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19、偶然
しおりを挟む「藤咲さん、いつまで怖い顔をしてるんですか」
未だに険しい顔で佇んでいた康介に、高倍が声を掛ける。
「ああ、すまん」
「あの女の子の話の中で『カエデ』って名前が出てきたのを気にしてるんですか」
「いや……」
「男の子にも女の子にも使える名前なんだし、たまたま被っただけなんだから、
そんなに怖い顔しないで下さいよ」
「ああ……」
恋月のパパ活の相手は、彼女との行為の最中、本心では『カエデ』を想っていた。
それを知った時、康介の脳裏に津木恋月と、自分の息子である楓の顔が浮かび上がった。
(似てるとは思っていたが)
更に、脳裏にもう一人の女子高生の顔が追加される。
大市美海……今年の4月に何者かに襲われた彼女も、楓に似た外見をしていた。
(これは偶然か?)
現時点では偶然としか言いようがない。
だが、康介の中では刑事の勘が蠢いていた。
(津木恋月の相手の男は、楓を知っている人物なんじゃないか?
楓には手を出せない代わりに、似た外見の女子に手を付けていたんじゃないか?)
楓は男の子だが、一見すると女の子に見えるぐらいに中性的な見た目をしている。
それに加えて、なぜだか男を惹きつける“何か”を内に秘めている。
だからか、幼い頃から変質者に狙われることがよくあった。
(もし、俺の想像通りなら彼女の相手は誰だ? 俺の知ってる奴の可能性もあるよな)
考え込んでいたところ、強めに肩を揺さぶられる。高倍だった。
「藤咲さん。いい加減にその顔を解いてください。
周りの高校生たちがチラチラ見てますよ」
「あ、ああ。悪い」
「昨日、津木恋月が行ってたカラオケ店の場所が分かったわけだし、
店周辺の防犯カメラのチェックをしましょう」
「ああ、そうだな。そうしよう」
“パパ”から呼び出しを受けてカラオケ店から出てくる恋月を、防犯カメラの記録から確認できるはずだ。
その後の彼女の足取りを掴む為の重要な手掛かりになる。
暗がりゆく空の下、康介と高倍は急ぎ署に戻った。
多くの人が行き交う繁華街。
その一角に佇むカラオケ店。
中から出てくる若い女性──失踪中の津木恋月だ。
店から出てきた恋月は制服から私服に着替えていた。
キョロキョロと周囲を見回す。
知ってる人間がいないかを確認しているようだった。
大丈夫そうだと判断して、彼女は手前に停車していた車に乗り込む。
黒のセダンだった。
そして車はどこかへ向かって走り去る。
……以上が防犯カメラに映っていた内容だった。
「あの車の主がパパ活の相手でしょうね」
「だろうな。残念ながら、ずっと車の中にいて顔は見えないが」
「津木恋月の行方を知るには、こいつの正体を掴まないと」
「車のナンバーは確認できそうだな。そこから調べよう」
「了解です」
警察署にて、康介と高倍は防犯カメラの映像を確認していた。
津木恋月の行方を知るには、この車の持ち主を捜す必要がある。
車のナンバーから持ち主を特定することは容易い。
この失踪事件は、解決に近いところまで来ていると思えた。
(あの母親に娘の実態を知らせるのは少々厄介だな)
“真面目な娘”の姿しか知らない、あの母親のことを思い康介は小さくため息をついた。
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