『スキルの素』を3つ選べって言うけど、早いもの勝ちで余りモノしか残っていませんでした。※チートスキルを生み出してバカにした奴らを見返します

ヒゲ抜き地蔵

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第3章

第55話 魔都『ゾフ』

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 ――魔都『ゾフ』

 俺達は、アーサーたちと別れた翌日の昼には、魔族唯一の街『ゾフ』に着いた。
 地理的には、この大陸を時計に見立てて12時から2時まであたりが魔族領になる。
 魔族は基本的に50人規模の集落で暮らす。
 ただし例外がある。それが魔都『ゾフ』だ。
 カルラの話だと、ここには1万人ぐらいの魔族が暮らしているらしい。

 街の規模は、人族の王都メルキドと比べて遙かに小さいが、魔道具はこちらの方が多く目にする。
 魔族なら軽トラックみたいな魔道具も作れそうだが大掛かりなものは見かけない。過去の過ちを防ぐため自重しているのかもしれない。

 その場合、ドワーフ族と交流が始まった後、少し心配だ。
 ドワーフ族の物作りにかけるパワーはすごい。
 それに引きずられて魔族が暴走しないよう、カルラには気をつけてもらおう。

 俺達はドラゴンを降りてから、魔王の住む屋敷へと向かっている。
 その途中、通りすがりの魔族はまずカルラとゲイルを見て安堵し、俺とミアに対しては憎悪の眼差しを向けてくる。
 どうやら、カルラが攫われ人族の手によって処刑されそうになったことは、この街中に広まっているらしい。

「おい、なんでここに人族がいる。オレたちと勝負をしろ!」

 なかには絡んでくる奴もいる。

「やめろ。彼はカルラ様とオレを助けてくれた恩人だ。彼がいなければ俺達は殺されていた。それに、今は時間がないのだ」

「ゲイル様のお役に立った? ご冗談はお止めください。嘘じゃないならかかってこいよ」
「オレたちは騙されんぞ。おまえのような人族が、ゲイル様の窮地を助けるなど出来るはずがない」
「救ったというなら、その力を見せてみろ。貴様、オレと戦え」

 ゲイルの一声で今までの奴らは大人しく引き下がった。
 この魔族の若者四人組は意外としぶとい。
 ゲームじゃないんだから、街中でバトルを挑んでくるなよ。
 しかも王女の連れにケンカ売るとか、どうなってるんだ。

「タクミよ。どうする?」

 ……ゲイル。そこは「どうする?」じゃなくて、あいつらを注意するところだろ。
 カルラも何か期待した目で俺を見ているし。
 俺は魔族の戦闘狂さ加減を甘く見ていたようだ。
 
「やめておくよ。どうしてもというのなら、勝負の決着は相手を殺すまでだ」
 
 カルラとゲイルは絶句し、顔を青くする。
 俺が冗談じゃなく、本気で言ってることがわかったからだ。

 当たり前だ。
 相手の方がレベルは高くて戦闘経験が豊富。
 俺は装備がチートなだけの素人だ。
 手足を切るか、殺す以外に勝ち道なんてない。

「おい、なめるなよ。そんなこけおどしでビビると思ったか!」

 あおられたと勘違いしたようだ。
 俺に勝負を持ちかけた男が、そのまま詰め寄ってくる。
 その瞬間、ゲイルが突如魔族の男の腹を蹴り、遠くへ吹っ飛ばす。
 男は地面に転がりピクピクしている。

「た、タクミよ。すまなかった。ちょっとした力比べというか、魔族では挨拶みたいなものだったのだ。カルラ様が連れてきた人族がどれだけ強いのか見たかったのだと思う」

「それにしては、ものすごい言いがかりでしたけど……」

 ミアもびっくりしたようだ。

「あれは力比べをするときの、決まり文句みたいなものだ。本気で言っている訳ではないのだ」

 魔族だとバトルはコミュニケーションの一環かもしれんが、俺とミアには通じない。
 まだ警戒しているオレに、ゲイルは頭を下げる。

「悪かった。オレが安全を保証する。だからそれを収めてくれて」

 気がついていたか。
 俺は外套の下で握っていたライトセーバーを腰のベルトに戻した。

 カルラとゲイルには悪いが、躊躇ちゅうちょはしない。
 冒険者だって当たり前の顔をして襲ってくるのだ。

「俺とミアは魔族の習慣は知らないんだ。そして戦闘で手加減することもできない。対人ならなおさらだ。気をつけてくれ」

 このやり取りで、周りの魔族が大勢集まってきた。
 まいったな。
 この後も同じやり取りが行われるとか勘弁してほしい。

「ゲイル。相手の力量に興味があるだけなんだろ? それなら俺が魔物と戦うのはどうだ」

「おおっ、それはいいアイデアだ。我らだと意味は無いが、人族であればそれで力量を示せる。けど良いのかタクミ?」

「ああ。この後もずっとこれだと気持ちが休まらないからな」

 カルラは集まった魔族達に、『自分を窮地から救ってくれた英雄』だと俺達のことを紹介した。
 そして、これから魔物と戦い力を示すと言うと、まわりから大歓声があがった。

 ◇

「あっちが魔物の調教施設で、この目の前の建物が訓練場だ」

 ゲイルが指差す先に、ローマのコロッセオのような建物があった。
 中に入ると、中央は広い闘技場でまわりは観覧席になっている。
 そして、闘技場と観覧席の間には、棒のような魔道具が10メートル間隔で並んでいた。
 あれで闘技場に結界を張り、観覧席に戦闘の影響が及ばないようになっているらしい。

「それにしても、観戦者の数がものすごく増えてないか?」
 
「この街の魔族にとって人族は珍しい。その戦闘を見られるのだ。たぶん街中の魔族が集まっているぞ。もう少ししたら、魔物が入ってくる。タクミはその後に入って、魔物を倒してくれ」

「私は主催者として主賓席にいるわね。挨拶もあるし。ちゃんとタクミとミアに手を出さないように言っておくから安心して」

 ……なんだろう。
 俺は誘導された訳じゃないよな。
 カルラとゲイルが楽しんでいるようにしか見えないのだが。

「ふふふっ。タクミの凄さを見たら、みんなびっくりしますよ!」

 ミアが両手を胸の前で握り、笑顔で応援してくれる。
 俺が倒される心配は全くしていない。
 まあ、ミアに期待されるのは嫌じゃない。

 観覧席から大きな歓声が上がる。
 コロッセオが揺れるぐらいの大歓声だ。

 俺達は主賓席を見ると一人の男が会場全体に向かって手を振っている。
 もしかして……あれ魔王じゃないのか?

 俺はカルラに『携帯念話機』をつないだ。

『カルラ、あれは魔王じゃないのか。どうなってるんだ?』

『私も知らなかったのよ。街中がお祭り騒ぎになって、お父様の耳にも入ったみたい。もうどうすることもできないわね。なすがままよ』

『おいおい、そんな無責任な……戦う魔物なんだけど、物理攻撃無効とか止めてくれ。それだけは頼んだ』

『そっちは大丈夫よ。その後が心配なんだけど……あっ、お父様に呼ばれたわ。応援してるからかんばってね』

 おい! その後ってなんだ。
 まあ、物理攻撃無効じゃなければなんとかなるだろう。

 魔王の挨拶の後、カルラがこれまでの出来事を集まった魔族に説明する。
 全てはエルフ族の企みであること。
 人族も魔族と友好を望んでいること。
 自分たちを救ってくれたのも人族であること。
 その英雄がここでこれから戦うこと……

 途中から俺じゃない別人の話にしか聞こえなかった。
 ミアが尊敬するような眼差しで俺を見ているのがこそばゆい。
 カルラ達を救った英雄の一人はミアなんだけどな。
 本人はまったく気づいてないようだった。

 カルラの話が終わると、闘技場の反対側の扉が開く。
 そこから赤黒い体長3メートルぐらいの人型で頭部が牛の化け物が現れた。
 盛り上がった強靱な筋肉の上に、軽装ながらも金属製の鎧を着ている。
 巨大な斧を引きずりながら、闘技場の中央へと歩き出す。

 ゲイルから『携帯念話機』の着信が入る。

『タクミよ。あれはミノタウロスだ。Aランクの魔物だ。大丈夫だと思うが油断はするなよ』

 初めてのAランクの魔物。
 久しぶりの緊張感。テンションが上がる。
 やばい、俺も戦闘狂に仲間入りしそうだ。
 
「じゃあ、いってくるよ」

 俺はミアに手を振り、闘技場に入る。
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