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第9話、ロミルダ嬢を陥れようとした母娘、連行される
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ロミルダは、突然姿を消した三毛猫ミケを探し回った。
「ミケ、ミケ! どこに行ったの!?」
ベッドの中、クッションの下、クローゼットの中など部屋中を確認したが、どこにもミケの姿はない。
「おかしいわ! 窓もドアも閉めきっているのに」
「猫は小さなすき間でも通ってしまいますから」
悲嘆にくれるロミルダのために侍女のサラは、ほかの使用人たちにもお願いして屋敷じゅう探してもらったが、三毛猫は忽然と消え失せてしまった。
「あんなになついてくれる猫ちゃん、初めてだったのに――」
魂の抜け殻になったロミルダは日が暮れたのも気づかず、夕食にも手をつけず、ベッドのはしに腰かけぼうっとしていた。
いつも冷静な侍女サラもさすがになすすべがなく、窓から外を見下ろしていた。そんな彼女の目に入ったのは、屋敷の正門へ向かってくる馬車と馬の隊列。
「侯爵様のお帰りです――えっ!?」
モンターニャ侯爵家の紋が入った馬車のうしろに見えるのは――
「王家の紋章入りの馬車ですわ。なぜこんな夜遅くに?」
理由は分からないながらもサラは、放心状態のロミルダを立たせて身だしなみを整え始めた。
中庭をはさんだ向かいの部屋では、アルチーナ夫人とその娘ドラベッラが祝杯を上げている最中だった。
「私の積年の願いが叶うのはもうすぐよ…… かか様、王家の血は再び私の娘を通して戻るのです!」
アルチーナ夫人は、首から下げた小さなロケットにはさんだ肖像画へ語りかけていた。
「侯爵様のお帰り~ ――って、え!? 王太子殿下!?」
「静かにしろ。もてなしはいらん」
身を乗り出した門番に、ミケーレ第一王子は声をひそめて告げた。一行はミケーレを先頭に、壁の燭台に照らされたうす暗い廊下を足早に進んだ。
「殿下、我が屋敷をよくご存知で」
回廊でつながれた複雑な邸宅内を迷わず侯爵夫人の部屋へ向かうミケーレに、モンターニャ侯爵は驚愕している。
「猫の足で歩き回ったからな。位置記憶は人間より良いようだ」
大きな木の扉の前で立ち止まると、
「ここが魔女の部屋だ」
断りもなしに扉を開け放った。
暖炉の前に置かれた布張りのソファでくつろいでいたアルチーナ夫人が振り返った。
「な――」
なんですの、と言いかけた彼女は、扉を開けた彼の姿を見とめて言葉を飲み込んだ。あえかなロウソクの灯りにさえ煌めくブロンドが映りこむ薄い黄緑色の瞳を持つ青年――何度も会ったわけではないが、この印象的な美貌の持ち主はよく知っている。なぜなら魔法薬を盛った相手だから。
「なぜ!?」
間抜けなことを口走ったのはアルチーナ夫人の横に座っていたドラベッラ嬢。クッキーを食べたはずの王太子が、なぜもとの姿に戻っているのだとでも問いたいのだろう。アルチーナ夫人は娘の背中に手を回し、腰のあたりをぎゅっとつねった。
「あの瓶に入っているのが魔法薬だ」
ミケーレ王太子が指さしたのは、壁ぎわの飾り棚に並んだ瓶のひとつ。砂糖によく似た白い粉が入っている。
宮廷魔術師と騎士が飾り棚に向かい、証拠品を押収すると同時に、騎士団長がアルチーナ夫人の腕をつかみ上げた。
「突然やって来てなんですの、あなたたち!?」
「しらじらしいぞ、魔女め」
ミケーレの冷たいまなざしが、紫の髪を振り乱して叫ぶアルチーナ夫人を射た。
「魔女ですって!? 魔女はあの子ですわ、ロミルダとかいう恐ろしい娘!」
「貴様――」
普段は無表情なことが多いミケーレの両眼が吊り上がった。
「この期に及んでまだあの心優しいロミルダに、罪をなすりつける気か!」
恐ろしい気迫で低く叫ぶと、アルチーナ夫人の派手なドレスの胸倉をつかんだ。
「殿下、お気を付けください!」
魔術師が叫んだ。
「目を見ると魅入られるかもしれません!」
だがむしろアルチーナ夫人のほうが、野生の虎に睨まれた小動物のように動けなくなっていた。
「ふん、くだらん」
吐き捨てるとミケーレはその手を離した。徹底して帝王学を叩き込まれた彼は、どんなときでも感情を抑えるように教育されてきたから、アルチーナ夫人を殴るなどという野蛮なことはしなかった。
「私が魔女だなんてどこから出た嘘ですの!?」
アルチーナ夫人は泣き声を出して、助けを求めるように部屋の入り口に立つモンターニャ侯爵を振りあおいだ。
侯爵は目をそらし、胸に下げたペンダントをぎゅっと握る。それはここへ来る前、魔女の魅了除けにと魔術師から渡されたものだった。
娘のドラベッラも二人の騎士に両脇から拘束された。
「やめて! さわらないでよ!」
「こいつも魔女の娘だ。どんな危険な術を使うか分からんぞ!」
騎士団長が部下の騎士たちに注意を促すが、二人とも泣き言を言ったり金切り声を上げるばかりで妖しい術を使う気配はない。
「ククク…… 嘘をつき通すために魔法を使って対抗できないというわけか」
ミケーレがさも楽しそうに唇の端をゆがめた。
「忸怩たる思いだろうな?」
豪華なドレスに身を包んだアルチーナ夫人とドラベッラ嬢は、騎士団により廊下へ引きずり出された。
「身に覚えのない罪を着せられそうになったロミルダ嬢の気持ちを考えてみよ!」
連行されてゆくうしろ姿に、ミケーレが言い放つ。
「お前たちは冤罪ではないだけマシな気分であろう! はっはっはっ!」
笑顔さえほとんど浮かべないミケーレの笑い声に、モンターニャ侯爵は思わずその顔をまじまじと見つめそうになった。
「一体何が起こっているのかしら」
ロミルダは彼女の寝室で、侍女サラと並んでバルコニーから見下ろしていた。騎士団は無理やり引っ張ってきた母娘を馬車に押し込み、正門から出て王宮の方角へ消えてしまった。
だが王家の紋章付きの立派な馬車がもう一台、屋敷の下に止まったままだ。二人で不思議に思って顔を見合わせていると、誰かが扉をたたいた。
「ロミルダ嬢、余だ。そなたの婚約者、ミケーレだ」
・~・~・~・~・~・~・
ロミルダの部屋を訪れた王太子が彼女に伝えたいことは?
次話に続く! しおりをはさんでお待ちください♪
「ミケ、ミケ! どこに行ったの!?」
ベッドの中、クッションの下、クローゼットの中など部屋中を確認したが、どこにもミケの姿はない。
「おかしいわ! 窓もドアも閉めきっているのに」
「猫は小さなすき間でも通ってしまいますから」
悲嘆にくれるロミルダのために侍女のサラは、ほかの使用人たちにもお願いして屋敷じゅう探してもらったが、三毛猫は忽然と消え失せてしまった。
「あんなになついてくれる猫ちゃん、初めてだったのに――」
魂の抜け殻になったロミルダは日が暮れたのも気づかず、夕食にも手をつけず、ベッドのはしに腰かけぼうっとしていた。
いつも冷静な侍女サラもさすがになすすべがなく、窓から外を見下ろしていた。そんな彼女の目に入ったのは、屋敷の正門へ向かってくる馬車と馬の隊列。
「侯爵様のお帰りです――えっ!?」
モンターニャ侯爵家の紋が入った馬車のうしろに見えるのは――
「王家の紋章入りの馬車ですわ。なぜこんな夜遅くに?」
理由は分からないながらもサラは、放心状態のロミルダを立たせて身だしなみを整え始めた。
中庭をはさんだ向かいの部屋では、アルチーナ夫人とその娘ドラベッラが祝杯を上げている最中だった。
「私の積年の願いが叶うのはもうすぐよ…… かか様、王家の血は再び私の娘を通して戻るのです!」
アルチーナ夫人は、首から下げた小さなロケットにはさんだ肖像画へ語りかけていた。
「侯爵様のお帰り~ ――って、え!? 王太子殿下!?」
「静かにしろ。もてなしはいらん」
身を乗り出した門番に、ミケーレ第一王子は声をひそめて告げた。一行はミケーレを先頭に、壁の燭台に照らされたうす暗い廊下を足早に進んだ。
「殿下、我が屋敷をよくご存知で」
回廊でつながれた複雑な邸宅内を迷わず侯爵夫人の部屋へ向かうミケーレに、モンターニャ侯爵は驚愕している。
「猫の足で歩き回ったからな。位置記憶は人間より良いようだ」
大きな木の扉の前で立ち止まると、
「ここが魔女の部屋だ」
断りもなしに扉を開け放った。
暖炉の前に置かれた布張りのソファでくつろいでいたアルチーナ夫人が振り返った。
「な――」
なんですの、と言いかけた彼女は、扉を開けた彼の姿を見とめて言葉を飲み込んだ。あえかなロウソクの灯りにさえ煌めくブロンドが映りこむ薄い黄緑色の瞳を持つ青年――何度も会ったわけではないが、この印象的な美貌の持ち主はよく知っている。なぜなら魔法薬を盛った相手だから。
「なぜ!?」
間抜けなことを口走ったのはアルチーナ夫人の横に座っていたドラベッラ嬢。クッキーを食べたはずの王太子が、なぜもとの姿に戻っているのだとでも問いたいのだろう。アルチーナ夫人は娘の背中に手を回し、腰のあたりをぎゅっとつねった。
「あの瓶に入っているのが魔法薬だ」
ミケーレ王太子が指さしたのは、壁ぎわの飾り棚に並んだ瓶のひとつ。砂糖によく似た白い粉が入っている。
宮廷魔術師と騎士が飾り棚に向かい、証拠品を押収すると同時に、騎士団長がアルチーナ夫人の腕をつかみ上げた。
「突然やって来てなんですの、あなたたち!?」
「しらじらしいぞ、魔女め」
ミケーレの冷たいまなざしが、紫の髪を振り乱して叫ぶアルチーナ夫人を射た。
「魔女ですって!? 魔女はあの子ですわ、ロミルダとかいう恐ろしい娘!」
「貴様――」
普段は無表情なことが多いミケーレの両眼が吊り上がった。
「この期に及んでまだあの心優しいロミルダに、罪をなすりつける気か!」
恐ろしい気迫で低く叫ぶと、アルチーナ夫人の派手なドレスの胸倉をつかんだ。
「殿下、お気を付けください!」
魔術師が叫んだ。
「目を見ると魅入られるかもしれません!」
だがむしろアルチーナ夫人のほうが、野生の虎に睨まれた小動物のように動けなくなっていた。
「ふん、くだらん」
吐き捨てるとミケーレはその手を離した。徹底して帝王学を叩き込まれた彼は、どんなときでも感情を抑えるように教育されてきたから、アルチーナ夫人を殴るなどという野蛮なことはしなかった。
「私が魔女だなんてどこから出た嘘ですの!?」
アルチーナ夫人は泣き声を出して、助けを求めるように部屋の入り口に立つモンターニャ侯爵を振りあおいだ。
侯爵は目をそらし、胸に下げたペンダントをぎゅっと握る。それはここへ来る前、魔女の魅了除けにと魔術師から渡されたものだった。
娘のドラベッラも二人の騎士に両脇から拘束された。
「やめて! さわらないでよ!」
「こいつも魔女の娘だ。どんな危険な術を使うか分からんぞ!」
騎士団長が部下の騎士たちに注意を促すが、二人とも泣き言を言ったり金切り声を上げるばかりで妖しい術を使う気配はない。
「ククク…… 嘘をつき通すために魔法を使って対抗できないというわけか」
ミケーレがさも楽しそうに唇の端をゆがめた。
「忸怩たる思いだろうな?」
豪華なドレスに身を包んだアルチーナ夫人とドラベッラ嬢は、騎士団により廊下へ引きずり出された。
「身に覚えのない罪を着せられそうになったロミルダ嬢の気持ちを考えてみよ!」
連行されてゆくうしろ姿に、ミケーレが言い放つ。
「お前たちは冤罪ではないだけマシな気分であろう! はっはっはっ!」
笑顔さえほとんど浮かべないミケーレの笑い声に、モンターニャ侯爵は思わずその顔をまじまじと見つめそうになった。
「一体何が起こっているのかしら」
ロミルダは彼女の寝室で、侍女サラと並んでバルコニーから見下ろしていた。騎士団は無理やり引っ張ってきた母娘を馬車に押し込み、正門から出て王宮の方角へ消えてしまった。
だが王家の紋章付きの立派な馬車がもう一台、屋敷の下に止まったままだ。二人で不思議に思って顔を見合わせていると、誰かが扉をたたいた。
「ロミルダ嬢、余だ。そなたの婚約者、ミケーレだ」
・~・~・~・~・~・~・
ロミルダの部屋を訪れた王太子が彼女に伝えたいことは?
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