『スキルの素』を3つ選べって言うけど、早いもの勝ちで余りモノしか残っていませんでした。※チートスキルを生み出してバカにした奴らを見返します

ヒゲ抜き地蔵

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第3章

第73話 成長

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  ◇ 【エンツォ視点】

 ——5月6日 深夜3時頃 魔王の屋敷(タクミが未整備地区に入った翌日)
 
『トルルルルル、トルルルルル……』

 誰だこんな時間に『携帯念話機』をかけてくるヤツは。
 タクミか……トラブルでもあったのか?
 
『エンツォさん、遅くなりましたが約束のレベル60を超えました!』

『今何時だと思ってるんだ…… まさか寝ずに戦い続けていたのか?』

『はい。徹夜するつもりはなかったんですけど……いろいろあってキラーアントの巣に落ちてしまって、それからキラーアントの大群とずっと戦ってました。今やっと巣を殲滅したところです』

『……今、なんて言った? 殲滅したと聞こえたが』

 キラーアントの巣を殲滅?
 魔蟲と呼ばれる種類の魔物で、蟻と同じ生態でとにかく硬く獰猛なやつらだ。
 キラーアントは下がCランク、女王の護衛蟻になるとSランクになる。
 地面の下に広大な巣を作り、どんな小さな巣でもキラーアントが1000匹以上いると言われている。
 
『ええ。クズハがいなければ死んでました。女王蟻とその護衛蟻が強いのなんのって結構危なかったです。けど苦労した甲斐あってレベルは71になりました』

『……な、71だと!? 本当に巣のキラーアント全てを殲滅したのか……わかった。とにかく一度こっちに戻ってこい。そしてゆっくり休め。女王はSランクのはずだ。魔石は壊さずとってあるな? それは渡してもらうぞ』

『大丈夫です。Sランクの魔石は全てとってあります。えーっと、13個ありますね。あっ、クズハに意思疎通とれるか確認してもらって、ダメなヤツだけ倒してます。だからエンツォさんの知り合いはいないと思います』

『……わかった。もういい。気をつけて戻ってこい』

 九尾が1匹増えたところで、キラーアントの巣を殲滅などできるはずがない。
 さらにSランクの魔石13個だと!
 女王と護衛の蟻を合わせて10個ぐらいはあるだろう。
 ……その他にもSランクを3体倒したというのか?
 オレと分かれてから何があったのだ。

 倒した魔物も気になるところだが……それより、あのクズハと名付けられた九尾だな。
 言葉がしゃべられるだけでもおかしかったが、人族の姿に化けたときの服装は、我らが見たこともないものだった。
 そんなことはあり得ぬ。
 あのとき九尾に何かできるとしたらミアだけか……おまえは一体何をしたのだ?

 ◇ 【タクミ視点】

「よし、エンツォさんに連絡終了。じゃあ帰ろうか」

「そうですね。さすがに疲れました。けど、お家に帰るまでが遠足なので、最後まで気を抜かないようにいきましょう!」

 ミアの言葉を聞いて、クズハが急に大人しくなり耳もペタンと垂れ下がっている。

「どうした? まさかキラーアントの巣に落ちたときのことを気にしているのか? あれは気にすることはないぞ」

 キラーアントの巣は、蟻の巣と同じく地面の下に深く広がっていた。
 通路の直径が2メートルから5メートルぐらいもあり、クズハは移動中にうっかり巣の入り口から落ちてしまったのだ。

「そうだよ。クーちゃん、人の姿になってまだ慣れてないんだから。それに、ここを狩り場にしようって言い出したのはタクミだからね」

「あ、あれはだな……アラクネのときのように、狭い通路なら絶好の狩り場になると思ったんだ。まさか蟻のくせに罠や魔法まで使ってくるとは思わないよね?」

 クズハが首を横にプルプルと振る。
 そして俺の胸にジャンプしてしがみつく。
 
「違うんでありんす。ワッチはみんなとお別れするのが悲しゅうて……寂しいんでありんす」

 ん? なんでお別れなんだ?

「あっ、クーちゃんはわたし達が帰るって言ったから、ここでお別れと思ったんですね。ふっふふふ。クーちゃんももちろん一緒に帰るんだよ。……もしかして、ここから出られない理由があるの?」
 
 クズハの耳がピーンっと立つ。

「ワッチも付いていって、いいんでありんすか? やったー!」

 俺の胸から飛び降り、ぴょんびょん跳ねながら万歳を繰り返す。
 なるほど置いてかれると思ったわけか。
 そんな危険なこと……いや、可哀想なことができるわけない。
 魔王も責任もって面倒見ろって言ってたからな。
 野放しにしたら絶対怒られる。

「スキルを開発した区画まで戻って、あそこに『移動式魔法陣』を設置しよう。あの区画は魔物が湧かなかったはずだ」

 俺達は魔王の屋敷へ戻ることにした。

 ◇

 ——魔王の屋敷に置いてある『移動式魔法陣』へ、ゴンヒルリム経由で転送してきた。
 部屋の時計を見ると4時だった。

 メイドに応接室へ案内された。
 クズハは部屋の中をウロウロと見て回っている。生まれて初めて見るものが多いのだろう。
 椅子に座って待っているとドアが開き、魔王が入ってきた。

「……その雰囲気は本当にレベルが71になったようだな。クズハも少し大きくなってないか?」

 へ? ……本当だ、8歳児ぐらいなっている。

「もしかして、タクミは気づいていなかったんですか?」

 ヤバい。そんなわかりやすい表情してしまったのか。
 言い訳をするつもりはないが、髪形と服装がずっと同じなんだ。
 しかも徐々に大きくなるからわかり辛い。

「ごめん。疲れが顔に出ていたか。ちゃんと気づいていたさ。妖術の使える回数が増えていることも知ってるよ。それよりもエンツォさん、これからの予定はどうなりますか?」

 クズハを撫でると、嬉しそうに笑う。
 ミアがジト目で見てくるが気にしない。

「今日にはカルラもアレッサンドロと合流できるはずだ。どうも嫌な予感がするのだ。カルラから連絡が入り次第、おまえ達はカルラの元へ合流してもらう。そしてアイツらをここに転送させてくれ。だからそれまでは、とにかく休め」

 良かった。正直身体が限界だっ……た……

「おまえ達と別れた後、オレにも急用が入ってな。治療に夜までかかったのだ。後で…… くっくくく。相当疲れていたようだな。今はしっかり休め。……クズハ、コラ、起こすな。おまえ、なんで目がそんなにランランとしているのだ。くっ、このオレが直々に屋敷を案内してやるからついてこい。……お菓子もあるぞ」

 こうして俺達は魔王との約束を無事達成できたのであった。
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