【完結】あやかし無双伝~水龍王の精霊力をその身に宿す少年は白蛇の妖と言われ化け物扱いされるが、魔道学院ではなぜか美少女たちに追いかけられる~

綾森れん

文字の大きさ
70 / 84

第69話、おねえさんの恵体はちょっぴりだらしない

しおりを挟む
「生徒会室、こっちじゃなくね?」

 俺はあたりを見回す。休講日とはいえまったく人影がない。魔道学院の敷地は広いから奥の方は手入れが行き届かず、石畳のあいだから雑草が生えている。

「古文書院に向かってるのよ。奈楠ナナンさんがあたしの手書き台本を複写魔術で増やしてくれてるはずだから」

「でもきょう祝日だろ? あの人出勤してんの?」

奈楠ナナンさん、ふだんから飼ってる猫ちゃんのために早く帰っちゃうから、休みの日も出てきてんのよ」

 玲萌レモの説明に、

「そうにゃのよ。昼間はどうせうちの猫ちゃんたち昼寝してるからニャ」

 という声がうしろから聞こえた。振り返ると、朝っぷろでも浴びてきたのか衿元から石鹸の香りがかすかに匂い立つ奈楠ナナンさん。今日も猫耳のように結い上げたお団子から落ちるおくれ毛が色っぽい。

奈楠ナナンさんは一人者だから――」

 と玲萌レモはいたずらっぽいまなざしで振り向いて、

「――家にいたってすることないもんね」

奈楠ナナンさんはただ本に囲まれてたいだけニャ!」

 ちょっとムっとしながら、手にげていた風呂敷包みを示し、

玲萌レモしゃん生意気なこと言ってると、台本わたしてあげにゃいよ?」

 風呂敷にも眠ったり、小魚に食らいついたり、座布団の上で丸くなったり、さまざまな姿の猫が描かれている。

「わぁごめんごめん」

 と調子よく、玲萌レモは風呂敷のなかに重なっていた台本の束を受け取る。「でね奈楠ナナンさん。これから宣伝のためにチラシ作る予定なんだけど、それも複写魔術お願いできないかしら?」

奈楠ナナンさんは彫師ほりしけん摺師すりしじゃにゃーい!」

 ずうずうしい玲萌レモに悲鳴をあげる奈楠ナナンさん。無理もない。

 玲萌レモが傍観を決め込んでいた俺を振り返ったと思ったら、

「ちょっと樹葵ジュキからも頼んでよ」

「えぇ……」

 ちょっと奈楠ナナンさんがかわいそうで困惑する。

玲萌レモしゃん、樹葵ジュキちゃんを困らせにゃいで」

 被害者本人である奈楠ナナンさんが助け舟を出してくれた。「広告宣伝にゃんて織屋はとりやしゃん――あ、衣装担当してくれる呉服屋さんね――、彼らがするでしょ?」

「もちろん彼らは彼らでするでしょうけど――」

 玲萌レモは腕組して、

「でも樹葵ジュキが歌う宣伝とかは入らないんじゃないかなぁ」

 確かに。衣装を見せられる劇の宣伝だけだろう。

「にゃおぅっ!? 学園祭で樹葵ジュキちゃんが歌うの!?」

 聞いたことない感嘆詞をさけんで、奈楠ナナンさんが身を乗り出してきた。

「そうなのよっ!!」

 玲萌レモがぶんぶんと首を振ってうなずく。「三味線で弾き歌いするの! 樹葵ジュキって歌うまいんだから!!」

樹葵ジュキちゃんて楽器弾けたんにゃ~」

 ときめきのまなざしを向けてくれる奈楠ナナンさんが、なんだか少女のようにかわいらしい。

「うんまあ――」

 そわそわしてちょっと目をそらしつつ、

「俺の実家、演芸小屋みてぇのやってる天鵞絨亭びろうどていっつー店だから、俺もちっちゃいころから歌舞かぶ音曲おんぎょくに親しんでただけだよ」

天鵞絨亭びろうどてい? ああ、あの音苑ネオン坂のいちばん奥に建ってるいかがわしい店構えの――」

 人の実家をいかがわしいとか言いやがった奈楠ナナンさんの言葉をさえぎって玲萌レモが、

音苑ネオン坂!?」

 と驚きの声をあげた。「昼間はしーんとしてるのに、日が暮れると魔力燈まりょくとうともるあの街!?」

 そりゃ歓楽街なんてぇのは、みんなが働いている昼間に営業したって客来ねぇからな。

「うちの親が近づいちゃいけないって言ってたけど――」

 さすがお育ちのいい玲萌レモ

「ねぇ、どんなとこなの!?」

 すっかり目を輝かせている。好奇心のかたまりだよなぁ、この子。

「まあまあ玲萌レモしゃん、チラシの複写も奈楠ナナンさんに任せるニャ!」

 気まずいのを隠すように、奈楠ナナンさんが割って入った。「かわいい樹葵ジュキちゃんの晴れ舞台のためならいくらでも協力するニャ!」

「えっ、引き受けてくれるの?」

 突然の展開に玲萌レモも目を丸くする。

「も、もちろんニャ! おねえさんに任せにゃさい!」

「ありがと。助かるわ」

 生徒会室のある棟へ歩きだした俺たちを追ってきた奈楠ナナンさんが、俺の耳元でささやいた。「樹葵ジュキちゃん、すまなかったにゃ。音苑ネオン坂の地名を出しちゃって……」

「いや、俺は自分の生まれた土地を恥じちゃあいねぇよ」

 振り返って笑うと、

「うん、そうだったにゃ。樹葵ジュキちゃんはそういう子よにゃ。でも奈楠ナナンさん、大人なのに配慮が足りなかったにゃ……」

 奈楠ナナンさんはまだしゅんとしている。

「なに言ってんですか。また玲萌レモの頼み聞いてくれたし、チャラにしやしょ」

 にっと笑った俺に、奈楠ナナンさんは抱きついてきた。「樹葵ジュキちゃんいい子ニャ! やっぱり弟にしたいのにゃあぁ!」

 好きなもん食って気楽に生きてそうな豊満な肉体がおおいかぶさってきて、俺は興奮をおさえようと無口になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...