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第06話、廃墟の古城に眠りし水龍王の遺物
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「ちょっとふたりとも! いつまでくっついてんのよ」
不満げな声に振り返ると、玲萌が少し寂しそうな目をしている。
「おおっとすまねえ」
やんわり惠簾を押し返したとき、
「くそーっ あの妖怪野郎、玲萌さんだけじゃなく惠簾ちゃんとまで密着しやがって!」
という悔しそうな声が聞こえてきた。
「僕に言わせれば我が学院一の美少女は、うるさい玲萌くんではなく、おしとやかな惠簾くんですね」
「オレも惠簾ちゃん推しだが、彼女は神社の運営にしか興味なくて男なんて見向きもしないからあきらめてたのに!」
男どもの会話が聞こえて、俺はつい優越感にひたる。
「あいつ、あやかしかと思いきや龍神の化身だっていうんだから、仕方ねーよ」
というあきらめの声も。「神の化身」ってなぁ悪くねぇ響きだ。あえて否定しないでおこう。
「えっ、でもさっき本人が、美しくなりたくてこの姿になったって言ってたような――」
ちぇっ、ちゃんと記憶力のあるやつもいやがったか。
「そうよ。樹葵は芸術家すぎて常人には理解できない美的感覚の持ち主なの」
おしゃべりな玲萌が解説しだす。「望んであやかしの姿になった変わり者なんだから。他人の目なんか気にせず堂々生きてるとこ、あたし尊敬してるの」
やったー! 玲萌にほめられた!
「ものは言いようだな」
学生の誰かがぼそっとつぶやいたのは気のせいってことで。
「院長の話ですと――」
師匠が人差し指を立て、
「卒業試験の旅に出た先で、失踪中だった天才魔道医と恋仲になり、彼女の魔術を借りて身体改造したとか――」
「えっ、恋人が天才魔道医!?」
などとわきたつ女子たち。恋人とかいう単語にやたら反応する年ごろである。
俺はうつむいて人知れず嘆息した。彼女は狂気の天才で、実験動物たちを溺愛していた人―― いま考えれば自分もその一員として愛されていたに過ぎなかったのかもしれない。
「悪いかよ……」
俺は地面をみつめたまま、ぼそっとつぶやいた。
「全然悪くありません!」
明るい声で否定したのは師匠。「自分が魅力的だと思うもの、素晴らしいと信じることを追い求めるのが人生ですっ!」
満面の笑みを浮かべて力説してくれる。
「お、おう……」
予想外の反応にとまどう俺。
「私も今朝、家の前でトンボの交尾をみつけてずっと眺めていたら、ちょっと授業に遅刻してしまいました」
そういえば鐘が鳴ってから到着した俺たちより遅かったよな。
「はぁ、どうして虫の春画は発売されないのだろう……?」
しごく残念そうな師匠。需要がないからだろうな!?
返す言葉に悩む俺に反して、ほかの学生たちは慣れているのか、
「師匠、質問なのですが」
冷静な声があがった。「いまの時代に龍神や龍王などと呼ばれる存在が生き残っているとは思えませんが、かと言って樹葵くんの能力は呪文詠唱もせず短い言葉をかけるだけで天気を変えるなど、常識を超えている。その理由について――」
「おお生徒会長! 着眼点がいいね!」
などとはやし立てる声に、質問者の言葉は途中でかき消された。
「ではせっかくですから授業らしい話でもしましょうか」
師匠の言葉に学生たちが静まった。
「私たちが魔術を使うときは、自然界の精霊に気を与えるかわりにこちらの願いを聞いてもらいますね」
「精霊に呼びかける言葉が呪文なんだよな」
と、俺。これくらいの基本なら覚えている。
「そのとおりです、橘くん。ですがいにしえの時代において魔術を発動させられたのは、長く厳しい修行を積んだ高僧など限られた者たちだけでした。精霊たちを統率する霊獣が存在していたためです」
「魔術史の授業で習った精霊王たちね!」
よく勉強している玲萌がさっそく反応する。「火なら鳳凰、水なら龍って具合にそれぞれ決まってたんでしょ」
「玲萌さんはよく覚えていますね」
俺だって試験前には丸暗記したんだけどな。
「ここからはやや専門的な話になりますが、水の精霊たちの上位存在である龍族最後の王が白龍でした。橘くんのたぐいまれな力から考えると、もしやその龍王のうろことツノを移植されたのではと思ったのですが――」
「ええっ!?」
と学生たちが声をあげる。「それって伝説の水龍のこと!?」
師匠はうなずいて、
「民間伝承では『伝説の水龍』とか『水龍王』などと呼ばれていますね」
「へぇ。そんなすげぇもんだったのか」
俺は片手を日に透かすようにかかげ、白く輝くうろこに目を細めた。「そういえばこのうろこやツノがおさめられてた木箱には『白き龍王の遺物ここに眠る』って書いてあったんだ」
「一体どこでそのような神秘の秘宝を?」
不思議そうな師匠に、
「いまは使われてない葦寸の古城に眠ってたんだよ」
「葦寸というと、何百年も噴火していなかった山がいきなり大爆発をおこして去年、国じゅうをさわがせた――」
あ。それ俺の魔術……。黙っておこう。
「古城の宝物庫でみつけたとき、このうろこは暗闇の中で青白い光を放っていた。俺はそのきらめきに心を奪われて、俺の肌がこんなふうに輝いたらどんなに美しいかと思ったんだ」
それから俺は自分の肩を指さした。
「このツノも透明でめっちゃきれいだろ!? ぜひ生やしたいと思ってさ!」
心をこめて提説すると、師匠は分かってくれたのかなんなのか、
「ほーう。それで恋仲だった天才魔道医に移植してもらったのですか」
「うん。そうしたら翌日から毎日すこしずつ、うろこを移植していない部分の肌も色が消えていって、髪も銀色に変わっていった」
興奮して次第に声が高くなる俺。なぜか師匠の顔色がどんどん悪くなっていくが構わず続ける。
「毎朝鏡を見るたび、変化してゆく自分の姿に気付くんだ。犬歯が牙になり、耳がこうもりのような形に変形してゆく」
「怪談だ!!」
いきなり叫ぶ師匠。だいじょぶか? 芸風崩壊してるぞ?
「あとねあとね」
俺はうずうずして話を進める。
「指のあいだには水かきが生えてきて。見て見て」
と、師匠の目の前に白い手を差し出し、
「爪が透明な鉤爪に変わっていった!」
「ぎゃーっ、怖いの苦手なんだからやめてくださいよっ!」
両手で顔を覆う師匠。
「怖くないじゃん! 猫だって鉤爪だよ?」
「ん? だから?」
「猫はかわいい代表だっ」
「私は昆虫派です。――じゃなくて!」
コホンとひとつ咳払いし、
「橘くんにはせっかく復学してもらったのに、魔術剣で練習試合できる学生がいないとは困りましたねぇ」
いきなり話を変えやがった。マジで怖いの嫌いなのか。
師匠が中庭に集まった学生をぐるりと見渡すと、みんな目をそむけたり、さりげなくあさっての方向を向いたりする。
ま、水龍王の能力を受け継ぐなんて聞いたら、名乗りあげるやつぁいねぇよな。俺としちゃあ過去の汚名を晴らせて満足さ。
不満げな声に振り返ると、玲萌が少し寂しそうな目をしている。
「おおっとすまねえ」
やんわり惠簾を押し返したとき、
「くそーっ あの妖怪野郎、玲萌さんだけじゃなく惠簾ちゃんとまで密着しやがって!」
という悔しそうな声が聞こえてきた。
「僕に言わせれば我が学院一の美少女は、うるさい玲萌くんではなく、おしとやかな惠簾くんですね」
「オレも惠簾ちゃん推しだが、彼女は神社の運営にしか興味なくて男なんて見向きもしないからあきらめてたのに!」
男どもの会話が聞こえて、俺はつい優越感にひたる。
「あいつ、あやかしかと思いきや龍神の化身だっていうんだから、仕方ねーよ」
というあきらめの声も。「神の化身」ってなぁ悪くねぇ響きだ。あえて否定しないでおこう。
「えっ、でもさっき本人が、美しくなりたくてこの姿になったって言ってたような――」
ちぇっ、ちゃんと記憶力のあるやつもいやがったか。
「そうよ。樹葵は芸術家すぎて常人には理解できない美的感覚の持ち主なの」
おしゃべりな玲萌が解説しだす。「望んであやかしの姿になった変わり者なんだから。他人の目なんか気にせず堂々生きてるとこ、あたし尊敬してるの」
やったー! 玲萌にほめられた!
「ものは言いようだな」
学生の誰かがぼそっとつぶやいたのは気のせいってことで。
「院長の話ですと――」
師匠が人差し指を立て、
「卒業試験の旅に出た先で、失踪中だった天才魔道医と恋仲になり、彼女の魔術を借りて身体改造したとか――」
「えっ、恋人が天才魔道医!?」
などとわきたつ女子たち。恋人とかいう単語にやたら反応する年ごろである。
俺はうつむいて人知れず嘆息した。彼女は狂気の天才で、実験動物たちを溺愛していた人―― いま考えれば自分もその一員として愛されていたに過ぎなかったのかもしれない。
「悪いかよ……」
俺は地面をみつめたまま、ぼそっとつぶやいた。
「全然悪くありません!」
明るい声で否定したのは師匠。「自分が魅力的だと思うもの、素晴らしいと信じることを追い求めるのが人生ですっ!」
満面の笑みを浮かべて力説してくれる。
「お、おう……」
予想外の反応にとまどう俺。
「私も今朝、家の前でトンボの交尾をみつけてずっと眺めていたら、ちょっと授業に遅刻してしまいました」
そういえば鐘が鳴ってから到着した俺たちより遅かったよな。
「はぁ、どうして虫の春画は発売されないのだろう……?」
しごく残念そうな師匠。需要がないからだろうな!?
返す言葉に悩む俺に反して、ほかの学生たちは慣れているのか、
「師匠、質問なのですが」
冷静な声があがった。「いまの時代に龍神や龍王などと呼ばれる存在が生き残っているとは思えませんが、かと言って樹葵くんの能力は呪文詠唱もせず短い言葉をかけるだけで天気を変えるなど、常識を超えている。その理由について――」
「おお生徒会長! 着眼点がいいね!」
などとはやし立てる声に、質問者の言葉は途中でかき消された。
「ではせっかくですから授業らしい話でもしましょうか」
師匠の言葉に学生たちが静まった。
「私たちが魔術を使うときは、自然界の精霊に気を与えるかわりにこちらの願いを聞いてもらいますね」
「精霊に呼びかける言葉が呪文なんだよな」
と、俺。これくらいの基本なら覚えている。
「そのとおりです、橘くん。ですがいにしえの時代において魔術を発動させられたのは、長く厳しい修行を積んだ高僧など限られた者たちだけでした。精霊たちを統率する霊獣が存在していたためです」
「魔術史の授業で習った精霊王たちね!」
よく勉強している玲萌がさっそく反応する。「火なら鳳凰、水なら龍って具合にそれぞれ決まってたんでしょ」
「玲萌さんはよく覚えていますね」
俺だって試験前には丸暗記したんだけどな。
「ここからはやや専門的な話になりますが、水の精霊たちの上位存在である龍族最後の王が白龍でした。橘くんのたぐいまれな力から考えると、もしやその龍王のうろことツノを移植されたのではと思ったのですが――」
「ええっ!?」
と学生たちが声をあげる。「それって伝説の水龍のこと!?」
師匠はうなずいて、
「民間伝承では『伝説の水龍』とか『水龍王』などと呼ばれていますね」
「へぇ。そんなすげぇもんだったのか」
俺は片手を日に透かすようにかかげ、白く輝くうろこに目を細めた。「そういえばこのうろこやツノがおさめられてた木箱には『白き龍王の遺物ここに眠る』って書いてあったんだ」
「一体どこでそのような神秘の秘宝を?」
不思議そうな師匠に、
「いまは使われてない葦寸の古城に眠ってたんだよ」
「葦寸というと、何百年も噴火していなかった山がいきなり大爆発をおこして去年、国じゅうをさわがせた――」
あ。それ俺の魔術……。黙っておこう。
「古城の宝物庫でみつけたとき、このうろこは暗闇の中で青白い光を放っていた。俺はそのきらめきに心を奪われて、俺の肌がこんなふうに輝いたらどんなに美しいかと思ったんだ」
それから俺は自分の肩を指さした。
「このツノも透明でめっちゃきれいだろ!? ぜひ生やしたいと思ってさ!」
心をこめて提説すると、師匠は分かってくれたのかなんなのか、
「ほーう。それで恋仲だった天才魔道医に移植してもらったのですか」
「うん。そうしたら翌日から毎日すこしずつ、うろこを移植していない部分の肌も色が消えていって、髪も銀色に変わっていった」
興奮して次第に声が高くなる俺。なぜか師匠の顔色がどんどん悪くなっていくが構わず続ける。
「毎朝鏡を見るたび、変化してゆく自分の姿に気付くんだ。犬歯が牙になり、耳がこうもりのような形に変形してゆく」
「怪談だ!!」
いきなり叫ぶ師匠。だいじょぶか? 芸風崩壊してるぞ?
「あとねあとね」
俺はうずうずして話を進める。
「指のあいだには水かきが生えてきて。見て見て」
と、師匠の目の前に白い手を差し出し、
「爪が透明な鉤爪に変わっていった!」
「ぎゃーっ、怖いの苦手なんだからやめてくださいよっ!」
両手で顔を覆う師匠。
「怖くないじゃん! 猫だって鉤爪だよ?」
「ん? だから?」
「猫はかわいい代表だっ」
「私は昆虫派です。――じゃなくて!」
コホンとひとつ咳払いし、
「橘くんにはせっかく復学してもらったのに、魔術剣で練習試合できる学生がいないとは困りましたねぇ」
いきなり話を変えやがった。マジで怖いの嫌いなのか。
師匠が中庭に集まった学生をぐるりと見渡すと、みんな目をそむけたり、さりげなくあさっての方向を向いたりする。
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