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9、良い先生?①
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翌日。
この日も康介は自分の仕事の合間を縫って、大市美海への暴行事件について調べていた。
何とかして犯人像を絞り込みたい。
今のところ、慎重な性格であることと、
暴力性を内に秘めながら普通のフリをして生活していることぐらいしか判っていない。
他にも似たような事件を起こしてないかと思ったが、該当するものは無かった。
(今更かもしれないが、もう一度現場周辺で聞き込みをしてみるかな)
本来、自分が受け持っている事件ではない為、聞き込みをするとなると定時以降になるだろう。
余計な事件が発生しないことを祈りつつ、康介はデスクにて自身の書類仕事をこなした。
「よお、楓」
「あ、蒼真く……え?」
朝一の教室で声を掛けられて、その方を見た楓は困惑した。
その声は確かに友人の北條蒼真のはずなのだが、黒髪でピアスもなく制服をきっちりと着込んでいるその様は、楓の知る北條蒼真ではなかった。
「どうよ。昨日言った通り、変えてきたんだよ」
「すごい」
「すごい?」
「全然印象が違うなぁって」
「はは、まあな」
「でも、秀才風イケメンって感じで良いね」
「お、そうか?」
「羨ましいなあ。
蒼真くん、元がカッコいいからどんなファッションでも似合うんだね」
「だから、面と向かって言われると照れんだってば」
ぽりぽりと頭をかきながら蒼真が笑う。
すると、クラスの女子たちが寄ってきて、キャーキャーと騒ぎ始めた。
「北條くん、どうしちゃったの? 真面目スタイル?」
「うわー、似合うじゃん。カッコいい!」
「ねえねえ、私、北條くんの彼女に立候補して良い?」
「ちょっとー! 抜け駆けは無しって言ったじゃん」
「お、おい……ちょっと、離れてくれって……」
数人の女子たちが蒼真に群がり、楓は弾かれるようにして追い出された。
少し離れた場所から、女子たちに言い寄られてたじろぐ蒼真を見守る。
苦笑いを浮かべていたところ、背後から声を掛けられた。
「藤咲」
「あ、先生」
振り返ると、バインダーを手に持った中岡が立っていた。
中岡は不思議なものでも見るような目で教室の中を見つめる。
「あれは北條か?」
「はい。真面目に見えるようにしてきたみたいです」
「ほう。あいつがね」
「きっと、先生の指導が良かったんですよ」
「ふふ、君は人を乗せるのが上手いな」
少しだけ広角を上げて楓の肩に手を置く。
それから中岡はスタスタと立ち去っていった。
「おーい、楓」
何とか女子の群れから抜け出してきた蒼真が楓に駆け寄る。
「今、中岡の奴が居たよな。何か言ってたか?」
「うん。驚いてた。あと、先生の指導を聞いてくれたって嬉しそうだったよ」
「別に、あいつの指導を受けてのことじゃねえけどな」
「そうなの?」
「ああ……まあ良いや。それより、お前って今日も補習あるの?」
「うん」
「うーん」
「どうしたの?」
腕を組んで難しい顔をする蒼真に、楓が首を傾げる。
すると蒼真は、声を顰めて話しだした。
「ちょっと小耳に挟んだ噂なんだけどさ」
「ん?」
「中岡って、前に勤務してた学校で生徒に手を上げたことがあるんだって」
「え? そうなの?」
「反抗的な生徒を殴ったとか」
「えぇ……そんな人には見えないけど」
「まあ、あくまで噂だからな。
でも補習ってさ、中岡と二人きりだろ?
もし何かされたらすぐ俺に言えよ。俺が殴り返してやるから」
楓の肩にポンと手を置き、蒼真は力強く笑った。
それから、少しばかり笑みを崩す。
「でもまあ、楓に何かあったら俺より先に親父さんがすっ飛んでくるか」
「あはは……」
蒼真につられるようにして、楓も苦笑した。
この日も康介は自分の仕事の合間を縫って、大市美海への暴行事件について調べていた。
何とかして犯人像を絞り込みたい。
今のところ、慎重な性格であることと、
暴力性を内に秘めながら普通のフリをして生活していることぐらいしか判っていない。
他にも似たような事件を起こしてないかと思ったが、該当するものは無かった。
(今更かもしれないが、もう一度現場周辺で聞き込みをしてみるかな)
本来、自分が受け持っている事件ではない為、聞き込みをするとなると定時以降になるだろう。
余計な事件が発生しないことを祈りつつ、康介はデスクにて自身の書類仕事をこなした。
「よお、楓」
「あ、蒼真く……え?」
朝一の教室で声を掛けられて、その方を見た楓は困惑した。
その声は確かに友人の北條蒼真のはずなのだが、黒髪でピアスもなく制服をきっちりと着込んでいるその様は、楓の知る北條蒼真ではなかった。
「どうよ。昨日言った通り、変えてきたんだよ」
「すごい」
「すごい?」
「全然印象が違うなぁって」
「はは、まあな」
「でも、秀才風イケメンって感じで良いね」
「お、そうか?」
「羨ましいなあ。
蒼真くん、元がカッコいいからどんなファッションでも似合うんだね」
「だから、面と向かって言われると照れんだってば」
ぽりぽりと頭をかきながら蒼真が笑う。
すると、クラスの女子たちが寄ってきて、キャーキャーと騒ぎ始めた。
「北條くん、どうしちゃったの? 真面目スタイル?」
「うわー、似合うじゃん。カッコいい!」
「ねえねえ、私、北條くんの彼女に立候補して良い?」
「ちょっとー! 抜け駆けは無しって言ったじゃん」
「お、おい……ちょっと、離れてくれって……」
数人の女子たちが蒼真に群がり、楓は弾かれるようにして追い出された。
少し離れた場所から、女子たちに言い寄られてたじろぐ蒼真を見守る。
苦笑いを浮かべていたところ、背後から声を掛けられた。
「藤咲」
「あ、先生」
振り返ると、バインダーを手に持った中岡が立っていた。
中岡は不思議なものでも見るような目で教室の中を見つめる。
「あれは北條か?」
「はい。真面目に見えるようにしてきたみたいです」
「ほう。あいつがね」
「きっと、先生の指導が良かったんですよ」
「ふふ、君は人を乗せるのが上手いな」
少しだけ広角を上げて楓の肩に手を置く。
それから中岡はスタスタと立ち去っていった。
「おーい、楓」
何とか女子の群れから抜け出してきた蒼真が楓に駆け寄る。
「今、中岡の奴が居たよな。何か言ってたか?」
「うん。驚いてた。あと、先生の指導を聞いてくれたって嬉しそうだったよ」
「別に、あいつの指導を受けてのことじゃねえけどな」
「そうなの?」
「ああ……まあ良いや。それより、お前って今日も補習あるの?」
「うん」
「うーん」
「どうしたの?」
腕を組んで難しい顔をする蒼真に、楓が首を傾げる。
すると蒼真は、声を顰めて話しだした。
「ちょっと小耳に挟んだ噂なんだけどさ」
「ん?」
「中岡って、前に勤務してた学校で生徒に手を上げたことがあるんだって」
「え? そうなの?」
「反抗的な生徒を殴ったとか」
「えぇ……そんな人には見えないけど」
「まあ、あくまで噂だからな。
でも補習ってさ、中岡と二人きりだろ?
もし何かされたらすぐ俺に言えよ。俺が殴り返してやるから」
楓の肩にポンと手を置き、蒼真は力強く笑った。
それから、少しばかり笑みを崩す。
「でもまあ、楓に何かあったら俺より先に親父さんがすっ飛んでくるか」
「あはは……」
蒼真につられるようにして、楓も苦笑した。
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