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第09話、いま破られし古代の封印!
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「結界、だな」
俺は土間を横切り、天井まで届かんばかりの大岩の前に立った。爪でそっと岩の表面をなでると、バチっと音がして閃光が走る。
「ってーな……」
慌てて手を引っ込めた俺のうしろから玲萌が腕を伸ばし、指先でちょんちょんと大岩に触れた。
「危ないよ、玲萌」
俺が痛ぇって言ったそばから、なんでわざわざ触るかな、この子は。
「あたしが触っても何も起こらないわよ」
「俺の膨大な魔力に反応したのか」
太いしめ縄を見上げると、垂れ下がる紙垂は古びて変色している。
玲萌が意味ありげな視線を俺に向け、
「聖なる結界が妖怪をはばんでるのかしら」
と、からかってくすくすと笑った。
いたずらっ子みたいな横顔をかわいいなあと思いながらも、俺は口をとがらせる。「妖怪じゃないもん、俺」
だがまあ、おおむね玲萌の言う通りだろう。魔物を封印している結界が、人間をゆうに越える俺の魔力を封印すべき対象として反応したに違いない。
「なあ玲萌、この岩のうしろ部屋があんのかな? 穴蔵か?」
魔力光を岩の上へ飛ばすが――
「岩が大きすぎてなにも見えないわよ」
「だよな」
俺は下駄を脱ぎ捨てるとその場で二、三回足踏みした。足首についている白いヒレのような部分が輝き出す。俺は大きく息を吸い、鋭い爪の生えた足で天井すれすれまで跳躍した。
「いーないーな」
着地した俺をうらやむ玲萌。「なにが見えたの?」
「格子状の木戸みてぇなやつにたくさん護符が貼ってあった」
「護符? 見てみたい!」
「肩車してやるから乗れよ」
と土に片膝をつく。
「樹葵のツノが生えた肩に乗ったらケガしちゃうわ」
「ツノの内側に足を持ってくりゃあいいんだよ。むしろ安定して心地いいんだぜ?」
「どこ調べよ」
「当社比に決まってんだろ――それに玲萌」
ひざまずいたまま上目づかいに見上げる。「この岩が何をふさいでるか、知りてぇだろ?」
「うっ そう言われると……」
彼女は内なる好奇心に逆らえない。頭上に浮かべた魔力光が俺たちを照らし出す。
結局――
「失礼するわよ」
玲萌は草履をぬいで俺の肩に足を乗せた。張りのある内ももが俺の首をはさむ。
断じて下心があって肩車を提案したわけではない! うなじに彼女のどこが当たっているのかとか、考えたらだめだなこりゃあ。布ごしなんだから気にすんな、俺。
「だいじょぶよ、樹葵。立ち上がって」
煩悩と戦っていたらせかされてしまった。
玲萌が俺の髪に細い指をからませる。「樹葵、なんかとんがった耳の先が赤くなってるけど平気? 重い?」
ぼろを出さないよう、そんな質問には答えないでおく。首のうしろが熱い。なるべく彼女の身体のやわらかさから気をそらすべし! 着物のすその上から細い足を両手で支えて立ち上がる。
「見えるか?」
「見える見える!」
興奮した声が降ってきた。「古い格子状の雨戸みたいな――蔀って言うんだっけ。たっくさんお札が貼ってあっていかにもって雰囲気!!」
「てぇことは何か封印されてるんだな、きっと」
俺はゆっくりと玲萌を地面に下ろす。
「そのはずよ。これだけ強固な封印だもん。強い魔物が眠ってるのかも!」
「そいつぁますます見てみてえ!」
「でもどうやって?」
「こうするのさ」
俺は大岩の前に立つと、水かきのついた真っ白い手を中央にかざす。手のひらの中心に気を集めると、バチバチと音を立てて岩全体に閃光が広がった。手を炎に近づけているかのように熱と痛みが襲ってくる。
唇をかみ、上目づかいにしめ縄をにらむ。
「ちょっと樹葵、まさかこんな強い結界を――」
岩のまわりを風が渦まきはじめ、紙垂がバタバタとゆれ、俺の銀髪が舞い上がる。
「破っ」
俺が気を吐いた瞬間、しめ縄がはじけ飛んだ。閃光がいよいよ鋭くなったかと思うと、岩の中心に集まってゆく。
ゴゴゴゴゴゴ
自響きと共に目も開けられぬ光の中、
ずがあああぁぁぁああぁぁん!!
耳をつんざくような爆音とともに、岩が真っ二つに割れた!
立ちのぼる土煙の奥から姿をあらわす、べったりと護符を貼り重ねられた木戸。
「お札が―― はがれ落ちてく!」
玲萌の言う通り、ある護符ははがれ落ち、また別の護符ははじけ飛び、またほかのものはボッと火が着いたかと思うと炭になった。
俺は両手を頭上に突き出し、
「はぁぁぁっ!!」
と気を吐く。
蔀がゆっくりと奥へ傾き、大きな音を立てて倒れる。舞い上がるほこりの向こうに、天井まで埋め尽くす黒い怪物が見えた。
「これって確か、大昔に封印されたっていう――」
玲萌の言葉をついで俺はその名を口にした。
「土蜘蛛――」
俺は土間を横切り、天井まで届かんばかりの大岩の前に立った。爪でそっと岩の表面をなでると、バチっと音がして閃光が走る。
「ってーな……」
慌てて手を引っ込めた俺のうしろから玲萌が腕を伸ばし、指先でちょんちょんと大岩に触れた。
「危ないよ、玲萌」
俺が痛ぇって言ったそばから、なんでわざわざ触るかな、この子は。
「あたしが触っても何も起こらないわよ」
「俺の膨大な魔力に反応したのか」
太いしめ縄を見上げると、垂れ下がる紙垂は古びて変色している。
玲萌が意味ありげな視線を俺に向け、
「聖なる結界が妖怪をはばんでるのかしら」
と、からかってくすくすと笑った。
いたずらっ子みたいな横顔をかわいいなあと思いながらも、俺は口をとがらせる。「妖怪じゃないもん、俺」
だがまあ、おおむね玲萌の言う通りだろう。魔物を封印している結界が、人間をゆうに越える俺の魔力を封印すべき対象として反応したに違いない。
「なあ玲萌、この岩のうしろ部屋があんのかな? 穴蔵か?」
魔力光を岩の上へ飛ばすが――
「岩が大きすぎてなにも見えないわよ」
「だよな」
俺は下駄を脱ぎ捨てるとその場で二、三回足踏みした。足首についている白いヒレのような部分が輝き出す。俺は大きく息を吸い、鋭い爪の生えた足で天井すれすれまで跳躍した。
「いーないーな」
着地した俺をうらやむ玲萌。「なにが見えたの?」
「格子状の木戸みてぇなやつにたくさん護符が貼ってあった」
「護符? 見てみたい!」
「肩車してやるから乗れよ」
と土に片膝をつく。
「樹葵のツノが生えた肩に乗ったらケガしちゃうわ」
「ツノの内側に足を持ってくりゃあいいんだよ。むしろ安定して心地いいんだぜ?」
「どこ調べよ」
「当社比に決まってんだろ――それに玲萌」
ひざまずいたまま上目づかいに見上げる。「この岩が何をふさいでるか、知りてぇだろ?」
「うっ そう言われると……」
彼女は内なる好奇心に逆らえない。頭上に浮かべた魔力光が俺たちを照らし出す。
結局――
「失礼するわよ」
玲萌は草履をぬいで俺の肩に足を乗せた。張りのある内ももが俺の首をはさむ。
断じて下心があって肩車を提案したわけではない! うなじに彼女のどこが当たっているのかとか、考えたらだめだなこりゃあ。布ごしなんだから気にすんな、俺。
「だいじょぶよ、樹葵。立ち上がって」
煩悩と戦っていたらせかされてしまった。
玲萌が俺の髪に細い指をからませる。「樹葵、なんかとんがった耳の先が赤くなってるけど平気? 重い?」
ぼろを出さないよう、そんな質問には答えないでおく。首のうしろが熱い。なるべく彼女の身体のやわらかさから気をそらすべし! 着物のすその上から細い足を両手で支えて立ち上がる。
「見えるか?」
「見える見える!」
興奮した声が降ってきた。「古い格子状の雨戸みたいな――蔀って言うんだっけ。たっくさんお札が貼ってあっていかにもって雰囲気!!」
「てぇことは何か封印されてるんだな、きっと」
俺はゆっくりと玲萌を地面に下ろす。
「そのはずよ。これだけ強固な封印だもん。強い魔物が眠ってるのかも!」
「そいつぁますます見てみてえ!」
「でもどうやって?」
「こうするのさ」
俺は大岩の前に立つと、水かきのついた真っ白い手を中央にかざす。手のひらの中心に気を集めると、バチバチと音を立てて岩全体に閃光が広がった。手を炎に近づけているかのように熱と痛みが襲ってくる。
唇をかみ、上目づかいにしめ縄をにらむ。
「ちょっと樹葵、まさかこんな強い結界を――」
岩のまわりを風が渦まきはじめ、紙垂がバタバタとゆれ、俺の銀髪が舞い上がる。
「破っ」
俺が気を吐いた瞬間、しめ縄がはじけ飛んだ。閃光がいよいよ鋭くなったかと思うと、岩の中心に集まってゆく。
ゴゴゴゴゴゴ
自響きと共に目も開けられぬ光の中、
ずがあああぁぁぁああぁぁん!!
耳をつんざくような爆音とともに、岩が真っ二つに割れた!
立ちのぼる土煙の奥から姿をあらわす、べったりと護符を貼り重ねられた木戸。
「お札が―― はがれ落ちてく!」
玲萌の言う通り、ある護符ははがれ落ち、また別の護符ははじけ飛び、またほかのものはボッと火が着いたかと思うと炭になった。
俺は両手を頭上に突き出し、
「はぁぁぁっ!!」
と気を吐く。
蔀がゆっくりと奥へ傾き、大きな音を立てて倒れる。舞い上がるほこりの向こうに、天井まで埋め尽くす黒い怪物が見えた。
「これって確か、大昔に封印されたっていう――」
玲萌の言葉をついで俺はその名を口にした。
「土蜘蛛――」
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