【完結】誓いの指輪〜彼のことは家族として愛する。と、心に決めたはずでした〜

山賊野郎

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13 抉られた記憶②

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「藤咲さん、顔色が悪いですよ」
「え? そうかな」
「体調が良くないんですか?」
「いや、そうじゃないんだ」
「じゃあ、寝不足とか」
「あー……それはあるかも」

楓のことが気掛かりで、康介は充分な睡眠を取れていなかった。
同僚の横井祐子に指摘されるぐらいには酷い顔をしていたらしい。

「ところで横井ってさ、雑貨とかに詳しい?」
「ええ、まあ多少は」
「じゃあ、ちょっと聞きたいんだけど、悪夢に効く雑貨とか知らない?」
「悪夢に効く雑貨? 夢見が悪いんですか?」
「うん、まあちょっとな」
「寝不足なら、ラベンダーのアロマオイルが良いと思いますよ。
 私ので良ければ明日にでも持ってきましょうか?」
「いやー、アロマとかそういうのはちょっと困るな。
 お守り感覚で身につけられる物が良いんだ」
「そういうことなら、パワーストーンはどうですか?」
「ああ、アクセサリーとかでよく使われてる石か」
「アメジストなんかオススメですよ。
 魔除けだけじゃなくて、安眠の効果もあるらしいですから」
「ほう、そうなのか」
「実は、私がいつも使ってるヘアピンにも小さいアメジストが付いてるんですよ」
「あ、本当だ」
「職業柄、派手なお洒落は出来ないですからね。これぐらいなら目立たないから良いかなって」
「なるほど。参考になったよ。ありがとう」
「あ、ちょっと藤咲さん!話はまだ……」

まだ話をしたそうだった祐子に軽く礼を言って、康介は警察署を後にした。


昨日に引き続き空は暗く、街には冷たい雨が降り続いている。
そんな中、今日も康介は楓を見舞いに病院を訪れた。
今日は少し寄り道をしてきたので、いつもより遅い到着になった。

「…………」

やはり、病室の扉の前で躊躇ってしまう。
今日は楓と話が出来るだろうか?
何を話せば良いだろうか?
眉間に皺を寄せて考え込む──その時だった。
ガシャン! と金属が何かに強くぶつかるような音が響いた。
それは部屋の中からだった。
何かあったのかと思い、康介は即座に扉を開ける。

「楓っ!」

見れば、楓が床に這いつくばっていた。
更に、点滴スタンドがその近くに倒れている。

「あ……ああ……」

楓は康介の方を見て息を呑む。
何か恐ろしいものでも見たかのように顔を歪めていた。
そして、どこかへ逃げようとして思うように動かない体を無理やり引き摺る。
必死に伸ばした手の先に5階の窓があることを意識して、康介は慌てて楓に駆け寄った。
背後から抱え込み、窓に向かって伸ばされていた手を強く握り締める。

「っ……!」

楓はビクッと体を震わせて、声にならない悲鳴を上げる。
それから、荒い呼吸を何度も繰り返した。

「どうした? 怖い夢でも見てベッドから落っこちたか?」
「…………」
「痛かったろ? ベッドに戻ろうな」

楓が怖がらないように、康介はわざと戯けた口調で話しかける。
しかし、楓はひたすら荒い呼吸を繰り返すのみだった。
暫くそうしていると、楓はそのまま力無く項垂れた。

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

震える声に合わせて床にポタポタと水滴が落ちる。
そんな楓を、康介はそのまま背後から抱きすくめた。

「どうした? 何で謝るんだよ」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「あ、俺の言いつけを守れなかったとか、そんなこと思ってるのか?
 だったら気にしなくて良いぞ。
 俺の力になろうと思って、辛いのに頑張ってくれたんだよな」

耳元で優しく囁き、髪を撫でる。
康介は、とにかく楓を安心させてやりたかった。

「ごめんなさい……」
「だから謝ることはないって。お前は何も悪くないんだぞ」
「ごめんなさい……ごめんなさ……」
「……楓?」

不意に楓がぐったりとして動かなくなる。意識を失ったらしい。
そう判断して、康介は楓をそっと抱き上げた。
想像以上に軽くなっていたその体に不安を覚えつつ、とりあえずベッドに運ぶ。
その時、楓の腕から出血があることに気付いた。
点滴の途中で無理やり針を引き抜いてしまったからだろう。
倒れていた点滴スタンドを起こして、康介は医者を呼んだ。
「ベッドから転落した」ということだけを伝えて、処置を施してもらった。
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