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第39話、皆の喝采を受けるロミルダ
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「ミケーレ第一王子――」
涙で頬を濡らしたアルチーナが振り返った。
「魔女アルチーナよ、よく聞け。お前の義理の娘であるロミルダ嬢が、お前を処刑しないでほしいと嘆願したのだ」
「ロミルダが――」
「そうだ。婚約者である余に、お前の命乞いをしたのだぞ?」
「ああ、ロミルダ……! 私はあの子にずっとつらく当たっていたのに、こんな優しさをくれるなんて!」
ナナの姿をしたロミルダの腕の中からアルチーナは崩れ落ち、井戸に背をこすりつけて泣き出した。
「そうだぞ。ロミルダには感謝してもしきれんだろう」
ミケーレ殿下がひたすらロミルダを持ち上げてくれる。
「実の娘ドラベッラは私を裏切ったというのに!」
足元にうずくまるアルチーナの背中を、ロミルダはあわれみのまなざしで見下ろした。
(実の娘に裏切られるなんて―― どう声をかけたらいいか分からない……。けれど、猫ちゃんに吹き矢を射かけるようなドラベッラを、擁護したくないわ)
そのときロミルダは、何か重要なことを見落としている感覚に襲われた。
(猫ちゃんを射殺そうとした残酷なドラベッラは、王太子殺人未遂罪――)
何かがカチっとはまる寸前、ミケーレが問いただした。
「魔女アルチーナ、フォンテリア王国を乗っ取ろうとした罪を認めるか?」
「もちろんでございます、ミケーレ王太子殿下。どんな罰も受ける覚悟であります」
「寛大な父上はお前の命を奪わず、北の塔に幽閉すると決めた」
「――――」
アルチーナは我が耳を疑うかのように、顔を上げてミケーレを見つめた。
「ただし残された時間は、お前の魔女の知識を書物にまとめることに費やせとの仰せだ。できるか?」
「も、もちろんでございます! どうぞ私の知識と経験を、王国の役に立ててくださいまし」
アルチーナは額を石畳にこすりつけ、感涙にむせび、国王をたたえた。
「ああ、なんと寛大な陛下のお裁き! 罪を重ねた私に生き直す機会を与えてくださるとは!」
「それよりロミルダ嬢をたたえよ」
ミケーレが不満そうな顔をする。
屋敷の中から侍従たちが出てきて、負傷した騎士団の代わりにアルチーナを北の塔に連れて行く。
「かか様――」
名残惜しそうに振り返るアルチーナに、ナナの姿を借りたロミルダは慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「アルチーナ。これからもアタシはいつでも、お前を空から見守っているからね」
「かか様―― あ、皆さん!」
アルチーナが突然大きな声を出した。
「井戸の水を飲んではいけません。獣になってしまいます!」
(そういえば何か魔法薬を入れていたものね)
ロミルダは井戸の中をのぞいてみたが、丸く切り取られた闇が浮かんでいるだけだった。
(私、さっき何か重要なことに思い至ったような―― ま、思い出さないってことは、たいしたことじゃないわね、きっと!)
深く考える習慣のないロミルダは、それ以上追求しなかった。
いつの間にかとなりに立っているミケーレが、すり寄ってくるディライラを抱き上げながらロミルダに尋ねた。
「で、ロミルダ。その姿はどうすれば元に戻るのだ?」
「えっとそれは―― その前にミケーレ様! 陛下を説得してアルチーナ夫人の処刑を撤回してくださり、本当にありがとうございました!」
がばっと頭を下げる四十年前の高級娼婦に、騎士団や衛兵たちがざわめきだす。
「私を信用してくださったこと、本当にうれしくて――」
「そなたを信用するなど当然ではないか。余はそなたの明るさと優しさに賭けてみようと思ったのだ」
ロミルダの耳もとに唇を近づけると、こそっとささやいた。
「ほかでもない余が、太陽のようなそなたに救われたからな」
「ミケーレ様――」
何か言いかけたロミルダだったが、
「ロミルダ様なのですか!?」
「えぇっ、変装していらっしゃるのですか!?」
「いやいやまさか! お胸のサイズがずいぶん違う――」
無駄なことを言った騎士は、振り返ったナナ姿のロミルダに思いっきり睨みつけられた。
「うほっ! そのお姿だと冷たい目つきもご褒美ですな!」
「余のロミルダになんという暴言を! そちを三割の減俸処分とする!」
「えええっ!?」
ミケーレ王太子の電光石火の裁定に、騎士はへなへなと座り込んだ。
「ロミルダ様は『変身の粉』を使われたのですか?」
宮廷魔術師の問いにロミルダがうなずくと、
「それなら水で粉を洗い流せば、元のお姿に戻りますよ」
「そうか。ロミルダ、目と口を閉じろ。飲むなよ?」
ディライラを石井戸の縁に下ろし、水を汲むミケーレに、ロミルダは心底残念そうな声を出した。
「え~、ミケーレ様! ナナさんの姿、美人じゃないですか? 私しばらくこの外見、楽しもうと思っていたのに……」
「余はいつものロミルダがいい!」
反抗期の子供みたいな口調で言うと、ミケーレは井戸水でたちまちのうちに「変身の粉」を洗い流してしまった。
「本当にロミルダ様だ!」
「魔女の魔法薬で変身していらっしゃったんだ!」
「俺、ロミルダ様の言葉に感動して泣いちまったよ……」
「ロミルダ様こそ、我らが女神だ!」
衛兵も騎士も驚いて一様に騒ぎ出す。
中庭に面した窓が次々と開き、バルコニーにも人々が姿を現した。宮殿で働く人々は皆、息をひそめてバルコニーや窓に張りつき、事の成り行きを見守っていたようだ。
「ロミルダ様がフォンテリア王国を救って下さった!」
「魔女の陰謀から守って下さったんだ!」
天井の低い最上階に住む使用人たちも、小さな窓を開け手を振っている。
「ロミルダ様ーっ!」
宮殿の人々の喝采を受けながらロミルダは、やりとげた喜びを胸いっぱいに抱きながら、皆に手を振り返していた。
・~・~・~・~・~・~
「ロミルダ、大活躍だったね!」
と思っていただけたら(?)、お気に入り追加や投票で作品を応援していただけるとうれしいです!
次話、ロミルダ嬢とミケーレ殿下の婚姻の儀です。
ミケーレの弟カルロ第二王子にも、新しい婚約者が決まります♪
涙で頬を濡らしたアルチーナが振り返った。
「魔女アルチーナよ、よく聞け。お前の義理の娘であるロミルダ嬢が、お前を処刑しないでほしいと嘆願したのだ」
「ロミルダが――」
「そうだ。婚約者である余に、お前の命乞いをしたのだぞ?」
「ああ、ロミルダ……! 私はあの子にずっとつらく当たっていたのに、こんな優しさをくれるなんて!」
ナナの姿をしたロミルダの腕の中からアルチーナは崩れ落ち、井戸に背をこすりつけて泣き出した。
「そうだぞ。ロミルダには感謝してもしきれんだろう」
ミケーレ殿下がひたすらロミルダを持ち上げてくれる。
「実の娘ドラベッラは私を裏切ったというのに!」
足元にうずくまるアルチーナの背中を、ロミルダはあわれみのまなざしで見下ろした。
(実の娘に裏切られるなんて―― どう声をかけたらいいか分からない……。けれど、猫ちゃんに吹き矢を射かけるようなドラベッラを、擁護したくないわ)
そのときロミルダは、何か重要なことを見落としている感覚に襲われた。
(猫ちゃんを射殺そうとした残酷なドラベッラは、王太子殺人未遂罪――)
何かがカチっとはまる寸前、ミケーレが問いただした。
「魔女アルチーナ、フォンテリア王国を乗っ取ろうとした罪を認めるか?」
「もちろんでございます、ミケーレ王太子殿下。どんな罰も受ける覚悟であります」
「寛大な父上はお前の命を奪わず、北の塔に幽閉すると決めた」
「――――」
アルチーナは我が耳を疑うかのように、顔を上げてミケーレを見つめた。
「ただし残された時間は、お前の魔女の知識を書物にまとめることに費やせとの仰せだ。できるか?」
「も、もちろんでございます! どうぞ私の知識と経験を、王国の役に立ててくださいまし」
アルチーナは額を石畳にこすりつけ、感涙にむせび、国王をたたえた。
「ああ、なんと寛大な陛下のお裁き! 罪を重ねた私に生き直す機会を与えてくださるとは!」
「それよりロミルダ嬢をたたえよ」
ミケーレが不満そうな顔をする。
屋敷の中から侍従たちが出てきて、負傷した騎士団の代わりにアルチーナを北の塔に連れて行く。
「かか様――」
名残惜しそうに振り返るアルチーナに、ナナの姿を借りたロミルダは慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「アルチーナ。これからもアタシはいつでも、お前を空から見守っているからね」
「かか様―― あ、皆さん!」
アルチーナが突然大きな声を出した。
「井戸の水を飲んではいけません。獣になってしまいます!」
(そういえば何か魔法薬を入れていたものね)
ロミルダは井戸の中をのぞいてみたが、丸く切り取られた闇が浮かんでいるだけだった。
(私、さっき何か重要なことに思い至ったような―― ま、思い出さないってことは、たいしたことじゃないわね、きっと!)
深く考える習慣のないロミルダは、それ以上追求しなかった。
いつの間にかとなりに立っているミケーレが、すり寄ってくるディライラを抱き上げながらロミルダに尋ねた。
「で、ロミルダ。その姿はどうすれば元に戻るのだ?」
「えっとそれは―― その前にミケーレ様! 陛下を説得してアルチーナ夫人の処刑を撤回してくださり、本当にありがとうございました!」
がばっと頭を下げる四十年前の高級娼婦に、騎士団や衛兵たちがざわめきだす。
「私を信用してくださったこと、本当にうれしくて――」
「そなたを信用するなど当然ではないか。余はそなたの明るさと優しさに賭けてみようと思ったのだ」
ロミルダの耳もとに唇を近づけると、こそっとささやいた。
「ほかでもない余が、太陽のようなそなたに救われたからな」
「ミケーレ様――」
何か言いかけたロミルダだったが、
「ロミルダ様なのですか!?」
「えぇっ、変装していらっしゃるのですか!?」
「いやいやまさか! お胸のサイズがずいぶん違う――」
無駄なことを言った騎士は、振り返ったナナ姿のロミルダに思いっきり睨みつけられた。
「うほっ! そのお姿だと冷たい目つきもご褒美ですな!」
「余のロミルダになんという暴言を! そちを三割の減俸処分とする!」
「えええっ!?」
ミケーレ王太子の電光石火の裁定に、騎士はへなへなと座り込んだ。
「ロミルダ様は『変身の粉』を使われたのですか?」
宮廷魔術師の問いにロミルダがうなずくと、
「それなら水で粉を洗い流せば、元のお姿に戻りますよ」
「そうか。ロミルダ、目と口を閉じろ。飲むなよ?」
ディライラを石井戸の縁に下ろし、水を汲むミケーレに、ロミルダは心底残念そうな声を出した。
「え~、ミケーレ様! ナナさんの姿、美人じゃないですか? 私しばらくこの外見、楽しもうと思っていたのに……」
「余はいつものロミルダがいい!」
反抗期の子供みたいな口調で言うと、ミケーレは井戸水でたちまちのうちに「変身の粉」を洗い流してしまった。
「本当にロミルダ様だ!」
「魔女の魔法薬で変身していらっしゃったんだ!」
「俺、ロミルダ様の言葉に感動して泣いちまったよ……」
「ロミルダ様こそ、我らが女神だ!」
衛兵も騎士も驚いて一様に騒ぎ出す。
中庭に面した窓が次々と開き、バルコニーにも人々が姿を現した。宮殿で働く人々は皆、息をひそめてバルコニーや窓に張りつき、事の成り行きを見守っていたようだ。
「ロミルダ様がフォンテリア王国を救って下さった!」
「魔女の陰謀から守って下さったんだ!」
天井の低い最上階に住む使用人たちも、小さな窓を開け手を振っている。
「ロミルダ様ーっ!」
宮殿の人々の喝采を受けながらロミルダは、やりとげた喜びを胸いっぱいに抱きながら、皆に手を振り返していた。
・~・~・~・~・~・~
「ロミルダ、大活躍だったね!」
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