救い

ken

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早朝

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「てめーすぐ電話でろよこのクソガキが!!殺すぞ!サッサと部屋の鍵開けろよ!ぶっ飛ばすからな!!」

突然電話口で怒鳴りつけられ、眠気で朦朧とした頭がスッと冷えて飛び起きる。痛む身体を引きずるようにすぐにホテルのドアを開けると、思い切り髪を掴まれて頭を壁に打ち付けられる。
「ごめ!ごめんなさい!寝てて、気付かなくて…ごめんなさい!」
ぼくは慌てて土下座して謝る。
送迎のバイトの人のなかで大学生の森田さんは一番怖い。特にこの時間は残業させられているからすこぶる機嫌が悪い。
「電話には3コール以内で出る、基本だろ!ガキだからって甘ったれるんじゃねー!金もらってんだろうが!」
「ごめんなさい。すみません。」
頭を踏みつけられながら謝る。
「サッサと着替えろよ!あ、その前に身体の写真、店長に送るから。脱げよ。」
ぼくはすぐにバスローブを脱ぎ捨て、全裸で立ち尽くす。森田さんは携帯で素早く写真を撮る。
「後ろ向けよサッサと!」
蹴り付けられて慌て後ろを向き、それから足を開いて屈み尻を突き出し、自分の手で尻たぶを掴んで精一杯広げて肛門を見せる。
「チェッ!きめー!」
「………ごめんなさい…」
全ての写真を撮り終えると森田さんはぼくを蹴り付け、僕は急いで服を着る。モタモタしているとさらに暴力を振るわれるため、必死に身体を動かす。
「きったね~身体だな、反吐が出る。おい、ケツの文字まだ消えてねーぞ。まじで、まだ中学生なのにもうゴミだなオマエの人生。」
罵られる言葉に、もういちいち傷ついたりはしない。森田さんの言う通りだ。ぼくの人生はもうたぶん、ゴミ。でもぼくにはどうする事もできない。ゴミはゴミらしく、毎日をなんとか蹴り飛ばされながら生き抜くしかない。
「5分で来なかったら、置いてくからな。」

置いて行かれたら家まで歩いて帰らないといけなくなる。ぼくは言う事を聞いてくれない身体を奮い立たせて素早く動こうとなんとか努力する。足を動かす度に腰がガクガクとするし、肛門とその中がジクジクと痛む。店長がぼくの身体の写真を見て、2、3日休ませてくれると良いな。せめて今日だけでも。

後ろの席に制服を着た女の人が寝転んでいて、ぼくは仕方なく助手席に座る。機嫌が悪いとビンタされたり小突かれたりするから、森田さんの横にはなるべく座りたくなかったけれど、どうしようもない。
「おっせーな。」
「すみません。」
車が動き出してすぐに携帯が鳴って、森田さんの口調から電話の相手が店長だと分かると、ぼくは全身が耳になったような気持ちで森田さんと店長の会話を聞こうと身じろぎもせずに集中する。
「はい、はい、あー、たぶん。はい。替わりますか?」
ぼくは緊張して喉がカラカラになる。あまり大袈裟に言い過ぎるとサボりたいだけだと思われる。でも、あまり言わないと大丈夫だと判断される。冷静に、冷静に。ぼくはゴクリと唾を飲み込む。
「酷くされたのか?」
「……はい。」
「何回入れられた?」
「たぶん…20回以上…」
「鞭は?」
「背中とお尻に。100回ずつ…です。」
「バラ鞭?一本?」
「ほ、細い…痛いやつ…」
「あー、乗馬鞭?」
「違います。なんか、もっと細い…ワイヤーのやつで、初めてのやつで…
め、めちゃくちゃ痛かったんです。血も出てきて。」
「あーワイヤーか。チェッ!やられないようにしろよ!少しは頭使えよ!」
「すみません。」
「尻は?血は?」
「もう止まりました。」
「森田、裂けてた?」
「あー裂けてたかも知れないっすね。」
「チェッ!使えねーやつだな!
てめー自分の立場分かってる?毎日働かないと借金どんどん増えてってるんだろーが!」
「はい、分かってます。すみません。」
「分かってますじゃねーよ!!あ?
てめー、母ちゃんボコボコにするぞ!?え?良いのか?」
「いや!あ、いや、それは…やめて下さい…すみません…
は、働きます。今日も。ちゃんと…」
「うまく立ち回ってケツの穴傷つけられねーよーにしろよ!このクズが!てめーの尻の穴は何の為にあるんだ?あ?」
「え、あ、えーと…」
「何の為だって聞いてるんだよ!!」
「あ、あの、仕事の為です。」
「そーだろーがよ!てめーの尻は穴に突っ込まれて男の精子搾り取る為にあるんだろ?なあ!口も!客の出したもん飲み込むだけの為の身体だろーが!違うのか!?」
「はい、そうです。」
「商売道具傷つけられて、どうやって稼ぐんだよ!?あ?」
「ごめんなさい。」
「いつまでも子ども気分で甘ったれてんじゃねーよ!」
「はい。ごめんなさい。」
「今日は学校休んで寝てろ。夕方には迎えに行くから。休めると思うなよ!」
「はい…」

ああ、辛いな。
ぼくは空を見上げて心を空っぽにする。涙はもう出ない。この一年で、とっくに枯れてしまった。
こんな辛い世界は、早く終われば良いのに。早くぼくの身体がなくなれば良いのに。でも、何を願っても、叶う事はないってもう知っている。
ぼくはアパートに帰って、痛む身体を丸めて眠る。お腹が空いた。昨日の給食が最後の食事だった。夕方待機室で高校生のお姉さんにポッキーをもらった。それだけ。お腹は空いたけれど、でも何かを食べたら吐いてしまいそうだ。お母さんはいない。夜通し遊んで、どこかのホテルでホストの男の人とSEXをしているのだろうか。お母さん、ぼく、身体中が痛いよ。頭を撫でて欲しい。でもお母さんが最後にぼくの頭を撫でてくれたのは、たぶん小学生の低学年の時。お父さんが死んでからは、お母さんはぼくに興味を無くしたようだ。辛いよ、お母さん。ホストクラブ、行くのやめてくれないかな。無理だろうな。
夕方まで、何も考えずにただ眠る。
傷ついた、弱い獣のように。

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