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(8)教授、スイーツを食べる
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沢山の人々でごった返す新宿の表通り。
活気あふれる喧騒から一線を隠した路地裏には、落ち着いた雰囲気の飲食店が立ち並んでいる。
その中の一角に、喫茶『隠れ家』はひっそりと佇んでいた。
煉瓦造りのレトロな雰囲気が心地いい喫茶店だ。
派手な人気があるわけではないが、確かな支持を得ている。
この店を切り盛りする老紳士の穏やかな人柄と美味しいコーヒー、そして甘味が客を惹きつけるのだ。
そんな客の一人である神里は、ブラックのコーヒーとカラフルなフルーツケーキを堪能していた。
甘く濃厚な味わいの生クリームの中にフルーツの酸味が加わる。
咀嚼するたびに幸せな気持ちが込み上げてくる。
天に昇るような甘みを楽しんだ後は、コーヒーの心地良い苦味で現実に立ち返る。
そして一息つく。
「ああ、やっぱりここの甘いもんは最高だな。堪らねえ」
「そうですね」
ちびちびとバニラアイスを食べながら、藤本は向かいに座る神里をチラリと見る。
見た目とは裏腹に、神里は大の甘党だった。
厳ついおじさんが全力でケーキを味わう様は見ていて実に面白い。
「なあ、藤本」
「はい」
「甘い物ってのは愛と同じなんだなあ」
「はい?」
「味わってる間は夢のように幸せな時間をくれる。
だが、それはあまりにも短く儚い」
「ああ、1個目のケーキを食べ終わったんですね。2個目は何にします?」
「そうだなあ、モンブランにするか」
追加注文をしようとして、神里はその手を止めた。
「……いや、やっぱりやめだ」
「どうしたんですか? いつもケーキ2個は軽くいくのに。
もしかして急に体調が悪くなったんですか?」
「そんなんじゃねえよ。今からここで会議を始めるんだ」
訝しい顔をする藤本を神里が手であしらう。
そして、真面目な顔つきになった。
「例の事件についてだ」
「ああ、はい」
「怨恨の線が復活した」
「それは、実行犯に兼河さんの情報を提供した人のことですか?」
「そうだ。しかもそいつは兼河とは相当親密な関係の人間だ。
合鍵をもってるか、もしくは作れるぐらいの距離感にある」
「合鍵?」
「兼河の遺体が発見された時、玄関の鍵は閉まっていた。
だが、部屋の鍵は兼河のポケットの中に入ったままだった。
だから、実行犯は合鍵を使って中に入り、出て行く時は鍵を閉めたと考えられる」
「なるほど。情報提供者が合鍵を持っていて、それを実行犯に渡したってことですか」
「そうだ」
「合鍵を持っているぐらいに距離の近い人。
それでいて、兼河さんに危害が及ぶように取り計らう人。
……確かに、怨恨の線が強そうですね」
「そういうわけだ。警察は兼河の交友関係の洗い直しと、
兼河殺しの実行犯の特定を並行してやることになるだろう。
というより、並行してやるのが一番解決への近道になる」
「じゃあ、僕たちに出来ることは?」
「今はここまでだ。向こうから何か相談してきたら、また考えてやればいい」
そう言うと、神里はコーヒーをぐいと飲み込んだ。
僅かの間、沈黙する二人の間に静かなジャズの曲が流れる。
「あの、ちょっと良いですか?」
「どうした?」
「話は変わるんですけど、さっきのマンションで見かけた百合の花束について」
「ああ、2年前に飛び降りた奴がいたって話だったな」
「はい。花束を供えていたのは飛び降りた男性の息子さんでした」
「そうか。気の毒にな」
「それで、その人からちょっと不可解なことを聞いたんです」
「何だ?」
「あのマンション、飛び降りた男性とは何の関係も無い場所だったそうなんです」
「ん? そこの住民だったんじゃないのか?」
「違ったみたいです」
「そうか。不可解だが、たまにそういう事例はあるからなあ。
あのマンション、オートロック付きじゃないから外部の人間でも簡単に入れるしな」
「そうですね。それでか警察も事件性無しと判断したそうです」
「じゃあ自殺で確定か」
「公式記録としては」
「何か含みのある言い方をするな」
「はい」
「何だよ。勿体ぶらずにさっさと言え」
藤本は話しながら相手の反応を観察する癖がある。
相手の反応次第によっては、話すことをやめてしまうのだ。
その癖が、神里は気に食わない。
「うーん」
「言えっつってんだろ。聞くから」
「それじゃあ……」
小さく咳払いをしてから、藤本は改めて口を開いた。
「亡くなった男性の息子さん、他殺を疑ってるみたいなんです」
「ほう。なぜだ?」
「根拠については教えてもらえませんでした」
「だが、息子としては何か心当たりがあるんだろう?」
「でしょうね」
「ふむ」
コーヒーを口に運んで神里は少しばかり考える。
「もし、本当に他殺だったと仮定したら、二つほど可能性が思いつくな」
「一つは?」
「マンションの屋上で、父親は誰かとトラブって揉み合いになった。
その拍子に屋上から転落した」
「なるほど。もう一つは?」
「あのマンションのどこかの部屋で父親は誰かに殺された。
で、それを誤魔化すために犯人が屋上から死体を落として、自殺に見せかけた。
その場合、自殺に見せかけるような怪我を負っていたはずだから、
本当は撲殺だったってところだろう」
「なるほど。それも有りですね」
「だが、いずれにしても確たる証拠は無いし、
警察が公式で自殺と判断してるからなあ。
それに何より、2年前のことなんだろう?
よっぽどのことがない限り、真相なんて分かりっこないだろうなあ」
「そうですよね」
「遺された家族には気の毒な話だがな」
「そうですね」
頷いて、藤本もコーヒーを啜る。
ぬるくなったコーヒーは苦みが際立っていた。
表情を変えることなくそれを飲み干すと、藤本は神里の視線に気付いた。
相手を見据えるような視線に。
「さてと。それじゃあ、今度は俺からの質問だ」
「何ですか?」
「その息子の件だが、たまたま居合わせただけの赤の他人であるお前さんに、
そんな大事な話をしたのはなぜだと思う?」
「……」
神里の質問を受けて藤本は少しだけ考える。
そしてすぐに口を開いた。
「むしろ、赤の他人だから話せたのではないでしょうか」
「ほう?」
「父親の死について何か知っている。
でもそれは、おいそれと人に話せる内容ではない。
身近な人であるほど話せない。でも、一人で抱え続けるのは苦しい。
誰でもいいから聞いてほしい。苦しみを吐き出したい。
その相手は見ず知らずの他人である方が良い。
……といったところでしょうか」
「それはお前さんが心で感じたものか?」
「はい。直感で受けた何となくの感情を出来るだけ言語化してみました」
「そうか」
うんうんと頷いて神里は満足そうに笑った。
「直感でそれだけ理解できてりゃ上出来だ」
「うーん、理解……出来てるんですかね?」
「俺がそう言ってるんだ。自信を持て」
「はあ」
「よし、気分が良いからコーヒーをもう一杯、追加で奢ってやろう」
「良いんですか?」
「俺に二言はない」
「ありがとうございます。じゃあ遠慮なく」
「おう。俺も何か注文するかな。頭を使ったから糖分の補給が必要だ」
「さっき注文し損ねたケーキ、食べます?」
「……いや、いい。コーヒーに砂糖をぶっ込んでおけば充分だ」
「そうですか。分かりました」
その後、運ばれてきたコーヒーを飲みながら二人はしばらく他愛ない雑談を交わした。
そうして、店を出た頃にはすっかり日も傾いていた。
活気あふれる喧騒から一線を隠した路地裏には、落ち着いた雰囲気の飲食店が立ち並んでいる。
その中の一角に、喫茶『隠れ家』はひっそりと佇んでいた。
煉瓦造りのレトロな雰囲気が心地いい喫茶店だ。
派手な人気があるわけではないが、確かな支持を得ている。
この店を切り盛りする老紳士の穏やかな人柄と美味しいコーヒー、そして甘味が客を惹きつけるのだ。
そんな客の一人である神里は、ブラックのコーヒーとカラフルなフルーツケーキを堪能していた。
甘く濃厚な味わいの生クリームの中にフルーツの酸味が加わる。
咀嚼するたびに幸せな気持ちが込み上げてくる。
天に昇るような甘みを楽しんだ後は、コーヒーの心地良い苦味で現実に立ち返る。
そして一息つく。
「ああ、やっぱりここの甘いもんは最高だな。堪らねえ」
「そうですね」
ちびちびとバニラアイスを食べながら、藤本は向かいに座る神里をチラリと見る。
見た目とは裏腹に、神里は大の甘党だった。
厳ついおじさんが全力でケーキを味わう様は見ていて実に面白い。
「なあ、藤本」
「はい」
「甘い物ってのは愛と同じなんだなあ」
「はい?」
「味わってる間は夢のように幸せな時間をくれる。
だが、それはあまりにも短く儚い」
「ああ、1個目のケーキを食べ終わったんですね。2個目は何にします?」
「そうだなあ、モンブランにするか」
追加注文をしようとして、神里はその手を止めた。
「……いや、やっぱりやめだ」
「どうしたんですか? いつもケーキ2個は軽くいくのに。
もしかして急に体調が悪くなったんですか?」
「そんなんじゃねえよ。今からここで会議を始めるんだ」
訝しい顔をする藤本を神里が手であしらう。
そして、真面目な顔つきになった。
「例の事件についてだ」
「ああ、はい」
「怨恨の線が復活した」
「それは、実行犯に兼河さんの情報を提供した人のことですか?」
「そうだ。しかもそいつは兼河とは相当親密な関係の人間だ。
合鍵をもってるか、もしくは作れるぐらいの距離感にある」
「合鍵?」
「兼河の遺体が発見された時、玄関の鍵は閉まっていた。
だが、部屋の鍵は兼河のポケットの中に入ったままだった。
だから、実行犯は合鍵を使って中に入り、出て行く時は鍵を閉めたと考えられる」
「なるほど。情報提供者が合鍵を持っていて、それを実行犯に渡したってことですか」
「そうだ」
「合鍵を持っているぐらいに距離の近い人。
それでいて、兼河さんに危害が及ぶように取り計らう人。
……確かに、怨恨の線が強そうですね」
「そういうわけだ。警察は兼河の交友関係の洗い直しと、
兼河殺しの実行犯の特定を並行してやることになるだろう。
というより、並行してやるのが一番解決への近道になる」
「じゃあ、僕たちに出来ることは?」
「今はここまでだ。向こうから何か相談してきたら、また考えてやればいい」
そう言うと、神里はコーヒーをぐいと飲み込んだ。
僅かの間、沈黙する二人の間に静かなジャズの曲が流れる。
「あの、ちょっと良いですか?」
「どうした?」
「話は変わるんですけど、さっきのマンションで見かけた百合の花束について」
「ああ、2年前に飛び降りた奴がいたって話だったな」
「はい。花束を供えていたのは飛び降りた男性の息子さんでした」
「そうか。気の毒にな」
「それで、その人からちょっと不可解なことを聞いたんです」
「何だ?」
「あのマンション、飛び降りた男性とは何の関係も無い場所だったそうなんです」
「ん? そこの住民だったんじゃないのか?」
「違ったみたいです」
「そうか。不可解だが、たまにそういう事例はあるからなあ。
あのマンション、オートロック付きじゃないから外部の人間でも簡単に入れるしな」
「そうですね。それでか警察も事件性無しと判断したそうです」
「じゃあ自殺で確定か」
「公式記録としては」
「何か含みのある言い方をするな」
「はい」
「何だよ。勿体ぶらずにさっさと言え」
藤本は話しながら相手の反応を観察する癖がある。
相手の反応次第によっては、話すことをやめてしまうのだ。
その癖が、神里は気に食わない。
「うーん」
「言えっつってんだろ。聞くから」
「それじゃあ……」
小さく咳払いをしてから、藤本は改めて口を開いた。
「亡くなった男性の息子さん、他殺を疑ってるみたいなんです」
「ほう。なぜだ?」
「根拠については教えてもらえませんでした」
「だが、息子としては何か心当たりがあるんだろう?」
「でしょうね」
「ふむ」
コーヒーを口に運んで神里は少しばかり考える。
「もし、本当に他殺だったと仮定したら、二つほど可能性が思いつくな」
「一つは?」
「マンションの屋上で、父親は誰かとトラブって揉み合いになった。
その拍子に屋上から転落した」
「なるほど。もう一つは?」
「あのマンションのどこかの部屋で父親は誰かに殺された。
で、それを誤魔化すために犯人が屋上から死体を落として、自殺に見せかけた。
その場合、自殺に見せかけるような怪我を負っていたはずだから、
本当は撲殺だったってところだろう」
「なるほど。それも有りですね」
「だが、いずれにしても確たる証拠は無いし、
警察が公式で自殺と判断してるからなあ。
それに何より、2年前のことなんだろう?
よっぽどのことがない限り、真相なんて分かりっこないだろうなあ」
「そうですよね」
「遺された家族には気の毒な話だがな」
「そうですね」
頷いて、藤本もコーヒーを啜る。
ぬるくなったコーヒーは苦みが際立っていた。
表情を変えることなくそれを飲み干すと、藤本は神里の視線に気付いた。
相手を見据えるような視線に。
「さてと。それじゃあ、今度は俺からの質問だ」
「何ですか?」
「その息子の件だが、たまたま居合わせただけの赤の他人であるお前さんに、
そんな大事な話をしたのはなぜだと思う?」
「……」
神里の質問を受けて藤本は少しだけ考える。
そしてすぐに口を開いた。
「むしろ、赤の他人だから話せたのではないでしょうか」
「ほう?」
「父親の死について何か知っている。
でもそれは、おいそれと人に話せる内容ではない。
身近な人であるほど話せない。でも、一人で抱え続けるのは苦しい。
誰でもいいから聞いてほしい。苦しみを吐き出したい。
その相手は見ず知らずの他人である方が良い。
……といったところでしょうか」
「それはお前さんが心で感じたものか?」
「はい。直感で受けた何となくの感情を出来るだけ言語化してみました」
「そうか」
うんうんと頷いて神里は満足そうに笑った。
「直感でそれだけ理解できてりゃ上出来だ」
「うーん、理解……出来てるんですかね?」
「俺がそう言ってるんだ。自信を持て」
「はあ」
「よし、気分が良いからコーヒーをもう一杯、追加で奢ってやろう」
「良いんですか?」
「俺に二言はない」
「ありがとうございます。じゃあ遠慮なく」
「おう。俺も何か注文するかな。頭を使ったから糖分の補給が必要だ」
「さっき注文し損ねたケーキ、食べます?」
「……いや、いい。コーヒーに砂糖をぶっ込んでおけば充分だ」
「そうですか。分かりました」
その後、運ばれてきたコーヒーを飲みながら二人はしばらく他愛ない雑談を交わした。
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