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29、真相
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逮捕された中岡は、津木恋月の殺害をあっさりと認めた。
室内に遺体があったことから、言い逃れは不可能だと観念したようだった。
中岡と恋月の関係は今年の6月頃から始まっていた。
中岡から声を掛けて、恋月がそれに応えたものだった。
何ヶ月もお互い合意の上の関係だったが、ここにきて恋月がより高額の金銭を要求してきた。
応じなければ、中岡の勤務先にパパ活の件をバラすと脅迫してきた。
逆上した中岡は彼女に殴る蹴るの暴行を働いた。
気付いた時には、撲殺された恋月の遺体が床に転がっていたという。
どうやら中岡は、精神が昂ると我を忘れて酷い暴力に走るきらいがあるらしかった。
取調べの最中、中岡はしきりに「本当は藤咲楓が欲しかった」と言った。
「あの女は楓の代わりに過ぎなかった」
「あいつに出会わなければ自分は狂わずに済んだ」
「全部あいつのせいだ」
などと、戯れ言を繰り返していた。
「…………」
高倍からの報告を聞き終えて、康介は通話を切った。
およそ楓に伝えるような事はない。
己の欲望に負けた中岡が人としての道に外れる行為に及んだ。ただそれだけのことだ。
楓はその被害者の一人だ。
彼には何の落ち度もない。
中岡のふざけた言い訳を聞かせて、これ以上心に傷を負わせる必要は無い。
携帯端末を懐に仕舞い込み、康介は病室に戻った。
病室では治療を終えた楓が静かに眠っていた。
二日連続で病院に担ぎ込まれることになり、医者を困惑させてしまった。
とは言え、楓は何も悪くないので仕方のないことだった。
「体の傷は何とかなるが、精神面が心配だ」と医者は言った。
それは康介も同じ思いだった。
「楓、頑張ろうな。俺と一緒に頑張ろうな」
鎮静剤が効いていて、今はよく眠っている。
どうか今夜は、夢の中でぐらいは穏やかに過ごしてほしい。
そう願いを込めて、康介は楓の手をしっかりと握り締めた。
室内に遺体があったことから、言い逃れは不可能だと観念したようだった。
中岡と恋月の関係は今年の6月頃から始まっていた。
中岡から声を掛けて、恋月がそれに応えたものだった。
何ヶ月もお互い合意の上の関係だったが、ここにきて恋月がより高額の金銭を要求してきた。
応じなければ、中岡の勤務先にパパ活の件をバラすと脅迫してきた。
逆上した中岡は彼女に殴る蹴るの暴行を働いた。
気付いた時には、撲殺された恋月の遺体が床に転がっていたという。
どうやら中岡は、精神が昂ると我を忘れて酷い暴力に走るきらいがあるらしかった。
取調べの最中、中岡はしきりに「本当は藤咲楓が欲しかった」と言った。
「あの女は楓の代わりに過ぎなかった」
「あいつに出会わなければ自分は狂わずに済んだ」
「全部あいつのせいだ」
などと、戯れ言を繰り返していた。
「…………」
高倍からの報告を聞き終えて、康介は通話を切った。
およそ楓に伝えるような事はない。
己の欲望に負けた中岡が人としての道に外れる行為に及んだ。ただそれだけのことだ。
楓はその被害者の一人だ。
彼には何の落ち度もない。
中岡のふざけた言い訳を聞かせて、これ以上心に傷を負わせる必要は無い。
携帯端末を懐に仕舞い込み、康介は病室に戻った。
病室では治療を終えた楓が静かに眠っていた。
二日連続で病院に担ぎ込まれることになり、医者を困惑させてしまった。
とは言え、楓は何も悪くないので仕方のないことだった。
「体の傷は何とかなるが、精神面が心配だ」と医者は言った。
それは康介も同じ思いだった。
「楓、頑張ろうな。俺と一緒に頑張ろうな」
鎮静剤が効いていて、今はよく眠っている。
どうか今夜は、夢の中でぐらいは穏やかに過ごしてほしい。
そう願いを込めて、康介は楓の手をしっかりと握り締めた。
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