『スキルの素』を3つ選べって言うけど、早いもの勝ちで余りモノしか残っていませんでした。※チートスキルを生み出してバカにした奴らを見返します

ヒゲ抜き地蔵

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第2章

第35話 脱出

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 俺達はアーサーとドラゴンが対峙している道から、2本となりの道を走っている。
 先を走るゲイル達とは、40メートルぐらい離れていた。

 斜め前に見える巨大なドラゴンの胸部に、青白い閃光がぶつかり血肉がぜる。

 ――ドラゴンは鳴き、見えない何かを掴むような姿勢で倒れていく。

 ズドォォォォン

 衝撃や下敷きになった建物が崩壊し大量の白い煙が上がる。
 先を行くゲイルたちも足が止まり、立ち尽くす。

「ミア、ゲイル達に話しかける。攻撃される恐れがあるので注意して!」

「はい」
 
 うなずくミアを確認し、俺は腕に『ゴンヒルリムの通行証』の腕輪を着ける。
 そして集団に向かって声をかけた。
 
「ゲイル! ゲイル!」

 武装をした数人の男が、振り返る。
 戦闘態勢をとる男たちをゲイルが止める。

「まて! 味方だ。昨日話した『ゴンヒルリムの通行証』を持つ異世界人だ」

「俺達は信用していない! なぜここにいる?」
「こんな状況でリスクは負えない。殺してしまおう」

 緊迫した空気に包まれる中、ひとりの女性が言い放つ。

「待ちなさい。あんた達は何しにきたの?」

 声の主は、歳は20歳半ば、白銀のショートヘアが似合う愛らしい顔の女性だった。
 ただ、魔族の特徴である赤い瞳は、鋭い光を放っている。
 俺達はその女性が王女なのだと認識した。
 
「友であるゲイルを助けに来ました。そして俺達ならなんとかできると思ってます」

 王女はゲイルに視線を送る。
 ゲイルは力強く頷く。

「カルラ様、この者達の『ゴンヒルリムの通行証』はマイスターククト殿の腕輪です。信用できます」

 王女は俺の右腕の腕輪を見たあと、腹をくくった顔つきになる。

「――わかったわ。私達はドラゴンのリドに乗って脱出する予定だったのよ。けど、リドが倒れた今、作戦を変更す……」

「俺達がドラゴンを回復させます。その間の時間稼ぎをお願いします。視界の悪い今しかチャンスはありません」

「ちょ、ちょっと、私がしゃべっている途中よ!」

「とにかく今は時間がない! 煙が収まったら終わりだ。早く決断してくれ」

 王女は肩をわなわなと震わせながら、ゲイルを睨みつける。

「もぉぉぉぉぉおおおお……ゲイル信じるわよ! みんな聞いて! この異世界人の作戦でいくわ」

 俺はゲイルに声をかける。
 
「ゲイル、ドラゴンのケガの箇所まで案内してくれ。時間がない」

 俺達は他の魔族の様子を見ることなく、白い煙に入りドラゴンのもとへ走る。

「まさか本当に来てくれるとは……ありがとう」

「それは無事に逃げられてからだろ」

 ゲイルは感極まってるようだが、今は本当に時間が惜しい。

 リドと呼ばれるドラゴンの胸部に着いた。
 長さ3メートルぐらいの傷が複数箇所あった。
 血があふれているため、傷の深さはわからない。
 この傷で生きている方も、この傷を負わせた方もバケモノだ。

 俺とミアのスキルは時間がかかるし、試行錯誤が必要になる。
 今はポーションで一時的に回復して逃げる。これが最適解だろう。
 
「ミア、強化ポーションだ。ありったけ傷口にかけてまわるぞ」
 
「ゲイルもこれを傷口にかけてくれ」

 ポーション10本入りの袋をわたす。
 3人でひたすらポーションをかけまわった。

「タクミ、なんだこれ。傷口がみるみる塞がっていくぞ」

「血は回復しないし、体力も戻らない。だから一か八かのかけだ。楽観視しないでくれ」

「リドいけそうか?」

 ゲイルがリドに話しかけた。
 
「クゥオン」

 リドが返事をした? もしかして言葉がわかるのか。
 ゲイルが魔族に向かって叫ぶ。

「リドが回復した。行けるぞ!」

 王女が走って来た。塵で汚れた頬には涙を擦った跡がある。
 残りはどうした?
 マズいぞ。
 白い煙がけっこう収まってきた。

「ゲイル。残りの魔族はまだか?」

「あいつらは残る。誰かが『剣聖』を足止めしないとやられる。これは俺達の中ですでに決まっていることだ。彼らの命が無駄になる。行くぞ!」

 俺達全員で、横たわっているリドの背中側に移動する。
 背中にはいくつも搭乗用のベルトが垂れ下がっていた。
 王女とゲイルが搭乗用ベルトの先にある止具を自分の腰ベルトにつなぐ。
 俺とミアもそれを真似して、腰ベルトに止具をつないだ。

「リド。いいぞ!」

 ゲイルが叫んだ。
 
 リドは倒れていた巨体を起こし、巨大な両翼を広げた。
 周りの瓦礫がバラバラと地面に落下し、再び白い煙が上がる。
 これで、リドが飛べる状態まで回復しているのが相手にもバレたはずだ。

 俺は戦闘が繰り広げられているあたりを見るが、白い煙で何も見えない。
 今一番怖いのはアーサーの遠距離攻撃だ。

「ミア、アーサーを探してくれ」

「わかりました」

 俺達は探す。必死になって探す。
 リドの高さは20メートルぐらいある。
 アーサーからは、リドが見えてるはずだ。

 リドの巨大な両翼が羽ばたく。
 強烈な風で煙が吹き飛ぶ。
 巨体が浮いた。

「見つけました!」

 ミアが指さす方向にアーサーがいた。
 白い煙を利用して、リドの後方に回り込んでいたのだ。
 
 アーサーの近くにはメアリーだけが立っていた。
 足止めに残ってくれた魔族は、そこから少し離れた所で伏している。

 アーサーと目が合った気がした。
 背中に悪寒が走る。

 アーサーのいる場所が、青白く光リ出した。
 その光はどんどん膨れ上がる。

「リド、逃げろ! 急げ!」

 俺は全力で叫ぶ。
 かける言葉はなんでも良かった。
 自分の心を奮い立たせるために叫んだ。
 
「グァァァァァァアアアアア!」

 咆哮と共に、両翼を羽ばたかせ加速する。

「ダメだ。……間に合わない」

 俺の言葉を聞いて、後ろを振り向くゲイルと王女。

「おいおい、冗談だろ。なんだあれ」
「うそでしょ……」

 くそっ、勝手にあきらめるな!

「ミア、俺が防ぐ。バリア同士ぶつからないように注意だ」

「わ、わかりました」

 アーサーの攻撃を防いでる最中に、『心の壁』バリアが中和したら確実に死ぬからな。
 よしっ! こい!

 こっちのタイミングを待っていたかのように、膨れ上がった青白い閃光が光弾となり、俺達に向かって放たれた。
 俺は『心の壁』バリアを張る。
 心の底から、この恐怖の塊を拒絶する。

 八角形のバリアが発動。アーサーの放った光弾がバリアにぶつかる。

 キュイイイイイイイイン

 甲高い音をたてて、バリアと光弾がせめぎ合う。
 いつもは簡単に弾くのに。バリアが歪みブルブルと激しく震える。

「マズい。マズい。マズい。死ぬ。死ぬ。死ぬ」

 俺の恐怖は極限に達する。
 それに呼応するようにバリアの厚みが増す。
 バリアは砕け散りながら、光弾を上空へと弾き飛ばした。

 そしてリドはさらに加速し、王都は見えなくなった。

 ――俺は助かった安堵感でへたり込んだ。

 座ったままみんなの方に振り向くと。
 ミアが俺めがけて飛び込んできた。
 俺に抱きつき泣いていた。

 緊張と恐怖の連続だったからな、しょうがないか。
 俺は右手をミアの背中に回し、落ち着くまでこのままでいることにした。

「タクミ、本当に助かった。最後のアレはなんだ? 『剣聖』の攻撃を弾くなんて……」

 ゲイルは未だに驚いてるようだ。まあ、俺もよく助かったと驚いてるんだけどね。

「本当にありがとう。この恩は決して忘れないわ」

 王女は俺達に礼を言い、そして王都メルキドの方に身体を向けて叫んだ。

「みんなありがとう! 私はみんなのことを絶対に忘れない! そしてエルフどもにこの報いは必ず与えてやる!」

 そうだな。俺もエルフどもに報いを与える。必ずだ。必ず。
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