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第17話、昼飯は美少女三人と共に
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「おかえり樹葵。惠簾ちゃんと夕露はいま買いにいってるわ」
長床几にはどんぶりをかかえた玲萌だけが座っていた。
「玲萌のそれはうなぎ丼?」
「うなぎのまぶし丼」
なるほど、短冊状に切ったうなぎが乗っている。
「いちばん安かったのよ」
経済観念のしっかりしたやつである。
俺もさっそく漬け丼をいただく。ほどよく醤油の染みたまぐろを舌に乗せる。トゥルンとした舌触りが最高。赤身のうまみをかみしめる。
海の神に感謝していた俺に、ひとの丼をのぞいた玲萌が、
「わ~、玉子焼き乗ってる! おいしそう!」
と言い出した。
「店のおやじがおまけしてくれたんだ。持ってけよ、ひとつ」
「いいの? うれし~」
俺の差し出したどんぶりから玉子焼きをひとつ箸でつまみながら、
「普通そういうのって、『お嬢ちゃんかわいいからおまけしてあげよう』とか言われて麗人の役回りなのに、さすが樹葵。天性の人たらしだもんね」
ええ、俺そんなふうに見えるのか!? けっこう気ぃつかって感じよく接してるんだが……
「ま、俺のかわいさは天下一品だからな。女も男もかなわねぇのさ」
「はいはい」
疲れた声で応じる玲萌。しまった。こういうノリで返すから、対人関係で努力してるって思われねぇのか。
「ほーひへば樹葵ってなにか特技ある?」
うなぎ丼をほおばりながら尋ねる玲萌。ごっくんしてからしゃべれよ。
「うーん、楽器演奏くらいかな……」
ちなみに体育会系じゃない陰キャ男子にとって、モテるための唯一の手段が音楽であるといっても過言じゃないだろう。異論は認める。
「魔術は? あ、でも樹葵の魔力で魔術妙技なんてやったら学院の建物が吹き飛んじゃうか」
「なんの話してるんだ?」
「実は学園祭のトリに生徒会の枠があるのよ」
「いちばん盛り上がりるところをおさえるなんて生徒会特権だな」
「そ。花火の直前だしね。そこで生徒会長の凪留ったら、『毎年、諸注意と学園祭終了後の連絡、それから閉会の言葉ですよ』なんて言って」
「うわ、つまんなそ。帰るわ」
「でしょ? 四半刻くらいあるのに。それで――」
玲萌が言いかけたとき、
「学園祭をしめくくるにふさわしいのは瞑想一択です!」
うしろから凛とした声が降ってきた。
「おお、おかえり、惠簾」
お盆を持って戻ってきた惠簾を見上げる。「で、瞑想とは?」
「精神を統一して神様のことだけを考えるのです」
「四半刻も?」
「はい! 最高に癒されるすばらしい体験ですよ!」
「寝るわ」
思わず本音をもらす俺。
「うふふ、わたくしも小さい頃はよく寝落ちしてしまって、父に怒られましたわ。大丈夫、もし橘さまが居眠りしてしまわれたら、わたくしがその美しいおぐしをそっとなでて起こして差し上げますから」
そいつぁいいや。喜んで寝たふりするわ。
わきにお盆を置いて腰かけた惠簾は、
「いただく前に龍神さまにおひとつおそなえしましょう」
と言って小鉢の煮物の中から、
「にんじんさんどうぞ。はい、あ~ん」
と左手を添えて俺の目の前に箸を持ってきた。
つい反射的にパクっと食いつく俺。ん、うまい。にんじんの甘みと同時に、醤油の風味とかつおだしの香りが鼻にぬける。
横で惠簾がなぜか赤くなって、箸をもったまま自分の頬をはさんで首を振っている。「きゃぁかわいいっ、牙みちゃった」
小声で騒いでいるのは聞こえないふりをする。この娘、俺を小動物かなんかだと勘違いしてる?
そこへ折よく夕露が帰ってきた。
「遅かったじゃねえか」
「うん、下の市場まで行ってたから」
「市場? いったいなに買ってきて――」
夕露の手に握られたそれを見て、俺は絶句した。
長床几にはどんぶりをかかえた玲萌だけが座っていた。
「玲萌のそれはうなぎ丼?」
「うなぎのまぶし丼」
なるほど、短冊状に切ったうなぎが乗っている。
「いちばん安かったのよ」
経済観念のしっかりしたやつである。
俺もさっそく漬け丼をいただく。ほどよく醤油の染みたまぐろを舌に乗せる。トゥルンとした舌触りが最高。赤身のうまみをかみしめる。
海の神に感謝していた俺に、ひとの丼をのぞいた玲萌が、
「わ~、玉子焼き乗ってる! おいしそう!」
と言い出した。
「店のおやじがおまけしてくれたんだ。持ってけよ、ひとつ」
「いいの? うれし~」
俺の差し出したどんぶりから玉子焼きをひとつ箸でつまみながら、
「普通そういうのって、『お嬢ちゃんかわいいからおまけしてあげよう』とか言われて麗人の役回りなのに、さすが樹葵。天性の人たらしだもんね」
ええ、俺そんなふうに見えるのか!? けっこう気ぃつかって感じよく接してるんだが……
「ま、俺のかわいさは天下一品だからな。女も男もかなわねぇのさ」
「はいはい」
疲れた声で応じる玲萌。しまった。こういうノリで返すから、対人関係で努力してるって思われねぇのか。
「ほーひへば樹葵ってなにか特技ある?」
うなぎ丼をほおばりながら尋ねる玲萌。ごっくんしてからしゃべれよ。
「うーん、楽器演奏くらいかな……」
ちなみに体育会系じゃない陰キャ男子にとって、モテるための唯一の手段が音楽であるといっても過言じゃないだろう。異論は認める。
「魔術は? あ、でも樹葵の魔力で魔術妙技なんてやったら学院の建物が吹き飛んじゃうか」
「なんの話してるんだ?」
「実は学園祭のトリに生徒会の枠があるのよ」
「いちばん盛り上がりるところをおさえるなんて生徒会特権だな」
「そ。花火の直前だしね。そこで生徒会長の凪留ったら、『毎年、諸注意と学園祭終了後の連絡、それから閉会の言葉ですよ』なんて言って」
「うわ、つまんなそ。帰るわ」
「でしょ? 四半刻くらいあるのに。それで――」
玲萌が言いかけたとき、
「学園祭をしめくくるにふさわしいのは瞑想一択です!」
うしろから凛とした声が降ってきた。
「おお、おかえり、惠簾」
お盆を持って戻ってきた惠簾を見上げる。「で、瞑想とは?」
「精神を統一して神様のことだけを考えるのです」
「四半刻も?」
「はい! 最高に癒されるすばらしい体験ですよ!」
「寝るわ」
思わず本音をもらす俺。
「うふふ、わたくしも小さい頃はよく寝落ちしてしまって、父に怒られましたわ。大丈夫、もし橘さまが居眠りしてしまわれたら、わたくしがその美しいおぐしをそっとなでて起こして差し上げますから」
そいつぁいいや。喜んで寝たふりするわ。
わきにお盆を置いて腰かけた惠簾は、
「いただく前に龍神さまにおひとつおそなえしましょう」
と言って小鉢の煮物の中から、
「にんじんさんどうぞ。はい、あ~ん」
と左手を添えて俺の目の前に箸を持ってきた。
つい反射的にパクっと食いつく俺。ん、うまい。にんじんの甘みと同時に、醤油の風味とかつおだしの香りが鼻にぬける。
横で惠簾がなぜか赤くなって、箸をもったまま自分の頬をはさんで首を振っている。「きゃぁかわいいっ、牙みちゃった」
小声で騒いでいるのは聞こえないふりをする。この娘、俺を小動物かなんかだと勘違いしてる?
そこへ折よく夕露が帰ってきた。
「遅かったじゃねえか」
「うん、下の市場まで行ってたから」
「市場? いったいなに買ってきて――」
夕露の手に握られたそれを見て、俺は絶句した。
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