【本編完結/番外編追加】真・誓いの指輪〜彼のことは家族として……そして、人生の伴侶として愛することを心に決めました〜

山賊野郎

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28、お前が悪い

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ものの数分ほどで康介はリビングに戻ってきた。
重く険しい面持ちに、高倍が恐る恐る尋ねる。

「何があったんですか、藤咲さん」
「殺人容疑の追加だ」
「えっ⁉︎」
「寝室のクローゼットに死体があった。行方不明だった津木恋月だ」
「なっ……!」
「係長には連絡した。間もなく応援が来る」

ツカツカと中岡のもとまで歩み寄り、康介は冷たい目で彼を見下ろした。

「こいつからは詳しく話を聞かないとな」

侮蔑に満ちた眼差しを向けて、地を這うような低い声で言い放った。
そこには、普段から康介の同僚として接している高倍でさえも背筋の凍る恐ろしさがあった。

「うう……」

唸る中岡に背を向けて、康介は楓の元に行く。

「待たせたな、楓。大丈夫だったか?」

意識の無い楓を抱き起こしながら話しかける。
つい先程中岡に向けたものとは打って変わって、甘く優しい声だった。

(まるで別人だよな。それぐらい楓くんのことが大切なのは分かるけど)

後ろ姿からでも伝わってくる、康介の楓への愛情。強過ぎるぐらいの愛情。
高倍は、少し離れた場所からぼんやりと二人を見つめた。

(事件に巻き込まれて危ない目に遭ったりしてるし、無理もないか)

そんな中、耳慣れたサイレン音が遠くから近づいてくるのが分かった。
応援の刑事たちを乗せた警察車両だろう。

「高倍、俺は今すぐに楓を病院に連れて行きたい。悪いが、ここを頼む」
「え? 救急車は……」
「いや、いい。この近くにかかりつけの病院がある。直接、連れて行った方が早い」
「そうですか。そういうことなら」

サイレンの音がすぐそばまで近づいてきて、止まる。
車のドアを開け閉めする音と、何人かの足音がそれに続いた。

「さあ、楓。俺と一緒に行こう」

優しく呼びかけて、康介は楓を横抱きにして持ち上げる。
そして、そのまま玄関の外に出ようとした時のことだった。

「そいつのせいだ!」
「⁉︎」
「全部そいつが悪いんだ!」

高倍に押さえつけられていた中岡が、顔だけを上げて康介と楓に向かって叫んだ。
訝しい顔で、ゆらりと康介がその方を振り返る。

「何を言ってる?」
「これまで上手くやってこれたのに……!
 藤咲楓、お前のせいで俺は狂わされたんだ!
 津木恋月が死んだのもお前のせいだ!
 お前が存在していなければ俺は狂わずに済んだ。
 彼女が死ぬこともなかった。全部全部、お前のせいだ!!」
「テメェ……」

中岡のあまりにも身勝手な言い分に、康介の目に殺意にも似た怒りが宿る。
その刹那、鈍い音とともに中岡の潰れた悲鳴が響いた。

「お前はもう黙れ」
「ぐうう……」

高倍が中岡の頭を掴み、床に叩きつけたのだった。
それを見て、康介は怒りを鎮めて再び玄関扉の方へ向き直った。
その時、扉が外から勢いよく開いた。
応援で駆けつけた刑事たちだった。

「藤咲! それに楓くん? これは一体……」

先頭で入ってきたベテラン刑事の米寺が、楓を抱えた康介を見て目を見開く。
康介は、部屋の中にいる高倍と中岡を目で示した。

「詳しいことはあいつから聞いてください。
 俺は、楓を病院に連れて行きます」
「……そうか。分かった」

険しい顔で楓を抱える康介を認めて、米寺は何も言わずに頷いた。
後のことを高倍および同僚の刑事たちに任せて、康介はアパートの裏手に停めていた車に乗り込んだ。
助手席に楓を乗せてしっかりとシートベルトを締める。
そうしてハンドルを握る前に、康介はもう一度楓に目をやった。
やはり意識は無い。
しかし、固く閉じられているはずの目からは一筋の涙が流れていた。

「…………」

眉間に皺を寄せて、康介はその涙を掬い上げる。
先程の、中岡による醜い言葉の羅列。
あの時、楓は気を失っていたので直接的には聞いていないはずだ。
しかし、おそらく脳はその言葉を認識している。
彼の潜在意識に、あれらの言葉が刻み付けられてしまったと思われる。
この涙が証拠だ。

「楓、お前のせいなんかじゃない。お前は何も悪くない。……いいな?」

優しく諭すように言って、楓の頭を撫でる。
それから、康介はハンドルを握りアクセルを踏み込んだ。
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