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(22)教授、デコピンする
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病室を出るなり、神里は中指で藤本の額を軽く弾いた。いわゆるデコピンをした。
「いたっ! 何するんですか?」
「お前さん、俺に嘘をついていただろう。その罰だ」
「え?」
「昨夜、糸田を突き飛ばした奴のことだ。
暗がりだったから顔は分からなかったと俺に言っていたな。
だが、実際はバッチリ見えていたし、そいつが誰なのかも見当がついてた」
「う……それは……」
「久須野とか言ってたな。お前さんの昔の同僚だったから、
本当はすぐにピンと来てたんだな」
「はい。ただ、確証が無かったので」
「確証だと?」
「僕の中の久須野さんの記憶は7年前で止まっていたので、
現在の姿を確認しておきたかったんです。人違いの可能性もあるので」
「その為にわざわざ整備工場に行ったのか」
「はい」
「で、結果的に糸田を突き飛ばした犯人は久須野で合ってたんだな」
「はい」
「何にせよ、事件性のある事柄に関わるときは逐一俺に報告連絡相談をしろ。
テメェの勝手な判断で動いて厄介な目に遭ったのは一度や二度じゃねえだろ」
「そうですね。すみません」
「うむ」
藤本が素直に謝ったことで神里は納得したのか、それ以上は小言を並べなかった。
「それにしても妙だな」
「何がですか?」
「糸田の奴、あの様子だと久須野に突き飛ばされたと分かっているんだろう」
「そうですね。あの人の名前を出した途端、顔つきが変わりましたから」
「なのに久須野のことを庇った」
「はい。久須野さんは関係ない、としきりに言ってましたね」
「自分を殺そうとした相手を庇う理由は何だろうな?」
「昨日、先生が言っていた言葉の通りなのかもしれませんね」
「ん? 俺、何か言ったか?」
「糸田さんは、医者にも警察にも知られたくない
『何か』を抱えているのかもしれない、と」
「ああ、そんなことを言ったか」
「医者はさておき、警察に知られたくない『何か』の為に
久須野さんを庇っているのではないでしょうか」
「なるほど。殺人未遂として久須野を警察に突き出すと、
当然警察は久須野のことを調べる。
そうなると、糸田にとって都合の悪い『何か』も警察にバレることになる。
だから久須野のことを庇ったんだな」
「……そんな気がします」
藤本が頷くと、神里は黙って少し考えた。
そして、辿り着いた結論にため息を落とした。
「糸田は、犯罪行為に手を染めたのかもな」
「そう……かも知れないですね」
藤本は少し俯いて目を伏せた。
「しかしまあ、問題は久須野だな。あいつはなぜ糸田を殺そうとしたんだ?」
「さあ」
「糸田と久須野の間に何があったのか。
そいつを早いとこ解明しねえと、久須野の奴はまた糸田を殺しにくるぞ」
「それは……」
「まあ、病院にいる間は安全だろうがな。
だが、そんなに長く入院するわけでもないだろうしなあ」
「できれば、糸田さんが自ら警察に全てを打ち明けるのが望ましいんでしょうけども」
「それができりゃあ苦労しねえよ」
「ですよね」
「かと言って、今の時点で俺らが警察に言っても何にもならねえんだよな。
本人が誰にも何もされてねえって言い張ってるんじゃなあ」
「そうですね」
「どうしたものか」
「……」
考え込む神里を横目に、藤本は黙り込む。
糸田と久須野を結ぶ犯罪行為に心当たりがあったが、言わなかった。
やはり確証が無いことなので、まだ言えないと判断したのだった。
こうして二人は柚芽総合病院を出る。
それからタクシーに乗り、慶田大学に向かった。
「いたっ! 何するんですか?」
「お前さん、俺に嘘をついていただろう。その罰だ」
「え?」
「昨夜、糸田を突き飛ばした奴のことだ。
暗がりだったから顔は分からなかったと俺に言っていたな。
だが、実際はバッチリ見えていたし、そいつが誰なのかも見当がついてた」
「う……それは……」
「久須野とか言ってたな。お前さんの昔の同僚だったから、
本当はすぐにピンと来てたんだな」
「はい。ただ、確証が無かったので」
「確証だと?」
「僕の中の久須野さんの記憶は7年前で止まっていたので、
現在の姿を確認しておきたかったんです。人違いの可能性もあるので」
「その為にわざわざ整備工場に行ったのか」
「はい」
「で、結果的に糸田を突き飛ばした犯人は久須野で合ってたんだな」
「はい」
「何にせよ、事件性のある事柄に関わるときは逐一俺に報告連絡相談をしろ。
テメェの勝手な判断で動いて厄介な目に遭ったのは一度や二度じゃねえだろ」
「そうですね。すみません」
「うむ」
藤本が素直に謝ったことで神里は納得したのか、それ以上は小言を並べなかった。
「それにしても妙だな」
「何がですか?」
「糸田の奴、あの様子だと久須野に突き飛ばされたと分かっているんだろう」
「そうですね。あの人の名前を出した途端、顔つきが変わりましたから」
「なのに久須野のことを庇った」
「はい。久須野さんは関係ない、としきりに言ってましたね」
「自分を殺そうとした相手を庇う理由は何だろうな?」
「昨日、先生が言っていた言葉の通りなのかもしれませんね」
「ん? 俺、何か言ったか?」
「糸田さんは、医者にも警察にも知られたくない
『何か』を抱えているのかもしれない、と」
「ああ、そんなことを言ったか」
「医者はさておき、警察に知られたくない『何か』の為に
久須野さんを庇っているのではないでしょうか」
「なるほど。殺人未遂として久須野を警察に突き出すと、
当然警察は久須野のことを調べる。
そうなると、糸田にとって都合の悪い『何か』も警察にバレることになる。
だから久須野のことを庇ったんだな」
「……そんな気がします」
藤本が頷くと、神里は黙って少し考えた。
そして、辿り着いた結論にため息を落とした。
「糸田は、犯罪行為に手を染めたのかもな」
「そう……かも知れないですね」
藤本は少し俯いて目を伏せた。
「しかしまあ、問題は久須野だな。あいつはなぜ糸田を殺そうとしたんだ?」
「さあ」
「糸田と久須野の間に何があったのか。
そいつを早いとこ解明しねえと、久須野の奴はまた糸田を殺しにくるぞ」
「それは……」
「まあ、病院にいる間は安全だろうがな。
だが、そんなに長く入院するわけでもないだろうしなあ」
「できれば、糸田さんが自ら警察に全てを打ち明けるのが望ましいんでしょうけども」
「それができりゃあ苦労しねえよ」
「ですよね」
「かと言って、今の時点で俺らが警察に言っても何にもならねえんだよな。
本人が誰にも何もされてねえって言い張ってるんじゃなあ」
「そうですね」
「どうしたものか」
「……」
考え込む神里を横目に、藤本は黙り込む。
糸田と久須野を結ぶ犯罪行為に心当たりがあったが、言わなかった。
やはり確証が無いことなので、まだ言えないと判断したのだった。
こうして二人は柚芽総合病院を出る。
それからタクシーに乗り、慶田大学に向かった。
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