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24、本性③*
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「んうっ……」
突如、楓は背後から口を塞がれた。
中岡だった。
背後から抱き竦め、その手で楓の口を押さえていた。
「声を出すなよ」
耳元で中岡が低く囁く。
彼のもう一方の手には包丁が握られていた。
恐怖で硬直している中、もう一度インターホンが鳴る。
沈黙を通していると、次に扉を叩く音が響いた。
「中岡さん。警察の者です」
「──!」
思わず楓の体が反応する。
ノックとともに掛けられた声、それは康介のものだったのだ。
ピクリと動いた楓の喉に、チクリと小さな痛みが走る。
中岡が握る包丁の切っ先が僅かに刺さっていた。
「少しお話を伺いたいのですが、おられませんか?」
更に何度かノックを繰り返す。
それから、扉の向こうで誰かと何かを話している様子が窺い知れた。
扉越しに「仕方ない。行こう」との言葉が聞こえた時、楓の目から涙が零れ落ちた。
僅かな希望が絶たれた瞬間だった。
遠ざかる足音を聞きながら、楓は静かに涙を流した。
やがて訪れる静寂。
「ふう。行ったようだな」
招かれざる客が立ち去ったことを確信して、中岡は息をつく。
それから、腕に抱えていた楓を乱暴に引き倒した。
「あうっ……」
強かに床に体を打ち付けられて、痛みに呻く。
そのまま楓は中岡によって組み敷かれる格好になった。
「やれやれ。君は良い子だが……少しばかり躾が必要みたいだな」
「何を……」
躾と聞いて楓の体がビクリと震える。
次の瞬間、乾いた音が響き、頰に衝撃が走った。
「あの部屋から出ることは許さない、そう言ったはずだ」
少し語気を強めて怒りを表す。
そして中岡は平手で楓の頬を打った。
「や、やめて……」
「抵抗するな!」
「あ……」
相手が思い通りにならないことに苛立ち、中岡は渾身の力を込めて楓を殴った。
更に床に放置されていた包丁を手に取る。
高々と掲げられた刃が鈍く光った。
そして勢いよく振り下ろされる。
振り下ろされた刃は、楓の顔を掠めて床に深々と突き刺さった。
「…………」
楓は目を閉じたまま何も反応しない。
「おい」
軽く揺さぶってみるが、されるがままになるだけだった。
殴られた拍子に頭を打って気絶したのだろうか。
それとも、振り上げられた包丁を前にして恐怖から気を失ったのか。
なんにせよ、楓は中岡に対して一切の抵抗も見せず、人形のように動かなくなった。
「ああ、素直になったね。良い子だ。やっぱり君は良い子だなあ」
満足そうに笑い、中岡は意識の無い楓を抱き締めた。
よしよしと頭を撫でる。
それから頰に触れた。
打たれて赤くなった頬を慈しむような手つきで撫で回した。
「ふふふ、私のものだ。楓、君はもう私のものなんだ」
歪んだ愛情が迸る中岡の目に、楓の首筋が映る。
白く艶かしい肌に誘われるままに、中岡はその首筋に唇を押し当てた。
舌を這わせてじっくりと味わう。
支配欲が満たされる一方で、もっと欲しいもっと味わいたいという渇望が湧き上がる。
堪らず、その首筋に歯を立てた。
「うっ……」
楓の体がピクンと跳ねて小さな悲鳴を漏らす。
しかし、目は固く閉じられたままだった。
抵抗が無いことに気を良くした中岡は、今度は楓の首筋に齧り付いた。
破れた皮膚から血が噴き出る。
更に舌を這わせると、口いっぱいに血の味が広がった。
「美味い。美味い。最高だ……!」
狂った笑みを浮かべ、中岡は夢中で楓の首筋に吸い付いた。
あまりにも夢中になり過ぎていた。
だから、背後の物音にも気付かなかった。
突如、楓は背後から口を塞がれた。
中岡だった。
背後から抱き竦め、その手で楓の口を押さえていた。
「声を出すなよ」
耳元で中岡が低く囁く。
彼のもう一方の手には包丁が握られていた。
恐怖で硬直している中、もう一度インターホンが鳴る。
沈黙を通していると、次に扉を叩く音が響いた。
「中岡さん。警察の者です」
「──!」
思わず楓の体が反応する。
ノックとともに掛けられた声、それは康介のものだったのだ。
ピクリと動いた楓の喉に、チクリと小さな痛みが走る。
中岡が握る包丁の切っ先が僅かに刺さっていた。
「少しお話を伺いたいのですが、おられませんか?」
更に何度かノックを繰り返す。
それから、扉の向こうで誰かと何かを話している様子が窺い知れた。
扉越しに「仕方ない。行こう」との言葉が聞こえた時、楓の目から涙が零れ落ちた。
僅かな希望が絶たれた瞬間だった。
遠ざかる足音を聞きながら、楓は静かに涙を流した。
やがて訪れる静寂。
「ふう。行ったようだな」
招かれざる客が立ち去ったことを確信して、中岡は息をつく。
それから、腕に抱えていた楓を乱暴に引き倒した。
「あうっ……」
強かに床に体を打ち付けられて、痛みに呻く。
そのまま楓は中岡によって組み敷かれる格好になった。
「やれやれ。君は良い子だが……少しばかり躾が必要みたいだな」
「何を……」
躾と聞いて楓の体がビクリと震える。
次の瞬間、乾いた音が響き、頰に衝撃が走った。
「あの部屋から出ることは許さない、そう言ったはずだ」
少し語気を強めて怒りを表す。
そして中岡は平手で楓の頬を打った。
「や、やめて……」
「抵抗するな!」
「あ……」
相手が思い通りにならないことに苛立ち、中岡は渾身の力を込めて楓を殴った。
更に床に放置されていた包丁を手に取る。
高々と掲げられた刃が鈍く光った。
そして勢いよく振り下ろされる。
振り下ろされた刃は、楓の顔を掠めて床に深々と突き刺さった。
「…………」
楓は目を閉じたまま何も反応しない。
「おい」
軽く揺さぶってみるが、されるがままになるだけだった。
殴られた拍子に頭を打って気絶したのだろうか。
それとも、振り上げられた包丁を前にして恐怖から気を失ったのか。
なんにせよ、楓は中岡に対して一切の抵抗も見せず、人形のように動かなくなった。
「ああ、素直になったね。良い子だ。やっぱり君は良い子だなあ」
満足そうに笑い、中岡は意識の無い楓を抱き締めた。
よしよしと頭を撫でる。
それから頰に触れた。
打たれて赤くなった頬を慈しむような手つきで撫で回した。
「ふふふ、私のものだ。楓、君はもう私のものなんだ」
歪んだ愛情が迸る中岡の目に、楓の首筋が映る。
白く艶かしい肌に誘われるままに、中岡はその首筋に唇を押し当てた。
舌を這わせてじっくりと味わう。
支配欲が満たされる一方で、もっと欲しいもっと味わいたいという渇望が湧き上がる。
堪らず、その首筋に歯を立てた。
「うっ……」
楓の体がピクンと跳ねて小さな悲鳴を漏らす。
しかし、目は固く閉じられたままだった。
抵抗が無いことに気を良くした中岡は、今度は楓の首筋に齧り付いた。
破れた皮膚から血が噴き出る。
更に舌を這わせると、口いっぱいに血の味が広がった。
「美味い。美味い。最高だ……!」
狂った笑みを浮かべ、中岡は夢中で楓の首筋に吸い付いた。
あまりにも夢中になり過ぎていた。
だから、背後の物音にも気付かなかった。
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