【完結】君を愛することはないと言われた侯爵令嬢が猫ちゃんを拾ったら~義母と義妹の策略でいわれなき冤罪に苦しむ私が幸せな王太子妃になるまで~

綾森れん

文字の大きさ
上 下
16 / 41

第16話、占星術師の不吉な予言、再び

しおりを挟む
 手紙の返信を携えた先触れを出していたお蔭で、私達がソルツァグマ修道院へ着いた時にはサリューン枢機卿、メンデル修道院長、ファブリス司祭達、エヴァン修道士他数人の修道士達と共に出迎えてくれていた。
 ヴェスカル、グレイ、イドゥリースが先に下車。私はグレイの、ついて来たメリーはイドゥリースのエスコートで馬車を降りると、彼ら全員聖職者の礼を取って深々と頭を垂れる。

 「聖女マリアージュ様、そしてグレイ猊下――お久しゅうございます。エヴァン修道士とファブリス司祭よりマンデーズ教会にて起こされた奇跡を聞き及びましたが、無事にお戻りになられた事に太陽神への感謝を」

 サリューン枢機卿の口上に、私とグレイも返礼をした。

 「ファブリス司祭、他の方々も。お元気でしたか?」

 「お陰様にて、大変良くして頂いております」

 「それは良かったわ。メンデル修道院長、私の我儘で急な話になったにも関わらず、快く受け入れて下さり感謝致します」

 「聖女様のお頼みとあらば。寧ろ、奇跡の話を当事者から直接聞けて役得にございました」

 「ヴェスカルはこちらへ」

 「はい」

 エヴァン修道士が声を掛けたことにあれ? と思う。そう言えばべリーチェ修道女の姿が無い。
 そんな疑問が顔に出ていたのか、エヴァン修道士は「既にヴェスカルは学び終えましたから」と言う。

 「聖女様、新年の儀にも関係あるのですが、ヴェスカルの事でお話が」

 曰く、ファブリス司祭達と同時にヴェスカルとエヴァン修道士も位階を上げるという事になったらしい。
 ヴェスカルは『聖女専属侍祭』、エヴァン修道士は『聖女専属書記』という特別位階だという。
 どういうことか訊けば、私専属というだけでやる事自体は今までと大して変わらないんだとか。
 ヴェスカルは私の小間使い的な位置付け、エヴァン修道士も聖女の記録専門職になる。
 役職名が付く、それだけである。

 ただ二人共権限的には司祭にも匹敵するそうでこれまでにない特別職。正装も普通の聖職者達とは違うものになっており、今日はそのサイズ合わせと本番練習があるという。

 「位階をお授けになるのは聖女様ですから、また後程お会いしましょう」

 エヴァン修道士とヴェスカルと別れた後、私達も行きましょうということになり歩き出す。
 今気が付いたが、修道院を囲むように立っている騎士達に気付いた。王宮の制服を着ている。恐らくサリューン枢機卿の警護だろう。今日は流石に修道院は貸し切り状態であるようだ。
 向かった先の聖堂で新年の儀の一連の流れを説明される。第一王子アルバートとメティ、王族、貴族達、ファブリス司祭達聖職者、民衆……祝福対象はてんこ盛りである。
 新年の祝いで大体的にお披露目するのが効果的なのだろうから仕方ないが。

 聖句を覚え直し、途中でエヴァン修道士とヴェスカルを加え。リハーサルを数回終えた時には既に私はヘトヘトになっていた。


***


 お腹が鳴った昼過ぎ。漸くそれなりになってきたところでべリーチェ修道女達女性陣がランチを持って来てくれた。
 ああ、彼女達の背後に後光が見える……。どうせなら一緒に食べようと誘って近況などを聞くと――

 「え、メイソンの?」

 「はい。ヴェスカルの手も離れましたし」

 何と、べリーチェ修道女はメイソンの世話をしてやっているらしい。今は出家したとは言え、メイソンは元大貴族のドラ息子である。
 調き……もとい、上下関係をみっちり教え込んだ私と違い、べリーチェ修道女には横柄な態度を取っている可能性がある。

 「大変よね?」

 首を傾げて訊ねると、「ええ、まあ……」と苦笑交じりの微笑みを返された。

 「聖女様がマンデーズ教会に向かわれた事を知った時は、また置いて行かれたと暫く駄々を捏ね不貞腐れていて手を焼きましたが――何とか言い含めて仕事を与えてみたら、最近やっと聖職者としての自覚が出て来たようで真面目に働いておりますわ」

 何と、子供達を教えているんですよ!

 「グッ、ゲホゲホッ……」

 その言葉の衝撃たるや。
 私は口に含んだシチューを危うく噴き出しかけた。

 子供達を教える? 教師? あの馬鹿で変態な雄豚奴隷メイソンが!?

 「嘘だ。信じられない……」

 幻聴を疑っていると、愕然とした様子で震え声を出すグレイ。全く同感だ。
 驚かせる事に成功したとでも言わんばかりにクスクスと笑うべリーチェ修道女。

 「猊下、本当ですわ。そろそろ午後の授業が始まる所でしょう。ご覧になられますか?」

 どうしよう、子供達が凄く心配なんだけど。
 リハーサル……でも、少しだけなら見ても良いかしら?
 凄く気になるんだけど。

 ちらり、とサリューン枢機卿やメンデル修道院長を見る。
 すると、苦笑いを浮かべながら「賢者様の聖句のおさらいをしたいですし、半時60分程度なら構いませんよ」と許可が出た。
 どこかげんなりした恨めしそうな様子でこちらを見るイドゥリース、それを励ますメリー。
 彼らに頑張れとエールを送り後でねと手を振って、授業が行われている教室に行ってみる事に。

 「畏まりました。こちらへどうぞ」

 べリーチェ修道女の案内で向かった先――そこは私が講義をしたこともある古びた大きな石板、もとい黒板のある部屋だった。
 子供達のはしゃぐ声が聞こえて来る。怖いもの見たさで、私はごくりと唾を飲み込んだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...