【本編完結/番外編追加】真・誓いの指輪〜彼のことは家族として……そして、人生の伴侶として愛することを心に決めました〜

山賊野郎

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39、夢

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「ねえ、お母さん」
「なあに、楓」
「コウスケさんって、ボクの“お父さん”になるの?」
「さあ……どうかしらね」
「ならないの?」
「分からないわね。先のことは」
「コウスケさんのこと、好きじゃないの?」
「好きよ。良い人だと思う。でもね、愛しているのは違う人なの」
「??」
「楓には、まだ分からないわね」
「ボク、ずっとコウスケさんと一緒に居たい」
「そう? ……大好きなのね、康介さんのことが」
「うん。好き」
「ふふ」



母の手で頭を撫でられる。
優しくて暖かくて、懐かしい。
幼い頃の、幸せだった頃の記憶。

「…………」

切ない心地が込み上がり、それと同時に意識が引き上げられる。

「…………」

目を覚ました時、楓は一筋の涙を流していた。
悲しいとか辛いとか、そんな気持ちではなかった。
夢の中で、久しぶりに母親を見た懐かしさからだろうか。
それとも、かつて康介と恋仲だった母親への罪悪感からだろうか。

「あ……」

ふと、楓は気付いた。
体が清められていて、服を纏っている。
首筋に手を当てると、真新しいガーゼが充てがわれてた。
まるで、昨夜は何も無かったかのように思えた。

(夢……だったのかな。全部)

怪訝に思い体を起こす。
すると、体の奥の方から鈍い痛みが迸った。

「うっ……」

その痛みで、楓は確信する。

(ああ、夢じゃなかったんだ)

サイドテーブルにはお守りの指輪が置いてあった。
安堵して、深く息をつく。
目を閉じると、更に涙がこぼれ落ちた。
その時、扉の開く音が響き、バタバタと慌てたような足音が続いた。

「楓、どうした?」

楓が泣いていることに気付いた康介が焦った様子で駆け寄る。
そして、優しい手つきで背中をさすった。

「どこか痛いのか?」
「う……ううん」
「怖い夢でも見たのか?」
「ううん」
「じゃあ……」
「昨夜のことが」
「え?」
「昨夜のことが、夢じゃなかったって分かったから」
「え……」

ピタリと康介の手が止まる。
やはり、楓を傷付けてしまったのだろうか……と恐れていた不安が押し寄せてくる。
その時、顔を上げた楓が、しっかりと康介の目を見つめた。

「だから、嬉しくて」

目に愛しさを湛えて微笑む。
それは、まごうことなき嬉し涙だった。

「そうか。そうだったか」

不安が安心に塗り替えられる。
込み上げてくる喜びに口元が綻ぶ。
ありったけの愛情を込めて、康介は楓を抱き締めた。強く優しく抱き締めた。

「良かった。俺も嬉しい」

このまま昨夜のように押し倒したくなったが、どうにか康介はその欲望を堪えた。
暫くして体を離すと、お互いにぎこちなく笑い合った。
ぎこちなかったが、そこには確かな甘い空気感があった。
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