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15 抉られた記憶④
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その日の夜、康介は良い気分で過ごしていた。
楓の精神的なダメージは最悪のところまで行かずに済んでいたことが分かった。
それに、楓と言葉を交わしながら何度も彼の笑顔を見ることが出来た。
後は……せめて、病室で一人で眠る楓がこれ以上悪夢に苛まれなければ良いのだが……
そんなことを考えながらコーヒーを飲んでいる最中、自宅のインターホンが鳴った。
玄関に出ると、そこには横井祐子が立っていた。
「どうした?こんな時間に」
「藤咲さんにご報告しておきたいことがあってきました」
「何かあったのか?」
「実は今日、浦坂実の共犯者と思われる男が逮捕されました」
「本当か⁉︎」
「はい。別件での逮捕だったのですが、
取り調べの最中に浦坂と関係があることが判りまして……」
「そうか。ここで話すのはあれだから、中に入って詳しく教えてくれ」
「分かりました」
田城昌志【25】
違法薬物の使用・所持の常習犯で、刑務所を出たり入ったりを繰り返している。
今回も、挙動の怪しさから制服警官による職務質問を受けた結果、覚醒剤の所持が確認されその場で逮捕された。
取り調べにて、田城は浦坂実から覚醒剤を貰ったと証言した。
買ったのではなく、貰ったと言った。
浦坂の仕事を手伝った報酬として、幾らかの現金と覚醒剤を貰い受けたのだった。
田城が手伝った「仕事」というのが、河戸晴子の拉致と殺害。
そして、藤咲楓の拉致と未遂に終わった殺害行為だった。
「もちろん、薬物の影響で妄想話をしている可能性もありますので、
明日以降、更に詳しい取り調べが行われる予定ですが」
「なるほどな」
祐子の話を、康介は熱心に聞いていた。
浦坂実の共犯者が捕まったのは本当に大きな進展だった。
このまま一気に解決に向かってほしい。
浦坂実が捕まらなければ、楓はこの先ずっと奴の影に怯えながら生きなければならないことになる。そんな思いはさせたくない。絶対に。
「横井、今日はありがとう。良い報告が聞けて良かった」
「こちらこそ、お役に立てて良かったです」
祐子が帰る間際、康介が玄関先で彼女に礼を告げた。
にっこりと笑い、祐子はそれに応える。
「そうそう、アメジストのことも教えてくれてありがとう。良い参考になったよ」
「じゃあ、今夜はよく眠れそうですか?」
「そうだと良いなってところか。何にせよ、君には世話になった。
事件が落ち着いたら、何らかの形でお礼をしないとな」
そう言って軽く笑って見せた時、康介は唇に柔らかい感触を当てられた。
祐子が、キスをしてきたのだ。
全く予想だにしていないことで、康介にとっては不意打ちだった。
「お礼、頂いちゃいました」
悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言うと、祐子は足早に立ち去っていった。
その場に残された康介は、未だに驚きを隠せないまま立ち尽くしている。
「何なんだよ、いきなり」
突然の事態に頭を抱えて大きくため息をつきながら、康介はひとり呟いた。
楓の精神的なダメージは最悪のところまで行かずに済んでいたことが分かった。
それに、楓と言葉を交わしながら何度も彼の笑顔を見ることが出来た。
後は……せめて、病室で一人で眠る楓がこれ以上悪夢に苛まれなければ良いのだが……
そんなことを考えながらコーヒーを飲んでいる最中、自宅のインターホンが鳴った。
玄関に出ると、そこには横井祐子が立っていた。
「どうした?こんな時間に」
「藤咲さんにご報告しておきたいことがあってきました」
「何かあったのか?」
「実は今日、浦坂実の共犯者と思われる男が逮捕されました」
「本当か⁉︎」
「はい。別件での逮捕だったのですが、
取り調べの最中に浦坂と関係があることが判りまして……」
「そうか。ここで話すのはあれだから、中に入って詳しく教えてくれ」
「分かりました」
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買ったのではなく、貰ったと言った。
浦坂の仕事を手伝った報酬として、幾らかの現金と覚醒剤を貰い受けたのだった。
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そして、藤咲楓の拉致と未遂に終わった殺害行為だった。
「もちろん、薬物の影響で妄想話をしている可能性もありますので、
明日以降、更に詳しい取り調べが行われる予定ですが」
「なるほどな」
祐子の話を、康介は熱心に聞いていた。
浦坂実の共犯者が捕まったのは本当に大きな進展だった。
このまま一気に解決に向かってほしい。
浦坂実が捕まらなければ、楓はこの先ずっと奴の影に怯えながら生きなければならないことになる。そんな思いはさせたくない。絶対に。
「横井、今日はありがとう。良い報告が聞けて良かった」
「こちらこそ、お役に立てて良かったです」
祐子が帰る間際、康介が玄関先で彼女に礼を告げた。
にっこりと笑い、祐子はそれに応える。
「そうそう、アメジストのことも教えてくれてありがとう。良い参考になったよ」
「じゃあ、今夜はよく眠れそうですか?」
「そうだと良いなってところか。何にせよ、君には世話になった。
事件が落ち着いたら、何らかの形でお礼をしないとな」
そう言って軽く笑って見せた時、康介は唇に柔らかい感触を当てられた。
祐子が、キスをしてきたのだ。
全く予想だにしていないことで、康介にとっては不意打ちだった。
「お礼、頂いちゃいました」
悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言うと、祐子は足早に立ち去っていった。
その場に残された康介は、未だに驚きを隠せないまま立ち尽くしている。
「何なんだよ、いきなり」
突然の事態に頭を抱えて大きくため息をつきながら、康介はひとり呟いた。
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