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16、本当に良い先生?
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「はあー……さすがの迫力でしたね、藤咲さん」
取調室を出た高倍が大きく息をつく。
楓に危害を加えようとした犯人に対する康介の怒りを、ずっと側で見ていたのだ。
「まあな。あれぐらい脅せば、もう楓には手を出さないだろう」
「だと良いですね」
「そうじゃないと……次に何かあったら、あいつは本当に立ち直れなくなる。
今でさえ、ギリギリのところで頑張ってるんだ」
「…………」
拳を握り締める康介の顔には被害者の父としての苦悩が見てとれた。
戸惑いつつ、高倍は次の話題を探した。
「それにしても、楓くんの担任の先生でしたっけ。
あの人が板呉の車のナンバーを控えていてくれて助かりましたね」
「ああ。お陰ですぐに板呉に辿り着けた」
「たまたま、楓くんが襲われているところに出くわしたんですよね」
「ああ、そう聞いてる」
高倍の言葉に頷いた時、康介の脳裏にふと疑問が生まれた。
中岡がメモを取っていた車のナンバーから、板呉剛という男を割り出したわけだが……
(中岡は、一体いつから楓と板呉の様子を見ていたんだ?)
楓の担任の中岡は、偶然にも楓が板呉に襲われている所を目撃したと言っていた。
公園で休んでいた楓に板呉が声を掛けて、自分の車に乗るように促した。
楓がそれを断ると、板呉は彼の腕を無理やり引っ張り、更には殴りつけた。
その時、中岡が駆け付けて板呉から楓を保護した。
中岡は、目撃者として事のあらましを教えてくれた。
そして、控えていた板呉の車のナンバーのメモも渡してくれた。
(少なくとも、楓が殴られるまでは助けに入らなかったことになる)
見ていたはずなのに、無理やり腕を引っ張られていた段階では助けに入らなかった。
(なぜだ? 相手が強面で怯んでいただけか?)
難しい顔で考え込みそうになった時、康介は署の受付が騒がしいことに気付いた。
40代半ばぐらいの女性が何か騒いでおり、担当者が困惑している。
「だから、今すぐに捜査してって言ってるでしょ!」
「とにかく、落ち着いて下さい」
「落ち着いてなんか居られないわよ!
昨日、捜索願を出したのに警察は何もしてくれてないじゃない!!」
「娘さんは18歳ですし。事件性があると断定されない限りは……その……」
「あの子は真面目な良い子なのよ! 絶対に何か事件に巻き込まれたに違いないわ!」
様子から察するに、女性の娘が自宅に帰っていないようだ。
18歳……微妙な年頃だ。自発的な家出の可能性も大いにある。
よほどの事件性が無ければ警察は積極的には動かないだろう。
だが、康介には彼女の気持ちが痛いぐらい理解できた。
「すみません。何かありましたか?」
「あ、藤咲刑事!」
「え? 刑事さん? ねえ、お願い! 娘を捜して!昨夜から家に帰ってこないの!」
女性は康介が刑事だと知ると、必死に縋り付いた。
受付の制服警官を見ると、困り顔で首を横に振っていた。
少し迷ったが、康介は彼女の話を聞いてやることにした。
「では、総合相談室へどうぞ。詳しい話をお聞きします」
「はい。ありがとうございます」
直接対応してもらえることで落ち着きを取り戻したのか、女性は涙ぐみながら頭を下げた。
高倍を伴って、康介は女性とともに総合相談室へ向かった。
取調室を出た高倍が大きく息をつく。
楓に危害を加えようとした犯人に対する康介の怒りを、ずっと側で見ていたのだ。
「まあな。あれぐらい脅せば、もう楓には手を出さないだろう」
「だと良いですね」
「そうじゃないと……次に何かあったら、あいつは本当に立ち直れなくなる。
今でさえ、ギリギリのところで頑張ってるんだ」
「…………」
拳を握り締める康介の顔には被害者の父としての苦悩が見てとれた。
戸惑いつつ、高倍は次の話題を探した。
「それにしても、楓くんの担任の先生でしたっけ。
あの人が板呉の車のナンバーを控えていてくれて助かりましたね」
「ああ。お陰ですぐに板呉に辿り着けた」
「たまたま、楓くんが襲われているところに出くわしたんですよね」
「ああ、そう聞いてる」
高倍の言葉に頷いた時、康介の脳裏にふと疑問が生まれた。
中岡がメモを取っていた車のナンバーから、板呉剛という男を割り出したわけだが……
(中岡は、一体いつから楓と板呉の様子を見ていたんだ?)
楓の担任の中岡は、偶然にも楓が板呉に襲われている所を目撃したと言っていた。
公園で休んでいた楓に板呉が声を掛けて、自分の車に乗るように促した。
楓がそれを断ると、板呉は彼の腕を無理やり引っ張り、更には殴りつけた。
その時、中岡が駆け付けて板呉から楓を保護した。
中岡は、目撃者として事のあらましを教えてくれた。
そして、控えていた板呉の車のナンバーのメモも渡してくれた。
(少なくとも、楓が殴られるまでは助けに入らなかったことになる)
見ていたはずなのに、無理やり腕を引っ張られていた段階では助けに入らなかった。
(なぜだ? 相手が強面で怯んでいただけか?)
難しい顔で考え込みそうになった時、康介は署の受付が騒がしいことに気付いた。
40代半ばぐらいの女性が何か騒いでおり、担当者が困惑している。
「だから、今すぐに捜査してって言ってるでしょ!」
「とにかく、落ち着いて下さい」
「落ち着いてなんか居られないわよ!
昨日、捜索願を出したのに警察は何もしてくれてないじゃない!!」
「娘さんは18歳ですし。事件性があると断定されない限りは……その……」
「あの子は真面目な良い子なのよ! 絶対に何か事件に巻き込まれたに違いないわ!」
様子から察するに、女性の娘が自宅に帰っていないようだ。
18歳……微妙な年頃だ。自発的な家出の可能性も大いにある。
よほどの事件性が無ければ警察は積極的には動かないだろう。
だが、康介には彼女の気持ちが痛いぐらい理解できた。
「すみません。何かありましたか?」
「あ、藤咲刑事!」
「え? 刑事さん? ねえ、お願い! 娘を捜して!昨夜から家に帰ってこないの!」
女性は康介が刑事だと知ると、必死に縋り付いた。
受付の制服警官を見ると、困り顔で首を横に振っていた。
少し迷ったが、康介は彼女の話を聞いてやることにした。
「では、総合相談室へどうぞ。詳しい話をお聞きします」
「はい。ありがとうございます」
直接対応してもらえることで落ち着きを取り戻したのか、女性は涙ぐみながら頭を下げた。
高倍を伴って、康介は女性とともに総合相談室へ向かった。
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