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第1章

第25話 ギルドマスター

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 エルフの男が口を開く。
 
「ギルドマスターのキースだ。お前たちが大鼠を絶滅させたというのは本当か? 虚偽の報告は冒険者カードの剥奪になるが」

 キースと名乗ったエルフは、あからさまに俺達のことを疑った。
 
「その報告に誤りがあります。僕達は『大鼠を全滅した』とは報告していません。大鼠を300匹ぐらい倒しただけです。それから地下3階まで降りて、地上に戻るまでの間、大鼠は一匹も見ませんでした」

「……今、地下3階まで降りたといったか? 嘘をつくな。地下3階から生きて戻れるわけがあるまい」

 ミスったな。良い意味でも悪い意味でも、エルフに目をつけられたくなかったのに。
 いまさら嘘でしたと言ったら、冒険者カードを剥奪されそうだし……これは困ったぞ。
 ミアも同様の考えに至ったらしく、不安そうな目で俺を見つめてくる。

 えーい。アラクネのことも報告して、今日中に全ての魔石を売ってしまうか。
 明日から出発までの間、工房で大人しくしていれば大丈夫だろう。
 
「地下3階にはアラクネがいました」
 
「なるほど、その情報は公開していない。いいだろう。3階に行ったと認めてやる……」

 キースは、音もなく立ち上がり、無詠唱でいきなり魔法の矢を俺に向けて放った。

 ガキィィィン! 『心の壁』バリアで、魔法の矢は弾かれた。

「これがお前の実力か。職業やスキルは大したことないと報告を受けている。そうすると……装備か。お前の装備はなんだ。魔法をどうやって弾いた?」

 もしかして俺を試したのか? 一歩間違えば死んでいたぞ。
 これがギルドマスター……いや、エルフの価値観なのか。

「教えることはできません。いきなり攻撃してくる相手に、こちらの手の内を明かすのは自殺行為ですから」

「ほう、なかなか言うじゃないか。まあいい。大鼠の退治は本当のようだ。アラクネはどうした。倒したか?」

 俺は今日中に魔石を全て売ることに決めた。
 もうここには来たくない。
 
「倒しました」

「……倒したか。魔石はあるのか?」

「今は手元にありません。買い取ってもらえるなら持ってきますが」

「よし。いいだろう。話は通しておくから、この部屋に魔石を持ってこい」

 ◇

 ククトさんの工房に戻ってきた。
 俺は急いでククトさんに相談する。
 
「ククトさん、大変です。ギルドマスターに目を付けられました!」

「まあ落ち着け。何があったか説明してくれ」

 俺は、廃坑でアラクネを倒したこと。冒険者ギルドでの出来事。
 これからまた冒険者ギルトに行くことを手短に説明した。

「……わかった。すぐにこの街を出た方が良さそうだな。明後日の朝に出発するぞ。明日中に準備を終わらせる」

「すみません。僕が口を滑らせたせいで……とりあえず、冒険者ギルドに戻ります」

「気にするな。それだけワシらの作った装備が凄かったってことよ。ワハハハハ」

 マルルさんに顔を向けると、気にするなと笑顔でウインクしてくれた。
 
 出発前の準備に一週間は必要と言っていた。明日だけで終わるわけがない。
 見た目は小さいのに、本当に器がでかいな。感謝の言葉しかない。
 
 俺とミアは、ぬいぐるみのポケットから残りの魔石が入った袋を取り出し、冒険者ギルドへ戻ることにした。
 
 ◇

 ――冒険者ギルド

 受付に声をかけると、ギルドマスターの部屋に案内された。
 部屋に入ると、キースは執務机で書類仕事をしていた。
 
「遅かったな。それで魔石は持ってきたか?」

「これです」

 俺は持っていた魔石の詰まった袋を3つ、応接テーブルの上におく。

「おい。袋の中身を確認しろ」

 キースは受付の女性に魔石を確認させる。

「あ、アラクネの魔石が2つ。アラクネの幼虫の魔石が112個。ビッグスパイダーの魔石が35個、ダンゴ虫が18個です……」

 キースは受付の女性に質問した。

「今日持ってきた大鼠の討伐を合わせると、冒険者ランクはどのぐらいが適切だ?」

「アラクネはBランクの魔物です。しかも幼虫が100匹以上。これを2人で討伐したとなるとBランクが適正かと」

 キースは顎をさすりながら俺達を睨む。
 そして何かを探るように全身を見回してくる。

「お前らの装備を売る気はないか?」

「これは大切なものなので、売る気はありません」
 
「……わかった。廃坑の3階の発掘場はどうだった?」

「アラクネを倒した後、すぐに戻ってきたので調べていません」

 装備をあっさり諦めたのは意外だった。
 いろいろとゴネてくると思ったんだけどな。
 
 キースはしばらくすると突如ニヤリとした表情になった。
 そして、受付の女性に命令する。
 
「こいつらはBランクに昇格だ。あと魔石の買い取りもやっておけ」

「わ、わかりました。アレンジの皆様、おめでとうございます。昇格と魔石の買い取りの準備をしておきますので、後で窓口にお寄りください」

 そういうと受付の女性は部屋から出ていった。

「明日、アラクネのいた地下3階を調べに行け。もちろん正式なクエストとして依頼する。Bランクに昇格させてやったんだ。やれるな?」

 もうここに来るつもりは無かったのに。
 けど、断った方が面倒なことになりそうだ。
 
「調べて報告するだけでいいですか?」

「ああ、それだけでいい」

 俺達はクエストの依頼を了承し、部屋を後にした。
 帰る前に受付でギルドカードの更新。そして魔石の売却を済ませた。
 トータルで約7000ゴールドになった。
 これで旅の路銀は大丈夫そうだな。
 
 出口を向かう途中、『精霊の狩人』のおっさんが近づいてきた。

「おい。なんかすげぇ装備持ってるらしいな。どこで手に入れたんだ? 俺達にも教えてくれよ」
 
「このミスリルのショートソードのことですか? 武器屋で買ったんですよ」

「どんな魔道具がついてるんだ?」

「何もついてないですよ。よく切れるだけです」

「……ああ、よくわかったよ。ありがとな。Bランクの英雄さん」

 なんで知っているんだ? このギルド、個人情報だだ漏れなんですけど。
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