
「あーー!やめて!ねえ、葉ちゃんヤバい!笑い死ぬ!!葉ちゃんスキップ、ド下手ーー!やめてー、笑い過ぎておしっこ漏れちゃう。」
陸杜はゲラゲラ笑った。
それから、僕たちは浴びるように酒を飲んだ。入社して1、2年の頃よりは幾分マシになったとはいえ、まだたまに吃る時があったけれど、酒を飲むとそれも気にならなくなった。
陸杜のアパートの部屋の天井は真っ白で、海の底を思い出さずにすんだ。
気付いたら朝で、僕はベッドの下の床で寝ていた。陸杜はその隣で、ベッドに頭だけ預けて座って寝ていた。僕は陸杜を起こさないように静かに立ち上がり、部屋を出た。
土曜日の午前中に外を歩くのも、久しぶりだった。悠に会いたい、強くそう思った。でも、そのうち僕は悠を忘れるのかも知れない。会いたいと思う人に会えない事に、僕はまた慣れていくのだろう。
だったら早く慣れたい。
いっそもう、誰の事も会いたいと思わなくなれば良い。
駅まで来て、そこにATMを見つけると、僕はもう我慢できなくなった。苦しいわけじゃない。でも…
僕はATMに入り、財布の中の札を全部入金した。
○○銀行〇〇支店。
普通預金。
502638
マツバラミスズ
もう、母に会いたいとは思わなかった。
それならなぜ、時々憑かれたように入金してしまうのだろうか。
僕には分からなかった。
僕にとって生きる事は、分からない事ばかりだった。
彼は僕のお願い通り、痛い位に激しくしてくれた。僕は陸杜の上に跨り、狂ったように腰を振った。擦れて痛くなっても構わずに奥深くまで打ちつけるように挿れられると、頭が空っぽになれた。
「痛いのが好きなの?」
陸杜に聞かれて初めて、僕は自分が痛いのが好きなのか考えた。
「たぶん、違う。別に痛いのが好きって訳じゃない。ただ、何も考えられなくなりたいんだ。」
「ユウって人の事を考えないように?」
「え?」
「え?むしろ、え?時々ユウ!って口走ってるけど?気付いてなかった?」
僕は驚き、そして自己嫌悪で吐き気がした。最低だ。
謝るのも最低だと思い黙って俯いていると、陸杜は駅で見せてくれたような穏やかな微笑みを浮かべた。
「そんな顔しないでよ。気にしてないから。本当に、嘘じゃなく、気にしてない。オレもね、いろんな事、考えたくなくてSEXしたくなるんだから。お互い様。」
それでも僕は陸杜の顔を見られなかった。陸杜はしばらく携帯を触っていた後、大きく伸びをして
「ワイン、飲まない?オレ、ワイン苦手なんだよね。会社のゴルフコンペの景品。」
と言いながら冷蔵庫からワインボトルを取り出して、マグカップと一緒に栓を抜いてベッドまで持ってきた。
「ワインなんて飲まないから栓抜くヤツ無いって言ったらさ、なんかワイン通のヤツが持ってたから抜いてもらったんだ、ゴルフ場で。そいつ、いつも持ち歩いてんだって、ソムリエが持ってるのとおんなじヤツ。」
茶化すように笑って、マグカップになみなみとワインを注いでくれた。
「ワイングラスとかも無いからさ、これで良いでしょ。」
「うん。」
僕は悠の家の乾杯するとキレイな音がする大きなワイングラスを思い浮かべた。
マグカップで飲む赤ワインは、冷え過ぎていて渋かったけど、美味しかった。
「悠はね、たぶん持ってる、ソムリエと同じヤツ。持ち歩いてるかは知らないけど。乾杯するとキーンッて高い音がする大きなワイングラスもあった。お誕生日とかクリスマスとかじゃなくてもさ、ワイン飲むんだ。そんなに高くないけど美味しいワインを知っててね。アンチョビの入ったポテトサラダとか、魚のマリネとか。そういうのをササっと作るんだ。」
「うん。良いよね、そういう子。好きになるの、分かるな。」
「うん。好きだった。」
「別れたの?」
「付き合ってもなかった。好きってのも、言えなかった。」
「そっか。」
僕はマグカップでグビグビと赤ワインを飲んだ。
「へへへ、僕さ、痛いのが好きだったのかもね。昔から、痛いのには強かったんだ。なんかさ、痛いのよりも、痛いのがくるかもって時が一番嫌でさ。
あー、なんか、可笑しくなってきた。
はは、はははは。
僕ね、お金無いんだ。時々めちゃくちゃ不安になる。貯金、10万円も無いの。
はははは。もう26なのにさ、あ、もうすぐ27だ。お金さ、余るとすぐ使っちゃうからさ~。
でも、痛いの好きだったら、お金に困ったらSMクラブで働こうかな。」
「SM?好きなの?」
「見た事ない。」
「男の需要無さそうだけど、SMクラブ。」「え?そうなの?」
「ふはは!何も分かってないじゃん!」
ワインを1本飲み終えた頃には、僕はすっかり楽しくなった。
「オレ、もうちょいビール飲みたくなってきた。ワインも無いじゃん。コンビニ行こ!」
「うん。」
僕たちはゲラゲラと笑いながら手を繋いでコンビニに行き、酒と乾き物のつまみを買い込んだ。ジロジロと眺める好奇心を隠さない店員の目線に、陸杜はレジの前で僕にキスをして挑発した。
「なに?ケツ掘られたいの?混ぜてやっても良いよ、3Pする?まあ顔は全く好みじゃねーけど、目つむれば何とかヤレるよ?」
陸杜は若い店員を睨みつけ、僕は驚いてしまったが内心いい気味だと思った。
コンビニを出ると、僕は鼻歌を歌いながらスキップした。こんなに楽しい気持ちになったのは久しぶりだった。
「あーー!やめて!ねえ、葉ちゃんヤバい!笑い死ぬ!!葉ちゃんスキップ、ド下手ーー!やめてー、笑い過ぎておしっこ漏れちゃう。」
陸杜はゲラゲラ笑った。
それから、僕たちは浴びるように酒を飲んだ。入社して1、2年の頃よりは幾分マシになったとはいえ、まだたまに吃る時があったけれど、酒を飲むとそれも気にならなくなった。
陸杜のアパートの部屋の天井は真っ白で、海の底を思い出さずにすんだ。
気付いたら朝で、僕はベッドの下の床で寝ていた。陸杜はその隣で、ベッドに頭だけ預けて座って寝ていた。僕は陸杜を起こさないように静かに立ち上がり、部屋を出た。
土曜日の午前中に外を歩くのも、久しぶりだった。悠に会いたい、強くそう思った。でも、そのうち僕は悠を忘れるのかも知れない。会いたいと思う人に会えない事に、僕はまた慣れていくのだろう。
だったら早く慣れたい。
いっそもう、誰の事も会いたいと思わなくなれば良い。
駅まで来て、そこにATMを見つけると、僕はもう我慢できなくなった。苦しいわけじゃない。でも…
僕はATMに入り、財布の中の札を全部入金した。
○○銀行〇〇支店。
普通預金。
502638
マツバラミスズ
もう、母に会いたいとは思わなかった。
それならなぜ、時々憑かれたように入金してしまうのだろうか。
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僕にとって生きる事は、分からない事ばかりだった。
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