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31、更なる真相
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検査結果に大きな問題が無かったので、楓は昼頃には退院する運びになった。
本来ならすぐに自宅に連れて帰りたかったが、昨日の事件についての事情聴取がある。
仕方なく、警察署に立ち寄ることになった。
「覚えてることを喋るだけで良いからな」
「うん」
「辛かったら無理に話さなくて良いから」
「うん」
「刑事の態度が悪かったらすぐに俺に言うんだぞ」
「うん」
「それから……」
「大丈夫だから、心配しないで」
「心配する!」
雨の中、警察署を前にして康介があれやこれやと注意を促す。
これから事情聴取を受ける楓を思ってのことだった。
康介の心配ぶりに苦笑しつつ、楓は警察署に足を踏み入れた。
被害者側の事情聴取である為、総合相談室に通された。
康介も同席したかったが、家族に被害者が出た瞬間から彼は基本捜査から外されている。
今は楓の保護者として部屋の外で待つしかなかった。
「…………」
総合相談室の手前にある長椅子に腰掛けてやきもきとした時間を過ごす。
そんな康介のもとに、よく見知った人影が現れた。
「藤咲さん」
「ああ、高倍か」
同僚の刑事・高倍が康介の側まで歩み寄ってきた。
「昨日は世話をかけたな」
「ええ、まあ。突然の殺人事件で慌ただしくはなりましたね」
「だよなあ」
「仕方ないですよ。そういう仕事ですから」
若さからか疲れも見せずに高倍は笑った。
「ところで、楓くんの様子はどうですか?」
「体の傷の方は何とかなりそうだが、精神面がなあ……」
「そりゃそうですよね」
「出来るだけ傍に付いていられるようにしたいんだが、この仕事をしてるとなあ」
「ですよね。思うように相手の傍に居られないのってキツいんですよね。
俺も、この仕事が原因で過去に4回も彼女に振られたから、よく分かります」
「そいつはご愁傷様」
「もう慣れっこですよ」
何でもない事のように高倍は笑う。
それから、真面目な顔つきで話を切り出した。
「そうそう、藤咲さんに1つ報告があったんです」
「何だ?」
「藤咲さん、今年の4月に発生した未解決の婦女暴行事件を調べてましたよね」
「ああ。女子高生の大市美海が被害に遭った事件だな」
「実は、その犯人のDNAが一致したんですよ。中岡恭志と。
逮捕者のデータベースに載せるために採取したら、まさかの結果でした」
「……そうか。じゃあ、これであの事件も解決だな」
高倍からの報告を聞いても、康介は特に表情を変えなかった。
訝しい顔で高倍が首を傾げる。
「あまり驚かないんですね」
「ああ。何となく、そんな気がしてたから」
「え? 何でですか?」
「大市美海も津木恋月も、見た目が楓に似てたから」
「ああ……」
「あいつ、中岡は楓に出会った事で自分が狂ったようなことを言っていただろ?」
「ええ、言ってましたね」
「それが4月だ。中岡は、楓の代わりにまずは大市美海を襲ったんだ。
その時は欲望のままにやったんだろう。
だが、そんなことはいつまでも続けられない。
それで、パパ活をしている女の子の中から楓に似た風貌の子を見つけて、
関係を持つようになったんだろう。それが津木恋月だったってわけだ」
「捜査から外されてるのに、よく分かりますね」
「何となく想像のつくことだからな」
嬉しくなさそうに康介は頷いた。
そういえば、中岡は過去に赴任していた学校にて、生徒への暴行で問題になったたことがあるという話だった。
今にして思えば、その暴行というのも……
(いや、示談という形で話は済んでるんだ。これ以上は詮索してはいけない)
思い直して、康介は考えることをやめた。
「じゃあ、俺は仕事に戻ります」
「ああ。わざわざ報告にきてくれてありがとう」
「いえいえ、楓くんにもよろしく言っといて下さい」
「それは断る」
「何でですか。お願いしますよー」
ケラケラと笑いながら高倍は立ち去っていった。
高倍は気さくな男だ。もし仲良くなれたら、楓にとっては兄のような存在になってくれるだろう。
(けど、俺の知らないところで楓と仲良くなられるのは悔しいから嫌だな)
謎の嫉妬心を燃やしつつ、康介は腕組みをする。
そんな中、事情聴取を終えた楓が部屋から出てきた。
「ああ、楓。事情聴取、終わったのか?」
「うん」
慌てて立ち上がり、楓の表情を確認する。
青褪めていたり、ショックを受けていたり……そういった様子は見受けられなかった。
「大丈夫だったか?」
「うん。大丈夫」
「そうか。じゃあ、帰ろう」
「うん」
頷いた楓の肩をそっと抱き寄せる。
こうして康介は、楓と連れ立って警察署を後にした。
本来ならすぐに自宅に連れて帰りたかったが、昨日の事件についての事情聴取がある。
仕方なく、警察署に立ち寄ることになった。
「覚えてることを喋るだけで良いからな」
「うん」
「辛かったら無理に話さなくて良いから」
「うん」
「刑事の態度が悪かったらすぐに俺に言うんだぞ」
「うん」
「それから……」
「大丈夫だから、心配しないで」
「心配する!」
雨の中、警察署を前にして康介があれやこれやと注意を促す。
これから事情聴取を受ける楓を思ってのことだった。
康介の心配ぶりに苦笑しつつ、楓は警察署に足を踏み入れた。
被害者側の事情聴取である為、総合相談室に通された。
康介も同席したかったが、家族に被害者が出た瞬間から彼は基本捜査から外されている。
今は楓の保護者として部屋の外で待つしかなかった。
「…………」
総合相談室の手前にある長椅子に腰掛けてやきもきとした時間を過ごす。
そんな康介のもとに、よく見知った人影が現れた。
「藤咲さん」
「ああ、高倍か」
同僚の刑事・高倍が康介の側まで歩み寄ってきた。
「昨日は世話をかけたな」
「ええ、まあ。突然の殺人事件で慌ただしくはなりましたね」
「だよなあ」
「仕方ないですよ。そういう仕事ですから」
若さからか疲れも見せずに高倍は笑った。
「ところで、楓くんの様子はどうですか?」
「体の傷の方は何とかなりそうだが、精神面がなあ……」
「そりゃそうですよね」
「出来るだけ傍に付いていられるようにしたいんだが、この仕事をしてるとなあ」
「ですよね。思うように相手の傍に居られないのってキツいんですよね。
俺も、この仕事が原因で過去に4回も彼女に振られたから、よく分かります」
「そいつはご愁傷様」
「もう慣れっこですよ」
何でもない事のように高倍は笑う。
それから、真面目な顔つきで話を切り出した。
「そうそう、藤咲さんに1つ報告があったんです」
「何だ?」
「藤咲さん、今年の4月に発生した未解決の婦女暴行事件を調べてましたよね」
「ああ。女子高生の大市美海が被害に遭った事件だな」
「実は、その犯人のDNAが一致したんですよ。中岡恭志と。
逮捕者のデータベースに載せるために採取したら、まさかの結果でした」
「……そうか。じゃあ、これであの事件も解決だな」
高倍からの報告を聞いても、康介は特に表情を変えなかった。
訝しい顔で高倍が首を傾げる。
「あまり驚かないんですね」
「ああ。何となく、そんな気がしてたから」
「え? 何でですか?」
「大市美海も津木恋月も、見た目が楓に似てたから」
「ああ……」
「あいつ、中岡は楓に出会った事で自分が狂ったようなことを言っていただろ?」
「ええ、言ってましたね」
「それが4月だ。中岡は、楓の代わりにまずは大市美海を襲ったんだ。
その時は欲望のままにやったんだろう。
だが、そんなことはいつまでも続けられない。
それで、パパ活をしている女の子の中から楓に似た風貌の子を見つけて、
関係を持つようになったんだろう。それが津木恋月だったってわけだ」
「捜査から外されてるのに、よく分かりますね」
「何となく想像のつくことだからな」
嬉しくなさそうに康介は頷いた。
そういえば、中岡は過去に赴任していた学校にて、生徒への暴行で問題になったたことがあるという話だった。
今にして思えば、その暴行というのも……
(いや、示談という形で話は済んでるんだ。これ以上は詮索してはいけない)
思い直して、康介は考えることをやめた。
「じゃあ、俺は仕事に戻ります」
「ああ。わざわざ報告にきてくれてありがとう」
「いえいえ、楓くんにもよろしく言っといて下さい」
「それは断る」
「何でですか。お願いしますよー」
ケラケラと笑いながら高倍は立ち去っていった。
高倍は気さくな男だ。もし仲良くなれたら、楓にとっては兄のような存在になってくれるだろう。
(けど、俺の知らないところで楓と仲良くなられるのは悔しいから嫌だな)
謎の嫉妬心を燃やしつつ、康介は腕組みをする。
そんな中、事情聴取を終えた楓が部屋から出てきた。
「ああ、楓。事情聴取、終わったのか?」
「うん」
慌てて立ち上がり、楓の表情を確認する。
青褪めていたり、ショックを受けていたり……そういった様子は見受けられなかった。
「大丈夫だったか?」
「うん。大丈夫」
「そうか。じゃあ、帰ろう」
「うん」
頷いた楓の肩をそっと抱き寄せる。
こうして康介は、楓と連れ立って警察署を後にした。
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