18 / 53
18、真面目な娘の裏の顔
しおりを挟む
夕方の4時過ぎ。
授業を終えて、部活の無い生徒がわらわらと学校から出ていくような時間帯だった。
通りすがる学生たちに声を掛けて、津木恋月について何か知らないか聞いて回る。
(警察手帳が無かったらただの不審者にしか見えないだろうな)
警察手帳を見せることで、多くの学生が協力的に対応してくれた。
お陰で、康介と高倍は津木恋月の友人と名乗る女子生徒に簡単に辿り着いた。
「ええ、恋月のことならよく知ってますよ。私達、親友ですから」
長い髪を靡かせて、その女子生徒は意味ありげに笑った。
「あの子、今日は学校に来なかったんですけど何かあったんですか?」
「実は、昨夜から自宅に帰っていないようでね」
「あー……」
女子生徒は、友人の不穏な状況を聞いても大して驚かなかった。
それどころか、「やっぱりね」と呟いていた。
何か知っているものと確信して、康介と高倍は顔を見合わせて小さく頷く。
「恋月さんは、昨日は学校には来ていたかな?」
「ええ。高校にはね」
「その後、予備校に行ってたんだね」
「それは嘘」
「嘘?」
「あの子、時々だけど予備校をサボるのよ。親には無断でね。
昨日もそうだったの。で、私と一緒にカラオケ行ってたのよね」
「ああ……」
まあ、あり得る話だ。
大学受験を間近に控えた大事な時期ではあるが、多少の息抜きは有りだろう。
親には予備校に行ってると嘯きつつ、友人とカラオケに行くぐらいは許容範囲だ。
「じゃあ、その後は? カラオケの後はどこに行ったかな?」
「さあ。途中でパパから連絡が入っちゃってね。そこで解散したのよ」
「親御さんから連絡があったのか」
「あー、そのパパじゃないの。パパ活の方」
「ああ……」
「あの子、親や先生の前では真面目な良い子を演じてるけど、
裏では予備校サボってパパ活とかしてたのよね」
少し意地悪な笑みを浮かべる女子生徒に、康介も高倍も顔を曇らせる。
18歳の女子高生によるパパ活……微妙なラインだ。
限りなく黒に近いグレー。いや、やはり黒か。
「昨日もそうだったってわけ。でも、昨日は家に帰らなかったんだ。珍しい。
親に何か言われるのが面倒だから、そういうことはしないと思ってたんだけど」
女子生徒は、恋月のことを心配しているよりは、面白がっているようだった。
情報を引き出すには好都合だと判断して、康介は前のめりに質問することにした。
「相手からの連絡は何時頃だった?」
「8時ぐらいだったかな。10時まで予備校に居ることになってるから、
昨日は2時間のお楽しみコースだと思ってたけど。何で家に帰らなかったんだろ」
「お楽しみコースって……」
「どんなのか知りたい? おじさん、カッコいいから私で良ければ相手するよ」
「やめなさい」
「ちっ、つまんないの」
「…………」
色目を使う女子高生を一蹴した康介に、高倍が尊敬の眼差しを向ける。
「因みに、恋月さんの相手がどんな男なのかは知ってる?」
「顔は知らない。でも、気持ち悪い奴だって言ってたかな」
「気持ち悪い? どんな風に?」
「サディストだって言ってた。行為の最中に背中とかお尻とか叩くんだって。
顔はまずいから見えないところをってことよね。
まあ、その分“お小遣い”をたっぷり取ってたみたいだけど」
「…………」
「それから、イク時には『カエデ』って叫ぶんだって」
「は?」
「そのオッサンの本命の子の名前なんじゃないの?」
「『カエデ』、なのか」
「うん。初めて会った時からずっと、そうなんだって」
「いつからか分かるかな?」
「今年の6月ぐらいかな。
『カエデ』ってのが誰かは知らないけど、恋月はその子の代わりなんでしょうね」
「…………」
奇しくも息子と名前が被っていたことで、康介の顔が途端に険しくなる。
その顔で女子高生を睨むのはまずいと思い、高倍が前に出た。
「色々教えてくれてありがとう。それじゃあ、最後に一つ良いかな」
「なになに?」
「恋月さんと行ったカラオケ店の名前と場所を教えて欲しいんだけど」
「ああ、新宿のお店だよ。えーと、店名は『カラオケパーク』だったかな」
「そっか。ありがとう。助かったよ」
高倍が締めの挨拶までを担当し、女子生徒は立ち去っていった。
授業を終えて、部活の無い生徒がわらわらと学校から出ていくような時間帯だった。
通りすがる学生たちに声を掛けて、津木恋月について何か知らないか聞いて回る。
(警察手帳が無かったらただの不審者にしか見えないだろうな)
警察手帳を見せることで、多くの学生が協力的に対応してくれた。
お陰で、康介と高倍は津木恋月の友人と名乗る女子生徒に簡単に辿り着いた。
「ええ、恋月のことならよく知ってますよ。私達、親友ですから」
長い髪を靡かせて、その女子生徒は意味ありげに笑った。
「あの子、今日は学校に来なかったんですけど何かあったんですか?」
「実は、昨夜から自宅に帰っていないようでね」
「あー……」
女子生徒は、友人の不穏な状況を聞いても大して驚かなかった。
それどころか、「やっぱりね」と呟いていた。
何か知っているものと確信して、康介と高倍は顔を見合わせて小さく頷く。
「恋月さんは、昨日は学校には来ていたかな?」
「ええ。高校にはね」
「その後、予備校に行ってたんだね」
「それは嘘」
「嘘?」
「あの子、時々だけど予備校をサボるのよ。親には無断でね。
昨日もそうだったの。で、私と一緒にカラオケ行ってたのよね」
「ああ……」
まあ、あり得る話だ。
大学受験を間近に控えた大事な時期ではあるが、多少の息抜きは有りだろう。
親には予備校に行ってると嘯きつつ、友人とカラオケに行くぐらいは許容範囲だ。
「じゃあ、その後は? カラオケの後はどこに行ったかな?」
「さあ。途中でパパから連絡が入っちゃってね。そこで解散したのよ」
「親御さんから連絡があったのか」
「あー、そのパパじゃないの。パパ活の方」
「ああ……」
「あの子、親や先生の前では真面目な良い子を演じてるけど、
裏では予備校サボってパパ活とかしてたのよね」
少し意地悪な笑みを浮かべる女子生徒に、康介も高倍も顔を曇らせる。
18歳の女子高生によるパパ活……微妙なラインだ。
限りなく黒に近いグレー。いや、やはり黒か。
「昨日もそうだったってわけ。でも、昨日は家に帰らなかったんだ。珍しい。
親に何か言われるのが面倒だから、そういうことはしないと思ってたんだけど」
女子生徒は、恋月のことを心配しているよりは、面白がっているようだった。
情報を引き出すには好都合だと判断して、康介は前のめりに質問することにした。
「相手からの連絡は何時頃だった?」
「8時ぐらいだったかな。10時まで予備校に居ることになってるから、
昨日は2時間のお楽しみコースだと思ってたけど。何で家に帰らなかったんだろ」
「お楽しみコースって……」
「どんなのか知りたい? おじさん、カッコいいから私で良ければ相手するよ」
「やめなさい」
「ちっ、つまんないの」
「…………」
色目を使う女子高生を一蹴した康介に、高倍が尊敬の眼差しを向ける。
「因みに、恋月さんの相手がどんな男なのかは知ってる?」
「顔は知らない。でも、気持ち悪い奴だって言ってたかな」
「気持ち悪い? どんな風に?」
「サディストだって言ってた。行為の最中に背中とかお尻とか叩くんだって。
顔はまずいから見えないところをってことよね。
まあ、その分“お小遣い”をたっぷり取ってたみたいだけど」
「…………」
「それから、イク時には『カエデ』って叫ぶんだって」
「は?」
「そのオッサンの本命の子の名前なんじゃないの?」
「『カエデ』、なのか」
「うん。初めて会った時からずっと、そうなんだって」
「いつからか分かるかな?」
「今年の6月ぐらいかな。
『カエデ』ってのが誰かは知らないけど、恋月はその子の代わりなんでしょうね」
「…………」
奇しくも息子と名前が被っていたことで、康介の顔が途端に険しくなる。
その顔で女子高生を睨むのはまずいと思い、高倍が前に出た。
「色々教えてくれてありがとう。それじゃあ、最後に一つ良いかな」
「なになに?」
「恋月さんと行ったカラオケ店の名前と場所を教えて欲しいんだけど」
「ああ、新宿のお店だよ。えーと、店名は『カラオケパーク』だったかな」
「そっか。ありがとう。助かったよ」
高倍が締めの挨拶までを担当し、女子生徒は立ち去っていった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる