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十、金の騎士
32、大切な君に伝えたいこと
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昼時、おなかがすいたので龍厳寺に上がり込み、ずうずうしくも昼飯をごちそうになる。
ご飯の上に、朝の残りという塩鮭のかけらを乗せ、海苔をちぎり、お茶をかけて食べる。クリスタと縁側に並んで中庭をながめ、お椀をかっこむお茶漬けの話題も、スイリュウのことだった。
「クリスタまでスイリュウのこと悪く言うの?」
パールはうんざりした。
「だって昨日のスイリュウさんの攻撃のせいで、今夜にもロージャ様が攻め入ってくるかもしれないんだよ」
「まさか」
「まさかじゃない。嫌な予感がする」
クリスタの眼差しが真剣で、パールは怖くなった。
「みんなを不安にさせたのに、スイリュウさんは謝りもしねえ。パール、悪く言われてもしょうがねえよ、スイリュウさんは」
「奴は謝れないんだよ」
「そんなこと分かってんの、オレやパール、ヒノリュウさんとジュオー様だけだぜ。言葉で言わなきゃ伝わんねえよ」
「そだね……」
パールはお椀を横に置いて、蓮池の横で風にそよいでいる柳に目をやった。
「柳も鯉も、言葉なんて無くても分かるのに」
白馬を大切にしていたスイリュウの気持ちが分かるような気がする。
「言葉がありゃあ、もっと分かるよ」
明るいクリスタの声に、心が軽くなる。
「言ってもらって、嬉しい言葉ってのもあるしな」
きょとん、と見返すパールの腕にすがりついて、
「パールのこと、だぁいすき、とか」
パールはふと笑んでから、またくらい気持ちになる。
「でもクリスタが好きな私は、本当の私なのかな。私、強がって本当のこと言えなかったり、いっぱいしたんだよ」
恥ずかしくて語尾が消えかける。
「なんでぇ、そんくれぇのこたぁ分かってらあ。オレぁ、パールならぜ~んぶ好きだって言ってるんでぃ」
「もっと、単純なんだな」
「そ。茶漬け好きなくらい単純」
私が思っているより、人は私を見ていてくれてる。
そんな信頼がパールを安堵させた。
コハクさんは、皆に選ばれて族長になったと言っていた。若い頃から利発で頼り甲斐があり、本人も族長を目指していたそうだ。パールはメノウさんの時と同じように、「族長心得」を聞き出してきた。
「私は粋がった若造だったからね、皆から族長に選ばれたことだし、自分には素質と実力があると思っていたんだ。でも族長をやるのにそんな自信はあまり必要じゃあなかった。族長は普通の奴でいい、弱くて結構、それでなけりゃあ、皆の気持ちが分からなくなっちまうからな」
何も特別な人であろうとする必要はない、そのことに気がついて、パールは肩の荷が軽くなったようでもあり、またむなしくもあった。
私は今まで、何を意気込んでいたんだろう。そしてスイリュウは、何を背負い込んでいるんだろう。
ヒノリュウは気楽な人だった。陽のあるうちはロージャ様が出てこないと聞いて、外聞も気にせず女の子たちに囲まれ悦に入っている。
やっぱり否はスイリュウにあるんだ。
パールは皆の渋い顔を思い出す。自尊心を曲げて頭を下げろとは言わない、だがもう少し、やわらかくなってくれてもいいじゃないかと思う。力を求め、一人で生きてゆけるとかたくなになっている。本当の強さは、剣の修行だけでは手に入らない。
だが「強くなりたい」、そう望むことすら愚かなこととも思える。なにゆえ弱さを憎み愚弄するのか。だがそれは仕方がない。時には弱さが大切であると理解しても、スイリュウや自分のような人間が、強いことをかっこいいと感じるのは、主観的な価値観の問題なのだから。
考えていることをスイリュウに伝えようと、パールは家路をいそいだ。
強気になって意地を張っていたのは、旅に出る前の自分も同じだった。スイリュウはそれに気付かせてくれた。だから似たもの同士、腹をわって語り明かしたい。
ご飯の上に、朝の残りという塩鮭のかけらを乗せ、海苔をちぎり、お茶をかけて食べる。クリスタと縁側に並んで中庭をながめ、お椀をかっこむお茶漬けの話題も、スイリュウのことだった。
「クリスタまでスイリュウのこと悪く言うの?」
パールはうんざりした。
「だって昨日のスイリュウさんの攻撃のせいで、今夜にもロージャ様が攻め入ってくるかもしれないんだよ」
「まさか」
「まさかじゃない。嫌な予感がする」
クリスタの眼差しが真剣で、パールは怖くなった。
「みんなを不安にさせたのに、スイリュウさんは謝りもしねえ。パール、悪く言われてもしょうがねえよ、スイリュウさんは」
「奴は謝れないんだよ」
「そんなこと分かってんの、オレやパール、ヒノリュウさんとジュオー様だけだぜ。言葉で言わなきゃ伝わんねえよ」
「そだね……」
パールはお椀を横に置いて、蓮池の横で風にそよいでいる柳に目をやった。
「柳も鯉も、言葉なんて無くても分かるのに」
白馬を大切にしていたスイリュウの気持ちが分かるような気がする。
「言葉がありゃあ、もっと分かるよ」
明るいクリスタの声に、心が軽くなる。
「言ってもらって、嬉しい言葉ってのもあるしな」
きょとん、と見返すパールの腕にすがりついて、
「パールのこと、だぁいすき、とか」
パールはふと笑んでから、またくらい気持ちになる。
「でもクリスタが好きな私は、本当の私なのかな。私、強がって本当のこと言えなかったり、いっぱいしたんだよ」
恥ずかしくて語尾が消えかける。
「なんでぇ、そんくれぇのこたぁ分かってらあ。オレぁ、パールならぜ~んぶ好きだって言ってるんでぃ」
「もっと、単純なんだな」
「そ。茶漬け好きなくらい単純」
私が思っているより、人は私を見ていてくれてる。
そんな信頼がパールを安堵させた。
コハクさんは、皆に選ばれて族長になったと言っていた。若い頃から利発で頼り甲斐があり、本人も族長を目指していたそうだ。パールはメノウさんの時と同じように、「族長心得」を聞き出してきた。
「私は粋がった若造だったからね、皆から族長に選ばれたことだし、自分には素質と実力があると思っていたんだ。でも族長をやるのにそんな自信はあまり必要じゃあなかった。族長は普通の奴でいい、弱くて結構、それでなけりゃあ、皆の気持ちが分からなくなっちまうからな」
何も特別な人であろうとする必要はない、そのことに気がついて、パールは肩の荷が軽くなったようでもあり、またむなしくもあった。
私は今まで、何を意気込んでいたんだろう。そしてスイリュウは、何を背負い込んでいるんだろう。
ヒノリュウは気楽な人だった。陽のあるうちはロージャ様が出てこないと聞いて、外聞も気にせず女の子たちに囲まれ悦に入っている。
やっぱり否はスイリュウにあるんだ。
パールは皆の渋い顔を思い出す。自尊心を曲げて頭を下げろとは言わない、だがもう少し、やわらかくなってくれてもいいじゃないかと思う。力を求め、一人で生きてゆけるとかたくなになっている。本当の強さは、剣の修行だけでは手に入らない。
だが「強くなりたい」、そう望むことすら愚かなこととも思える。なにゆえ弱さを憎み愚弄するのか。だがそれは仕方がない。時には弱さが大切であると理解しても、スイリュウや自分のような人間が、強いことをかっこいいと感じるのは、主観的な価値観の問題なのだから。
考えていることをスイリュウに伝えようと、パールは家路をいそいだ。
強気になって意地を張っていたのは、旅に出る前の自分も同じだった。スイリュウはそれに気付かせてくれた。だから似たもの同士、腹をわって語り明かしたい。
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