【本編完結/番外編追加】真・誓いの指輪〜彼のことは家族として……そして、人生の伴侶として愛することを心に決めました〜

山賊野郎

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12、助けてくれた人

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18時

大きな事件が起こることもなく、早い時間で仕事を切り上げることができた。
デスクを片付けて康介は立ち上がる。
この後、大市美海が拉致された現場に赴き聞き込みをしようと考えていた。
その時、不意に携帯端末から電話の呼び出し音が響いた。
見れば、着信には『中岡恭志』と表示されていた。

(楓の担任じゃないか。一体何の用だ?)

緊急の用事でもない限り、この番号には掛けてこないはず。
何となく嫌な予感を覚えつつ、康介は電話に出た。
途端に彼の顔が険しく歪む。
そして、通話を終えると同時にその場から駆け出した。

中岡から、楓が今病院に居ることを伝えられた。
帰宅途中で暴漢に襲われて気を失ったらしい。
偶然、その場に居合わせた中岡が暴漢から楓を助け出し、救急車を呼んだ。
そして、搬送された病院から楓の父親である康介に連絡を入れた。
中岡から話を聞いた康介は、教えられた病院へ急ぎ向かった。





病室にて、楓は静かに眠っていた。
その腕には太い管が刺さっている。点滴を受けているのだ。
付き添いの中岡が傍に座り、その様子を見守っている。
そっと手を伸ばし、青白い頬に触れようとしたその時、病室の扉がけたたましい音を立てて開かれた。

「楓っ!」

血相を変えた康介が慌てた様子で室内に駆け込んできた。

「楓、無事か? 無事なのか?」

焦る気持ちそのままに楓の体を揺さぶる。
乱暴な手つきに、思わず中岡が止めに入った。

「藤咲さん、落ち着いて下さい」
「楓、目を開けてくれ!」
「今は薬の影響で眠っているだけです。いずれ目を覚ましますから」

中岡に腕を掴まれながら諭されて、康介はようやく冷静さを取り戻す。

「ああ……そうでしたか。すみません」
「落ち着かれましたか」
「はい。恥ずかしいところを見られてしまいましたね」
「いや。先の事件のこともあるわけですし、心配するのは当然ですよ」
「そう言って頂けると助かります。中岡先生」

楓の頭をひと撫でしてから、康介は中岡に向かい合った。

「先生が楓を助けてくれたんですよね」
「ええ、まあ……」
「ありがとうございました」
「いいえ、当然のことをしたまでですから」
「何があったのか詳しくお聞きしても良いですか?」
「ええ、もちろん」

父親としての顔から一変して刑事の顔になる。
そんな康介を目の当たりにして、中岡は少し緊張気味に事の次第を説明した。

帰宅途中の道で楓は体調を悪くした。
近くにあった公園のベンチで休んでいたところ、不審な男に声を掛けられた。
その男によって車に連れ込まれそうになったが楓は拒絶した。
その結果、男に腹部を殴られて無理やり連れて行かれそうになっていた。

「その時に先生が助けに入ってくれたんですね」
「はい」
「逃げた男の顔は覚えてますか?」
「はい。半グレじみたガラの悪い男でしたね。実際、すぐに暴力を振るってましたし」
「暴力を……」

楓が殴られたことを思い、康介の目に冷たい怒りが宿る。

「体つきは大きくでっぷりとしていました」
「なるほど」
「ああそうだ、奴が乗っていた白いワゴン車なんですがね」
「白いワゴン車、だったんですか」
「ええ。車のナンバーをメモしておいたんです」
「それは助かります」
「どうぞ、役立てて下さい」
「ありがとうございます」

康介が中岡からメモ用紙を受け取った時、その背後から小さな呻き声が聞こえた。

「う……」
「楓!」

いち早く気付いた康介が駆け寄る。
目を開けた楓は、途端に上体を起こした。
怯えたような顔で身を縮こまらせる。その体はカタカタと震えていた。
現状が認識できておらず混乱しているのだと判断し、康介は包み込むようにして楓を抱き締めた。

「大丈夫。ここは病院だから。安心していいぞ。な?」
「う……ん……」
「点滴が終わったらすぐに家に帰れるから。一緒に帰ろうな」
「……うん」

康介の腕の中で楓は少しずつ落ち着きを取り戻してゆく。
よしよしと軽く頭を撫でてから、康介は一旦楓から腕を離した。
そして中岡の方に向き直る。
その時の康介は、ついさっきまでと同じく刑事の顔をしていた。

「先生、今日はありがとうございました。後のことはこちらにお任せ下さい」

楓のことは父親としての自分に。
事件のことは刑事としての自分に。
それらの思いを込めて、康介は中岡に礼を言いながら頭を下げた。
帰るように促されていることを察して、中岡も軽く頭を下げた。

「では、私はこれで。……どうぞお大事に」

無理に食い下がる理由も無いので、中岡は素直に立ち去ることにした。
病室を出て、扉を閉めて、うっすら聞こえてくる声に耳をそば立てる。
そんな中、懐にしまっていたハンカチを取り出した。
さっき、楓の口元を汚していた血を拭ったものだった。

「…………」

白い布を彩る鮮血をじっと見つめる。
それから、ハンカチを再び懐に仕舞い込んで、中岡はその場を後にした。
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