3 / 7
ペイン
しおりを挟む
ペイン、ごめんね。
本当にごめん。君にばかり辛い思いをさせて。
良いんだよ、ユーキ。ボクはそのために生まれてきたんだから。ボクはペイン。生まれつき痛みには強いんだよ。
でも…
こんなに打たれて。血も出てる。
大丈夫。
それよりさ、早くお話ししてよ。
ペインはボクの膝の上に頭を預けて、丸くなって寝ている。目を瞑り、ボクがお話をするのを待っている。
ボクは、とびきりのお話を語り始める。魔法使いと美しい猫の冒険。猫は、時に辛辣な物言いをするけれど、魔法使いの事を深く深く愛している。冒険の先には決まって両親との再会がある。囚われていた両親を救い出し、魔法で建てた大きな城に住む。もう誰も入ってこない、彼らだけの城。
ボクはペインの柔らかい髪を撫でる。
額にかかった、ゆるい癖のある髪を。ペインは傷が痛むのか、浅い呼吸を繰り返し、時折小さな呻き声をあげる。でも、ペインは決して泣かない。
だからボクは、お話を語りながら、涙が止まらない。ボクはペインのために泣く。ペインが苦しそうにうめき、ボクの手をギュッとつかむ。
ペイン、大丈夫?
うん、やめないで、おはなし。
小さな声でペインが言う。
ペイン、ごめんね。
ボクは何度も心の中で謝る。ボクが弱いから、ペインに何もかも押し付けて。
今度こそ、次こそ我慢して、ペインに頼らずに最後まで耐えようと思うのに、ボクは弱くて、すぐにダメになる。そうするとペインが来て、ボクのかわりに罰を受けてくれる。
ウィッピングボーイっていうんだよ。
ペインが言っていた。
昔、王子様が罰を受ける時、かわりに罰を受ける役。
ボクは王子様じゃないよ。
ドレイだよ。
そう背中に書いてあるでしょう?
そう言うと、ペインはニッコリ笑って言った。
ユーキは王子様だよ。
悪い奴らの陰謀で、今はドレイになっているだけ。
そんなのは嘘だってわかっているけど、嬉しかった。ペインだけは、ボクの事を昔と変わらず人間だと思ってくれているんだ。そう思うと少しだけ勇気が出た。
ボクはペインのためにお話を収集する。
ペインが出てきてボクのかわりに罰を受けてくれている間、ボクはお話しの世界に行く。そこで見聞きした事を、1つも逃さないように、ボクはペインに語って聞かせる。
素晴らしい役割分担じゃない?
とナースは言った。
ペインにとっての栄養はお話しなのよ。
だから、あなたは少しでもたくさんお話しを収集しなさい。
ナースはとても頼もしい。
たっぷりお話しを聞かせたら、ペインはそのうち静かな寝息をたてながら寝入った。浅かった呼吸も少し深くなる。
さあ交代ね。
ナースは言って、ボクはナースの指示に従う。
ナースはペインの体を見て、的確な指示をする。
今回は火傷がひどいわね。
まず冷やしたいけど。
冷凍庫から保冷剤を持ってきて、それとラップも。見つからないように気をつけて行くのよ。
サランラップをどう使うのかボクには分からないけど、言われた通りにする。
ナースは手早くTシャツを着せて、保冷剤をその上から火傷の患部に当てる。
っん…
ペインが顔を顰めて呻き声をあげる。
大丈夫よ。寝ていなさい。
楽になるからね。
ナースが優しく言う。
しばらく冷やすと、ナースはペインのTシャツをまくり、患部にラップを貼る。
ユーキ、保冷剤とラップをしまって、セロハンテープを持ってきて。場所、分かる?
うん、分かる。ボクがしまったから大丈夫。
ボクは慎重に部屋を出て、ラップを元あった場所にしまい、保冷剤を冷凍庫に入れる。セロハンテープを持って戻ると、ナースは新聞紙で鞭で打たれた切り傷を抑えて止血していた。ボクはナースの指示でラップをセロハンテープでとめる。
セロハンテープをしまって、最後はナースが子守唄を歌ってくれる。
ナースの子守唄はとても心地よい。
ボクはペインの横に寝転び、ペインの手をギュッと握って目を瞑る。ナースが僕たちに毛布をかけてくれる。
ボクはペインの痛みを思ってまた少し泣く。泣きながら、眠る。
本当にごめん。君にばかり辛い思いをさせて。
良いんだよ、ユーキ。ボクはそのために生まれてきたんだから。ボクはペイン。生まれつき痛みには強いんだよ。
でも…
こんなに打たれて。血も出てる。
大丈夫。
それよりさ、早くお話ししてよ。
ペインはボクの膝の上に頭を預けて、丸くなって寝ている。目を瞑り、ボクがお話をするのを待っている。
ボクは、とびきりのお話を語り始める。魔法使いと美しい猫の冒険。猫は、時に辛辣な物言いをするけれど、魔法使いの事を深く深く愛している。冒険の先には決まって両親との再会がある。囚われていた両親を救い出し、魔法で建てた大きな城に住む。もう誰も入ってこない、彼らだけの城。
ボクはペインの柔らかい髪を撫でる。
額にかかった、ゆるい癖のある髪を。ペインは傷が痛むのか、浅い呼吸を繰り返し、時折小さな呻き声をあげる。でも、ペインは決して泣かない。
だからボクは、お話を語りながら、涙が止まらない。ボクはペインのために泣く。ペインが苦しそうにうめき、ボクの手をギュッとつかむ。
ペイン、大丈夫?
うん、やめないで、おはなし。
小さな声でペインが言う。
ペイン、ごめんね。
ボクは何度も心の中で謝る。ボクが弱いから、ペインに何もかも押し付けて。
今度こそ、次こそ我慢して、ペインに頼らずに最後まで耐えようと思うのに、ボクは弱くて、すぐにダメになる。そうするとペインが来て、ボクのかわりに罰を受けてくれる。
ウィッピングボーイっていうんだよ。
ペインが言っていた。
昔、王子様が罰を受ける時、かわりに罰を受ける役。
ボクは王子様じゃないよ。
ドレイだよ。
そう背中に書いてあるでしょう?
そう言うと、ペインはニッコリ笑って言った。
ユーキは王子様だよ。
悪い奴らの陰謀で、今はドレイになっているだけ。
そんなのは嘘だってわかっているけど、嬉しかった。ペインだけは、ボクの事を昔と変わらず人間だと思ってくれているんだ。そう思うと少しだけ勇気が出た。
ボクはペインのためにお話を収集する。
ペインが出てきてボクのかわりに罰を受けてくれている間、ボクはお話しの世界に行く。そこで見聞きした事を、1つも逃さないように、ボクはペインに語って聞かせる。
素晴らしい役割分担じゃない?
とナースは言った。
ペインにとっての栄養はお話しなのよ。
だから、あなたは少しでもたくさんお話しを収集しなさい。
ナースはとても頼もしい。
たっぷりお話しを聞かせたら、ペインはそのうち静かな寝息をたてながら寝入った。浅かった呼吸も少し深くなる。
さあ交代ね。
ナースは言って、ボクはナースの指示に従う。
ナースはペインの体を見て、的確な指示をする。
今回は火傷がひどいわね。
まず冷やしたいけど。
冷凍庫から保冷剤を持ってきて、それとラップも。見つからないように気をつけて行くのよ。
サランラップをどう使うのかボクには分からないけど、言われた通りにする。
ナースは手早くTシャツを着せて、保冷剤をその上から火傷の患部に当てる。
っん…
ペインが顔を顰めて呻き声をあげる。
大丈夫よ。寝ていなさい。
楽になるからね。
ナースが優しく言う。
しばらく冷やすと、ナースはペインのTシャツをまくり、患部にラップを貼る。
ユーキ、保冷剤とラップをしまって、セロハンテープを持ってきて。場所、分かる?
うん、分かる。ボクがしまったから大丈夫。
ボクは慎重に部屋を出て、ラップを元あった場所にしまい、保冷剤を冷凍庫に入れる。セロハンテープを持って戻ると、ナースは新聞紙で鞭で打たれた切り傷を抑えて止血していた。ボクはナースの指示でラップをセロハンテープでとめる。
セロハンテープをしまって、最後はナースが子守唄を歌ってくれる。
ナースの子守唄はとても心地よい。
ボクはペインの横に寝転び、ペインの手をギュッと握って目を瞑る。ナースが僕たちに毛布をかけてくれる。
ボクはペインの痛みを思ってまた少し泣く。泣きながら、眠る。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
徹夜でレポート間に合わせて寝落ちしたら……
紫藤百零
大衆娯楽
トイレに間に合いませんでしたorz
徹夜で書き上げたレポートを提出し、そのまま眠りについた澪理。目覚めた時には尿意が限界ギリギリに。少しでも動けば漏らしてしまう大ピンチ!
望む場所はすぐ側なのになかなか辿り着けないジレンマ。
刻一刻と高まる尿意と戦う澪理の結末はいかに。
3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた
ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。
俺が変わったのか……
地元が変わったのか……
主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。
※他Web小説サイトで連載していた作品です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる