アッチの話!

初田ハツ

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顔がタイプの先輩がいる委員会に入る の巻

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※トリガー警告
作中の展開として、パワハラ、セクハラ、マイクロアグレッションの描写があります。


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「えっ? 檸檬がボランティア!?」
期限が迫る履修登録を一緒に片づけようと集まった、学部棟の自習スペースでのこと。思わず大きな声を出す愛実に、冬人が慌てて口に人差し指を当てる仕草をする。三階まで吹き抜けのロビーに丸テーブルと椅子が並べられたそこは、休憩所も兼ねているので、図書館のように私語に厳しくはない。けれど、建物の構造上声がよく響くので、あんまり騒いでいると怒られそうだ。檸檬は唇をとがらせている。
「どうせ、俺には似合わないって言うんでしょ」
「ええ、そんなことないよ? いいことだね!」
わざとらしく愛実がフォローする隣で、冬人は笑う。
「いやいや、絶対裏があるでしょ」
そう言う冬人に、檸檬は口をとがらせる。
「ほらあ、これだよ。俺が善行を積もうとしても誰も信じてくれない」
「いいから早く、何企んでんのか言いなよ」
機械工学科には昔から、行事の準備に携わる「運営委員」という制度があり、一年時はその手伝いをするボランティアが募集される。一年間ボランティアを続けられた学生だけが、二年から本格的に委員になるという仕組みだ。
そのボランティアに檸檬が応募したというのが、話の発端だった。学科の行事なんて参加することすら面倒くさがっていたのに、委員会に入ろうなんて、とても普段の檸檬からは考えられない。
「うわっもしかして運営委員の中に狙ってる人がいるとか?」
愛実が言うと、檸檬は顔をしかめた。
「あのなあ、俺は狭い人間関係では遊ばないって決めてるの。学科のやつは狙わない! トラブルなしのクリーンな遊び方がモットーだから」
本当にそれが実現できているのかは定かではないが、それより今は、ボランティアの件が気になる愛実と冬人だ。二人の怪訝な視線に、檸檬はやっと話し出す。
「……高坂こうさか先輩」
「は?」
「二年の高坂先輩、顔が超~タイプなんだよなあ……」
「今さっき、同じ学科のやつは狙わないって言ったよね!?」
冬人が指摘すると、檸檬はむすっとあごを上げた。
「誰が狙うって言ったよ。だいたいあの高坂先輩だぜ? 俺の遊び相手になんかなるわけないじゃん」
檸檬が言うのは、たしかにその通りだ。何しろ機械工学科二年の高坂直哉なおやは、「歩く道徳」「聖人」などとあだ名されている、ちょっとした有名人なのだ。
容姿は檸檬が「超タイプ」と言うだけのことはある、戦隊ヒーローの主役に抜擢されても良さそうな、力強い双眸のハンサムだ。その上、ただイケメンなだけでも、品行方正なだけでもない。高坂の伝説は、新歓から始まっていた。

機工科の新歓オリエンテーションは、「遠足」だ。大学からわざわざバスで一時間ほどの山間にある学校付属の保養施設に行き、そこで飲んだり食べたり交流会のようなことをして帰ってくるというものである。これを遠足と呼ぶのが正しいのかは、学科の誰もが疑問視しているけれど、便宜上「遠足」と呼んでいた。主催はもちろん運営委員だ。
保養施設の殺風景な食堂で、オードブルとお茶やジュースのペットボトル、教授や先輩たち用の瓶ビールが並ぶテーブルについた新入生たちの前に、高坂と、三年の細井という先輩が立った。部屋の一面にカーブを描く大窓があり、その手前に半円状のスペースが開けている。段差はないが、ちょっとしたステージのようだった。細井はその名に反していかつい大男で、自分でもそれをネタに自己紹介した。高坂も長身なので、新入生にとっては、なかなか迫力のあるビジュアルの司会進行役である。
彼らは「これからゲームで親睦を深めてもらいます」と言って、座席順に端から十人、一年を前に並ばせた。十人は、これから何が起こるかわからず緊張した表情だったり、照れ笑いしたりしている。と、全員出揃ったタイミングで、細井が右端の一人の男子に目を留めた。
「おーい君、めちゃめちゃロン毛じゃん」
言われた彼は、確かに黒く長い髪を後ろで一つ結びにしているが、それと同時に、前に立たされた中で最も緊張した面持ちだった。
「ちょっとおしゃれじゃねえ? ロン毛くん! ロン毛くんって呼んでいい?」
その時、高坂のよく通る声が、「ちょっと細井さん!」と遮った。
「一年びびらせないでくださいよ! 君ら、いじめるために前に呼んだんじゃないから安心してな」
ささやかな笑いが起こり、少し緊張がやわらぐ。高坂が説明したゲームの内容は単純だった。お題の単語を聞いて、「せーの」でそれをイメージするポーズを取るというだけ。ポーズが一致した人数が多いグループが優勝で、記念品のお菓子をもらえるという。
「そして、トップバッターを務めてくれるこのチームには、ボーナスとして俺も一緒にゲームに参加します」
高坂のその言葉に、細井が「えっ」と反応した。
「おいちょっと、そんなの打ち合わせになかったよな?」
「まあまあ、最初だから特別サービスですよ」
さらに高坂は、
「親睦を深めるのが目的だし、みんなの名前くらい聞いときましょうか」
と提案した。左端から高坂がマイクを向けていき、みんな、苗字だけの短い自己紹介をする。最後に「ロン毛くん」といじられた彼が、「大谷です」と答えると、高坂は細井に投げる。
「細井さん、覚えてくださいよ。大谷くんです」
細井が「わかったよ!」とうるさそうに叫ぶのに、さらに笑顔でだめ押しした。
「変なあだ名で呼ばないでくださいよ!」
細井が勘弁してくれとばかりに手を振り、新入生たちはどっと笑う。このやりとりが、「大谷くん」が今後あだ名でいじられる可能性を少なくしたことに、どれくらいの人間が気付いただろう。
その後高坂は、お題に出た「猫のポーズ」を全力でやってみせた上に、独特すぎて誰とも一致せず、会場は大ウケ。続くグループの新入生たちも、皆リラックスしてゲームを楽しんだ。
この時点で、高坂の一年人気は高まっていたけれど、その後も彼に関する驚くべき噂は続いたのだった。
まず話題になったのは、新歓の時に名乗った一年生全員の名前を覚えているらしい、ということだ。出会った一年が自分から名乗らなくても、高坂の方から「ああ、たしか宇田川っていったよな」とか「君は土屋だったな」とか返されるのだという。八十人ほどいる機工科一年の名を全部覚えているとしたら、もはや超人だ。そしてもちろん、履修や勉強に関するどんな質問や相談にも、親切かつ丁寧に答えてくれる。
さらには、廊下に落ちていたごみを拾って自分のポケットに入れたとか、お年寄りの荷物を運んだとか、迷子を助けたとか、十人が同時に話しかけてもすべて聞き分けるとか、どんどん事実なのかわからない噂まで流布するようになってきた。

つまり高坂という人間は、そもそもいい加減な交際をするタイプではなさそうだし、檸檬が火遊び程度で手を出せるような簡単な男でもないように思えた。檸檬が「俺の遊び相手になんかなるわけない」と言うのはもっともなのだ。
「俺は、とにかく高坂さんの顔が好きなだけなの。好みの顔は近くで見たいじゃん」
そう言って檸檬は小鼻を膨らませる。
「でもさ」
愛実が口を挟んだ。
「顔が好きなのと、本当に恋してるのって、そんなに変わらなくない?」
冬人と檸檬は、愛実の顔を見る。
「まなちん……なかなかのパワーワードだぜそれ」
愛実は「えー」ととぼけたような顔をしていたけれど、スマホの着信通知が光って、視線はそちらに移る。
「あ、エミーからだ」
「えっ」
冬人が思わず声を上げる。愛実と檸檬はその反応に、にやりと目を見合わせた。
「えって何さ」
にやにやしながら問う愛実から、冬人は視線を逸らす。
「あ、いや……仲良くしてるんだね、あの子と」
「うん、ラインで連絡とってるくらいだけどね」
冬人は「へえ」と生返事しながら、落ち着かない様子だ。
「冬っち、エミーが気になるんだろ」
檸檬が単刀直入に切り込んだ。
「えっ?」
「大地くんが女の子に取られちゃうかもって、焦ってんだろ?」
「僕が……?」
冬人は戸惑いの表情を浮かべている。どうやら自覚すらしていなかったようだ。
「お前さあ、今まで考えたことないの? 付き合ってないってことは、いつか他の誰かと付き合うかもしれないってことだろ」
「大地が、他の誰かと……」
考え込むような顔で俯き、沈黙してしまった冬人に、愛実と檸檬もちょっと心配になる。
「冬っち、だいじょぶ?」
「いきなり詰めすぎたかな……?」
冬人が突然、がばっと顔を上げた。
「……嫌だ! どうしよう!」
愛実も檸檬も、唖然として見つめている。
「大地があの子と付き合うなんて嫌だ! どうすればいい?」
急にパニクり始めた冬人を、愛実と檸檬は、両側からどうどう、となだめた。何しろここは声がよく響くから。
「それなら、冬っちが大地くんの彼氏になればいいじゃん~」
愛実が冬人の耳元に呪文のように囁く。冬人は不安げな顔を向ける。
「でも、大地がもうあの子のこと好きになってたら?」
そう問われて、愛実はなぜか、にんまり微笑んだ。
「では、それを今夜、確かめてみましょう」
そう言って、スマホの画面を冬人の目の前に掲げる。
「エミーと大地くんから、我々にディナーのお誘いですよ」

情報グローバル学科、略してグロ科(ひどい略称だが、これが浸透している)の先輩が、大学近くに安くて美味しい老舗の洋食屋があると教えてくれたそうだ。せっかくだから、冬人たちも誘ってみんなで行こうと、大地と映見で話したのだという。
やっと大地への気持ちを自覚し始めた冬人と、大地を狙ってるかもしれない女子の直接対決。修羅場になるのか進展するのか、どう転んでも面白くなりそうなその会食に、檸檬も参加したかった。しかし、運営委員とボランティアの顔合わせ飲み会も、ちょうどこの日だったのだ。
「あーあ、俺もそっちに行きたかったなあ」
と嘆く檸檬に、愛実が
「何言ってんの、高坂先輩と会えて嬉しいくせに」
と返す。けれど、檸檬のそれは本心だった。
二年から四年までの運営委員と一年のボランティアが集う、三十人規模の飲み会だ。偶然高坂がすぐ近くの席に座る奇跡でも起こらない限り、顔すら大して見られないだろう。むしろ、普段の会議や活動の方が高坂を見る機会としては良いのだ。
(どうせ、先輩たちにうざ絡みされて終わるんだろうなあ)
そんな予感は的中し、大学近くの居酒屋の座敷席で檸檬の隣に座ったのは、あろうことか、あの細井だった。正面の席は優しそうな女性の先輩だけれど二年生。細井を制する力はなさそうだ。さらに細井の正面には、同じような軽いノリの二年男子。檸檬がやばそうだな、と思っている矢先に、
「レモンちゃんって男も女もいけるってマジ?」
などと細井が聞いてくる。
「あ、俺見ましたよ! 年上っぽい女と腕組んで歩いてたのと、車で迎えに来た男!」
ご丁寧に二年男子が補足してくれる。
「えー、えへへ、俺性別とかあんま気になんないんですよねー」
檸檬がそう答えると、周りの男子たちがなぜか「おお……っ」と沸く。何が沸く要素なのかまったくわからない。
「でもさあ、実際どういう感じなの? 男相手の時はさ、もっとかわいいレモンちゃんになっちゃうわけ?」
細井がそう言いながら、肩に腕を回してくる。
「えー? なんですかそれー」
「ちょっと見せてよ、かわいいレモンちゃん、どんな感じなのかさあ」
檸檬は「えー?」と曖昧に返しながら、内心で暗い覚悟を決める。こういう場面は、思いきり過剰適応するくらいじゃないと、乗り切れないことは知っている。
「……やだあ、かわいいレモンはイケてる男にしか見せないわよう」
わざと「オネエ」っぽい口調で返すと、細井や周りの男たちが一気に「おお~っ」と盛り上がる。
「レモンはイケメンにしか興味ないの! この辺の男はみーんな圏外よ!」
いつのまにか少し遠い席の方まで檸檬に注目していて、そのセリフに「ええ~」とか「ひゅー」とか反応を返す。檸檬は内心、何が「ええ~」だ、と毒づく。
その時、檸檬の肩にかけられていた細井の腕を、誰かが掴んだ。
「細井さん、今日はセクハラ厳禁の飲みですよ」
──まさか、というべきか、やはり、というべきか。振り返る檸檬の顔のすぐ近くに、高坂の穏やかな顔があった。
「えー、レモンちゃんは男子だぞ。これくらいセクハラにならないでしょ」
高坂は掴んだ腕を離さない。
「セクハラに、男子も女子もないですよ」
元から強い眼光がさらに鋭くなり、細井もさすがにひるむ。
「わ、わかったよ……」
檸檬の肩から細井が腕を下す。その檸檬の肩に、ぽんと高坂が手を置いた。
「浅倉も、それくらいにしておけ」
そう言って、高坂は立ち上がって去っていこうとする。
「おい、どこ行くんだよ?」
呼び掛けた細井に、高坂は短く「トイレですよ」と答えた。檸檬は、その背中を見送りながら、何か煮え切らない思いが自分の中でくすぶるのを感じていた。
「……あのっ、俺もトイレ」
そう言って檸檬は立ち上がった。
間接照明のオレンジの灯りがほの暗い廊下を照らす、その途中で、
「先輩っ」
檸檬が呼び止めると、高坂は振り返り、少し眉を寄せて微笑んだ。
「浅倉。大丈夫か?」
「あの……」
どうしてそんな衝動が沸いたのか、檸檬自身にもわからない。
「高坂先輩、俺のこと嫌いですか」
高坂は、険しい顔になって、檸檬に向き直った。
「……そんな風に、思わせたか?」
檸檬は、どう答えたらいいかわからなかった。高坂は、一歩檸檬に近づいて言う。
「ちょっと、外に出て話さないか」

居酒屋を出て、道路を挟んだすぐ向かいの広場を高坂は指差した。小さな時計塔を囲むレンガに、二人腰かける。大学の校舎が、ここからすぐ目の前に見える。高坂が何か言おうとする前に、檸檬の方から切り出した。
「さっきみたいな俺の態度、先輩好きじゃないですよね」
自分だって、あんなふうに無理してバカみたいに振る舞う自分は、好きじゃない。だけど、仕方ないと思って受け入れていた。そんな自分を高坂には見てほしくなかった。
「浅倉のせいじゃないことはわかってるよ。君もつらかっただろ。もっと早く止めてやれなくてごめんな」
高坂の態度はどこまでも誠実だ。けれど、檸檬の中に渦巻く、それだけでは納得できない得体の知れないもやもやした気持ちが止まらない。
「……ぶっちゃけ、どうなんですか。俺が男とも寝るのとか、気持ち悪いとか思ってんすか。オネエ言葉でしゃべってるの見て、気持ち悪かったっすか」
そこまで一息に言ってしまって、檸檬は高坂の顔が見られなかった。高坂が自分を見つめている気配だけ感じる。それが、どんな思いのこもった眼差しなのかわからないから、怖い。
「……両親の古くからの友人に、ゲイカップルのふうふがいるんだ。俺も昔からよく面倒を見てもらって、親と同じくらい尊敬してる、大事な人たちだ」
檸檬は顔を上げた。高坂に、檸檬のセクシャリティを忌避する気持ちはないのかもしれない。でも、この話で彼は何を伝えたいのだろう。
「彼らのうちの一人は、女性的な話し方や仕草をする人だ。性自認は男性だけど、彼にとっては、その話し方が自然で過ごしやすいらしい。別に誰かを笑わせようとしているわけじゃなくて、彼は普段から、そういう話し方なんだ」
高坂の言いたいことが理解できたと同時に、檸檬はカッと体温が上がるのを感じた。自己防衛のために道化になるのは、檸檬のよく使う手段だ。その手段が、自分だけじゃなく、ほかの誰かも貶めてしまっていることに、気付いていなかった。
このくらいのことで瞳の奥がじわりと熱くなるのを、情けなく感じる。どうしたら良かったんだろう? いつだって、傷つけるようとして近づいてくる人間ばかりのこの世界を、必死で切り抜けて生きているのに。
「……浅倉は悪くない。俺がもっと早く止められたらよかったんだ」
「あの、それ……」
檸檬は顔を上げた。
「その『浅倉』っていうのも……ほかの先輩たちみんな下の名前で呼んでくるのに、なんで先輩は苗字呼びなんですか?」
言いながら、自分でもバカバカしいことを聞いていると思う。だけど、ずっと気になっていた。
「一年全員に、公平にしてるのかもしれないけど……」
その公平さが、線を引かれているようで切なかった。
「いや、そういうわけじゃなくて……」
しかし、高坂は首を横に振った。
「何と言ったらいいか……ほかの人たちが、君の名前を呼ぶ時、何か、面白がっているような響きがある気がして」
檸檬はどきっとする。なんでそんなことに気が付くんだ、この人は。そんなの、当事者の自分だけが感じることだと思っていたのに。
「君に失礼のない呼び方は、どうしたらいいかと迷ってた。本名なのに、こういうことを言うの自体、失礼な話かもしれないけれど……」
やばい。檸檬はそう心の中で呟いた。はぐらかそうとしていたことが、はっきりと目の前に突き付けられてしまいそうで怖い。
「先輩」
檸檬は少し座り直して、高坂に近づく。
「俺の名前、からかって呼ばれる時は、片仮名で『レモン』って聞こえるんだけど、友達が呼ぶ時はちゃんと漢字の『檸檬』に聞こえるんです」
「へえ……」
高坂は感心したように頷いたけれど、
「……待ってくれ」
ジャケットの内ポケットから、小さな手帳とペンを取り出した。
「俺『檸檬』って漢字、ちゃんと書けなかった。ここに書いてくれないか」
「え、喩えですよ! 俺の友達だって、みんなたぶん書けないっすよ」
「いいから、頼むよ」
せっかくだからフルネームで書いてくれ、と言う高坂に従って、檸檬は高坂が開いた手帳の白いページに、「浅倉檸檬」と書き込む。なぜだか緊張して、字が震えそうだった。
「あっ、じゃあ俺も書いてほしい! 高坂先輩の名前!」
何か書くもの、と探す檸檬を、高坂はいいよ、と制して、自分の手帳の、檸檬の名前の下に書き始めた。
「これが俺の名前」
そう言って見せてくれたページに、「浅倉檸檬」「高坂直哉」と名前が並んでいる。檸檬の心の中に、二度目の「やばい」が浮かぶ。高坂は、ページの下半分、自分の名前の部分だけを破り取って、その紙切れを檸檬に手渡した。
「ゴミじゃないから。捨てるなよ」
その言葉に思わず笑う檸檬。高坂も笑いながら、「いや冗談、捨ててもいいよ」と言い加える。檸檬は小さく首を振って、高坂の顔と、書かれたその名前を見比べた。もはや心の中は、無数の「やばい」が点滅している。自然と顔が笑むのを、抑えられなかった。
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