上 下
51 / 76
第2章

第51話 出発

しおりを挟む
 この後も試行錯誤を重ね、『携帯念話機』に改良を加えた。
 改良したポイントは、大きく2つ。

 1つ目は、着信音。
 相手から着信があったとき、頭に着信音を鳴らすようにした。

 2つ目は、通話の『入』『切』だ。
 これは『腕輪』を『携帯念話機』に1回触れると『入』。
 2回連続で触れると『切』とした。
 実際には『腕輪』と『携帯念話機』の接触は不要で、2センチぐらい距離が空いても反応する。
 
 電話と同じような操作感になり、かなり使いやすくなった。

 ちなみに、この『携帯念話機』で使用する魔法陣や模様には、電話マークが入れてある。
 これは『ゴンヒルリムの通行証』や『転送魔法陣』に反応しないよう、『携帯念話機』は異なるグループのモノだとミアにイメージしてもらうためだ。
 
 俺とミアが残り全ての『携帯念話機』を作り終えたとき、しらじらと夜が明けようとしていた。
 
 ◇

 ——入出管理室。

 朝方まで『携帯念話機』を作っていたため、当初の予定より2時間ほど遅らせて出発することになった。
 ここには俺、ミア、カルラ、ゲイルの四人。そしてゴンさん、タタラさん、棟梁達がいる。

 『携帯念話機』は、俺達四人、ゴンさん、タタラさんに渡してある。
 残りの6台はぬいぐるみのポケットに収納済みだ。

「ほれ、これを持って行け。時間が無くて4つしか作れんかったがの」

 棟梁達は台車を引いてきた。
 そこには金属製の板が4枚積まれていた。
 俺が依頼したのは、ポータブルって言葉が似合うぐらい持ち運びが便利なモノだったはず。

「……結構重そうですね」

「ワシらも持ち運べるモノを作るつもりだった。だがな、よく考えてみると重視するポイントは軽さではなく、頑丈さだと気づいたのだ。だから堅鋼アダマンタイトで作った。しかも、魔法陣は外から見えない作りになっているぞ」

 ん? 魔法陣をわざわざ見えないように作っただと。
 ……なるほど、それは確かにこのスタイルが正解だな。

「みなさんありがとうございました。確かにその通りですね。転送魔法陣の本体は、転送後その場に取り残される。だから設置後も壊れることなく、転送魔法陣だとまわりにバレないことを重視した訳ですね」

「おおっ、さすがタクミだ。タクミなら分かってくれると信じとったぞ。あともう1つ報告がある。転送魔法陣は地上からも使えた。これは物流革命が起きるぞ!」

「「「「おおおおっ」」」」

 これで転送魔法陣さえ設置すれば、ゴンヒルリム経由で楽に移動できる。
 そして同じ仕組みで作った『携帯念話機』も外でも使えるはずだ。

「いろいろとご協力ありがとうございます。これで安心して出発できます」

「ワシからも新たに就任したドワーフ大使に贈り物がある。ミアよ、これを持っていけ」

 ドワーフ王は、ミアに『ゴンヒルリムの通行証』の腕輪を渡した。

「え! これわたしがもらっていいんですか?」

「当たり前だ。タクミとミアはドワーフの大使だ。タクミにも言ったが、この腕輪はドワーフ族の信頼を証明するモノでもある。大使が持たずに誰が持つ。ちゃんと登録手続きをしているから、腕輪を着けて大丈夫だぞ」

 『ゴンヒルリムの通行証』は譲渡の手続きをとらないで着けると壊れる仕組みになっている。
 これで、あの腕輪はミア専用になった。

「ありがとうございます。大使の名に恥じないようがんばります」

 みんなから拍手がわき起こる。
 これで、ミアも移動式転送魔法陣を起動できるようになった。

 おっと、俺も渡すモノがあったんだ。

「ゴンさん、タタラさん、これが例のアレです。あとはお願いします」
 
「タクミよ。本当にやるのか?」

「ワシもちょっとやりすぎな気がするが……」

 俺が大きな袋を渡そうとすると、ドワーフ王とタタラさんが手に取るのをためらう。
 
「いえ、これは大事なことです。俺はククトさんとマルルさんを自分の甘さで死なせてしまった。あんなことは二度と起こさせません」

 二人ともしぶしぶ受け取り頷いてくれた。
 これで本当に準備万全だ。

「よしっ! 魔都『ゾフ』へ出発しよう」

 ◇

 ——シラカミダンジョン地下3階

 タタラさんに、魔族領から一番近い転送魔法陣に転送してもらった。
 地下3階の地図をもらったので、道に迷うことはない。

 移動中も『携帯念話機』のテストを繰り返す。
 とにかく使うことに慣れないとな。
 カルラとゲイルは、携帯やスマホの利用経験が無いから特にだ。

『前から魔物が2体くるぞ』

『俺とミアでいく。ミアは向かって左を頼む。カルラは後ろを警戒してくれ』

『『了解!』』

 今は俺とゲイルの『携帯念話機』がつながっている。
 『携帯念話機』は同時に1台までしか接続できない。

 複数人で同時に念話するには、『腕輪』を着けて『携帯念話機』に近づく必要がある。
 スマホの通話をスピーカーにして、みんなで話しているのと同じイメージだ。
 
 魔物の姿が見えてきた。
 人型だったのでスケルトンかと思いきや、全長2メートルを軽く超え、巨体は筋肉で覆われていた。
 鬼のような顔つきで、巨大な斧を持っている。

『あ、あの、とても強そうなんですけど』

 ミアが俺をチラっと見る。
 最近戦った相手は雑魚ばかりだったからな。

『あれはオーガだ。魔族領のまわりは、他の種族が近づけないよう魔物を少し強くしている。冒険者ギルドでいうところのBランクだな』

『意図的に強い魔物を作れるのか?』

『魔石を与えればいい。食べた魔物は『罪』が溜まり強くなる。他種族が魔族領へ侵攻するときの要所、その付近の魔物を強くしているのだ。言っておくが、他種族を攻撃するのが目的ではないからな』

 なるほどな。
 けど、カルラを攫ったエルフ達は、そんな強力な魔物達を突破したわけだ。
 意外に侮れないな。
 
「ミア、俺からいく」

 ミアを安心させるためにも、俺からオーガに接近し戦闘を開始する。
 この通路は直径3メートルぐらいの広さのため、オーガはコンパクトに斧を振ってくる。
 俺は『心の壁』バリアで防いだ。

 二度三度と防ぐと、オーガはバリアを壊すため斜めに大きく振りかぶった。
 目が慣れた俺は、バリアで受け流す。
 斧の刃が頭上を滑る。
 俺はライトセーバーでオーガの両足を切断、返す光刃でずり落ちてくる上半身から首を切断した。
 オーガは黒い煙となって消える。
 
 ミアを見ると、斧を持つ手首を切り落としたところだった。
 俺の戦い方を見ていたのか、両足を切りつけ動きを封じた後にとどめを刺した。

 ゲイルとカルラがこちらにやってきた。

「お疲れ様。オーガ相手なのに余裕なのね」

 ゲイルとカルラの雰囲気に緊張感がない。
 まあ、魔族は魔物に襲われないから当たり前か。

 ん? ちょっとまてよ。
 あの二人のレベルって、ゲイルが91でカルラが76だったはず。
 魔物に襲われないのに、レベルが高すぎるだろ。
 まさか……
 
「魔族は意図的に強い魔物を作って、レベル上げてたりする?」

「「…………」」

 当たりだな。

「きちんと管理してやってるなら、俺はアリと思っているよ」

「う、うむ。魔族の数は少ないのだ。少しでも生存率を上げるために、我らの特性を活かしたレベル上げを子供の頃から行っている。他の種族に申し訳なくて言い辛かったのだ」

 マジか。俺も一緒に修行させてほしいんだけど。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...