ショートショートで一息

謙虚

A氏は謙虚な人だった。自分の成功はみんなのおかげであり、決して自分だけの努力ではないと思い、座右の銘でもあった。

ある時、そんなA氏に人生の転機が訪れた。勤め先の会社での功労が認められ、昇進を打診されたのだ。A氏は性格上「いえいえ、私なんてそんな」と若干否定的であったが、それでも昇進を打診された。

ある時、A氏とその上司は酒の席で語ることになった。
「本当に昇進の話断るの？」
「私だって昇進をしたくない訳ではないんですよ」
「ならなんであんなことを、」
「いや、単に私の実力不足で周りに迷惑をかけたくないなと思いまして」
A氏は謙虚である姿勢を一切崩さない。
「こういう所がお前は最高なんだけどなぁ」
A氏は内心傷ついた。