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第1章

第5話 スキル

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 冒険者カードは銅製で特殊な模様が描かれており、カードの裏面には俺の情報が彫られていた。

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名前:アライ タクミ
出身:ロゼッタ村
職業:ハッカー
ランク:F
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 俺の日本での職業はSE(システムエンジニア)だった。
 実際にハッカーだったわけじゃないが、セキュリティ対策とかで少しは知識がある。

 スキルの素とも相性はいいはずだ。

「あんたは登録したばかりだから、冒険者ランクはFさ」

 冒険者ランクは一番下からF、E、D、C、B、A、Sの7段階だった。

 クエストなどで実績をあげるとランクは上がる。
 クエストは、自分のひとつ上のランクまで受けられるそうだ。

「あと、貸出用の装備があるけど持っていくかい?」

 奥の部屋から、ナイフ、革の胸当て、革靴、リュックを持ってきてくれた。
 どれもボロボロとは言わないが、見るからに年季が入っていた。

「これらは、冒険者が古くなって捨てるものを、ギルドが買い取って整備し貸出用にしてるものさ。自分の装備が揃うまで、これでも使ってな」

 俺はありがたく借りることにした。

 レンタル料は、1日2ゴールド。スライム1匹倒せば払える額らしい。

 しばらくは転生してきたときの部屋を使っていいそうだ。掃除するのが条件ではあるが。

 お礼を言ってギルドを出た。

 まずは、スキルについて調査するつもりだ。

 ――転生してきたときの部屋に戻り、ベッドに腰をおろした。

 俺の職業は『ハッカー』、スキルの素は3つだ。
 
『接触』触っている対象への効果を上げる。
『変更』変更の効果。
『文字』文字の効果。

 真っ白な空間で閃いたアイデア、それに必要なスキルの素を選択した。

 そのアイデアが実際にできるのか。それを今から検証する。
 
 俺はギルドから借りたナイフを取り出して、両手で包むように持ち、ナイフの情報が文字になるよう意識した。

 ――5分経過。

 あれ、こんな感じでイメージすれば『鑑定』みたいなことができるかと思ったんだけどな。

 そういえば、ハンナさんは『職業に関連したスキルが身につく』って言ってたな。

 俺が今試したイメージは『鑑定』だ。
 職業のハッカーを意識してやってみないとダメなのかもな。

 ……ナイフの中を巡る情報を『接触』した手で読み取り、それを『文字』にして見えるように意識する。
 
 ――3分経過。

 俺の頭の中で何か閃いたような感覚がした。
 ナイフを見つめると、ナイフのステータス画面が表示された。

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名前:ナイフ
状態:古くてボロボロ
攻撃力:+3
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 うおおおおっ! できたっ!

 ナイフのステータス画面に書かれている内容は、たぶん俺が認識しやすいようになっている気がする。
 『古くてボロボロ』なんて表現はそれしか考えられない。

 俺は自分のステータスも確認した。

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名前:アライ タクミ
職業:ハッカー
状態:正常
レベル:1
HP:10 / 10
SP:9 / 10
スキルの素:接触、文字、変更
スキル:分析(New)
-------

 スキルの欄に『分析』ができてる、これが『スキルが生まれる』ってやつだな。

 分析の文字を集中して見ると詳細が表示された。

 『分析』:対象に触れて情報を取得する。取得した情報は表示できる。対象に触れている時間が長いほど詳しい情報を取得できる。

 想像した通りのスキルだった。
 スキルを使うとSPが減る。これも想定内だ。

 さて、ここからが大事なところだ。
 俺はナイフを持ち、『分析』スキルを使う。
 すぐにステータス画面は表示されなかった。

 一度『分析』が成功した対象でも、2回目以降も最低3分はかかるようだ。

 ――3分後、ナイフのステータス画面が表示された。

------
名前:ナイフ
状態:古くてボロボロ
攻撃力:+3
------

 俺は攻撃力の『3』の文字を、『9』に書き換えてみる。

 これが俺の閃いたアイデアだ。

 職業のハッカーを意識して、『接触』した手で対象の『文字』を『変更』するように意識する。

 ステータス画面に表示される攻撃力の文字は変わらず『3』のままだ。

 これも成功するまでに時間がかかるかもしれないので、このままイメージし続けた。

 また俺の頭の中で何かを閃いたような感覚がした。
 ステータス画面を見ると、ナイフの文字が『9』に変わっていた。

 やったぁぁぁぁぁ! これはすごい、凄すぎるっ!

 早く、早くスキルの詳細が知りたい。

 俺は慌てて自分のステータスを確認した。

-------
名前:アライ タクミ
職業:ハッカー
状態:正常
レベル:1
HP:10 / 10
SP:7 / 10
スキルの素:接触、文字、変更
スキル:分析、改ざん(New)
-------

 『改ざん』:触れた対象に書かれてある文字を1文字だけ変更できる。

 これはあまりにチート過ぎる、何か制約がありそうだな。
 俺はSPがゼロになるまで検証した結果を整理してみた。

・『分析』『改ざん』ともに1回成功するとSPを1消費する。失敗するとSPは減らない。

・『分析』『改ざん』は、対象にスキルを使うイメージをしながら最低3分間、素手や素足などで触り続けないと失敗する。

・『改ざん』は、対象に1文字しか書き換えられない。一度『改ざん』した対象に、別の文字をさらに『改ざん』しようとすると、最初に改ざんした文字は元に戻る。

 検証の過程で、ナイフの攻撃力『3→9』、拾ってきた投げやすい石の攻撃力『1→9』に『改ざん』した。

 このあたりで検証を終えることにした。

 真っ白な空間で目が覚めてから、まだ1日も経っていないのが嘘のようだ。

 ……ずっと前の出来事のように思える。

 あの真っ白な空間で。

 余りモノから選んだスキルの素。

 閃いたアイデアに人生を賭けた。

 俺はこの勝負に勝ったんだ。
 
 不安や喜びでいっぱいに詰まっていた胸が軽くなっていく。

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