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六、銀の騎士
19、ふたり並んで歩こう
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少しでも早く妖怪の国へ行きつくために馬上でとるつもりで用意した昼食を、馬を失ったふたりは休演中の野外劇場の最後列で食べることにした。
窪地の斜面に並ぶ石段ははるか下まで続き、それの尽きるところが半円形の舞台となっている。舞台のうしろには、石造りの建物が重厚な構えを見せ、窪地をふさいでいる。その等間隔に建てられた白い石柱は、大理石の観客席によく映り、最上階からのながめは壮観だった。
「ごめんね」
ぽつんとつぶやいたパールの横顔に、並んで座るスイリュウは少し驚いたように目をやった。
「馬、逃がしちゃって」
だがその言葉に、彼はまたむっとする。革袋から取り出したチーズを割ってパールに手渡す。それにかじりついたパールは、
「なにこれ」
と、手に持った残りをまじまじと見た。
「山羊のチーズだそうだ。嫌なら俺が食う」
「やだよ。私食べるってば」
それから子供が売り歩いていたパンを取り出し、うち一つをパールに渡す。
食べ終わるころ、先程から始終黙ったままのスイリュウにたまりかねて、パールは口を開いた。
「ねえ、まだ怒ってる?」
「いや。あんたには腹など立ててないさ」
その声がやはり、昨夜より愛想がない。
「私にはってことはなに、馬に怒ってるの? ダイジャに怒ってるの? あ、さっきなんか言われてたけどもしかしてそれ?」
「いや。ただ自分の愚かさが嫌になってるだけだよ」
「なにそれ」
スイリュウは何も答えずに立ち上がると、革袋を背負った。
「行くか」
パールもしぶしぶ後に続く。スイリュウの背中をながめながら、本当に話したくないのか、本当は話したいのかを見極めようとする。
だが、一人で考えたい問題に首を突っ込まれれば、うっとうしいばかり、無視された方がいいだろう。誰かに話したい問題にせよ、言うべきときくらい自分で判断する、やはり何も言わずにおくべきだろう、そう考えて、結局パールは何も言わなかった。それがパールにはやさしさのつもりだった。
町はずれに近付くにつれ、重厚な石造りの建物は今にも崩れ落ちそうな傾いた家屋へ、石畳の道は砂ぼこりの舞い上がるせまい路地へと取って代わられてゆく。
「あんたは国の者たちのために、こんな危険を冒しているのか?」
野外劇場を後にしてからずっと黙り込んでいたスイリュウが唐突に口を開いた。
「うん。――て言いたいとこなんだけど、実はそんな真摯な理由じゃないんだな。私、族長になりたいの」
「族長?」
「うん。ねこまんま族の族長。妖怪の国自体を統べるのはジュオー様だけど、一族ごとにそれぞれまとめる人がいるの。それが族長。前の族長が次の族長を指名したり、みんなで選んだり、いざこざが起きたときはジュオー様が調停に入って次の族長を指名されたりもする。それはその一族ごとによっても違うし、現在の族長さんによっても色々違う。今ねこまんま族の族長をやってんのは、メノウさんっていう私の友達の父ちゃんなんだけど、彼はねこまんま族のみんなやほかの部族の人たち、それからジュオー様も含めたいろんな人たちの意見をいれて、次期族長候補を任命するつもりでいるの。だから族長になりたい者は妖怪の国中の人たちに認められるようなすごいことをしなくちゃいけないと思ったんだ、私は。だから、ヒノリュウ様を呼んでくるってゆー大役に立候補したの」
ふふ、とスイリュウが笑った。
「なぁに?」
と、不審な目を向けるパールの前で体をのけぞらし、はははと大声をあげる。
うらさびしい路地裏に響くその声は、不気味であり同時にむなしくもあった。
「安心したよ。結局みな、己の野望を叶えたいだけなのさ」
「そんなふうに言わないでよ」
パールはむっとした。
「金の騎士ってたたえられるお兄さんに嫉妬して、つぶそうなんてたくらんでるあんたと違って、私には族長になるっていうおっきな夢があるんだからね。族長になって、ねこまんま族の人たちがもっと幸せになれるようにするんだよ!」
パールは胸にぽっかりと黒い穴が開いたような気がした。
いいんだよ、私はみんなのために族長になるんでしょ!
言い聞かせてみてはじめて、自分がなぜ族長になりたいのか、族長になって何をするのか、ほとんど考えていないことに気がついた。
人の国へ行くのが、皆のためではなく族長になるためだということに、罪悪感を感じていた。だが族長になるのは何の為なのか。
「みんなのため」でないことだけは確かだった。
パールは族長になりたいと思い始めた幼い頃を思い出す。都で大火事が起きたとき、人々をまとめて避難させる族長さんたちがかっこよかった、自分で何もかも決めるのが好きだった、人に指図するのが好きだった、自分は皆より頭がいいと思っていた…… それらのどこに、族長になる理由が潜んでいるというのだろう。
メノウさんやコハクさんはどうして族長になったのかな。私みたいに自分から望んだのかな。訊いてみなきゃ。
「そう思いたければそう思っていればいい」
スイリュウの冷たい声に、パールは我に返る。自分の内面を見透かされたようで憎らしい横顔を見上げながら、
私の迷いを悟られるわけにはいかねぇ。こいつぁあなんとかぎゃふんと言わせてやんなきゃあ。
と、闘志を燃やす。
「あのねえ、あんたのような剣一本の野蛮な人間には、私のような人道的立場はどうせ理解出来ないんだよ」
「そうかもな。『お兄さんに嫉妬してつぶそうなんてたくらんでる』俺にはな」
相手が怒りもしなければ悔しがりもしないので、パールはなおさら面白くない。
「ふん。何いきがってんだよ」
別方向から攻撃すると、
「いきがってやいないさ。ただ思いたいように思ってくれ、と言っているだけだ」
あれ……?
パールはちょっと首をかしげた。
思いたいように思えとは、族長になりたい理由についてではなく、スイリュウ自身のことだったらしい。
せまい道の両側には、内側に倒れ込むように小さな家々が建ち並んでいる。もとは白かったであろう石壁も灰色に変わり、上から青や黄の塗料を塗った家も多い。だがそれは斜めになった木の扉をいっそう古びて見せ、色がはがれ落ちた壁は灰色よりなお哀愁をかきたてる。
猫が一匹、路地を横切っていった。
「そんなふうに他人を突き放さないでよ」
スイリュウは何も言わない。
パールには、昨夜の彼が別人のように思われた。
「そんな悪い奴じゃないと思ったのにな」
前を歩くスイリュウには聞こえぬよう小声でつぶやく。
「それをあんたに言われる筋合いはない」
げっ! 聞こえてた。
「なんだよ。名誉だけのために私を救ったくせに」
スイリュウが足を止め振り向いた。パールはまたたたかれてはたまらぬと、思わず身構える。
「なんだ、俺が怖いのか」
自分を見下ろす瞳を、パールはやはり冷たいと思った。
「怖かないけど、たたかれるのは嫌だ」
パールも精一杯、怖い目をしているつもりだ。
じっと見下ろす視線を、ふいにスイリュウははずした。
「ぶったことは悪かった」
「え……」
パールは戸惑う。
「何あんた、謝ってんの」
口をとがらしてから、これでは私の方が悪役だ、と思いなおす。
「私も―― あんたが昨夜はせっかく……ええっと―― まあ今日は逃げたりして。ああ―― 別にだまそうとしたわけじゃあ……」
「もういい」
スイリュウはふいと前に向き直った。足早に歩き出したそのあとを追い、風のからむマントをつかむ。右を見上げ、何か言おうとするが、言葉がうまくでてこない。左手でうるさそうに顔を覆ったスイリュウをのぞきこむと、彼はなかばまぶたを落として、うつむいているようにも見えた。
パールは胸に痛みを感じる。
人の心にも気付けないようで、私本当に族長になれるんだろうか……
「ごめんね」
ぽつりとつぶやくと、スイリュウはまた、少し驚いたような顔で振り返った。
「あんたのこと信じられなくて。裏切るようなまねして」
スイリュウは静かに首を振る。青い髪が、肩の上で揺れた。そして、昨日の言葉をもう一度繰り返した。
「妖怪の国まで俺を案内してくれるか?」
「うん!」
パールは大きくうなずく。スイリュウはうつむくような仕草でそっとうなずいた。ゆっくりと腰の剣を抜くと、刃の曇りは水墨画に描かれた雲のように、たちまち霧散していった。神籍にあるものを斬ったゆえだろう。
目を丸くしているパールの前で、彼は頭の後ろで無造作に髪をつかみあげ、刃をうなじにあてると顔を上向け右手をはねあげた。左手に残った青い絹糸の束を、パールに向かってつきだす。
きょとんと見返すパールに、
「礼金の替わりだ。昨夜、綺麗だと言ってくれたろう?」
「うん……」
パールはくすぐったいような気持ちでそれを受け取る。
雲間から太陽が再び顔を出すと、光の帯は路地裏のすみずみまで差し込んできた。金色の光の中で、ほこりがちらちらと舞っている。
スイリュウと並んで歩いてゆくと、家の前の階段に腰掛けて、男の子が果物をかじっている。更にゆくと、荷馬車にさまざまな香辛料を積んだ若い母親とその娘に会った。
それは異国の情景ではあったが、なつかしい妖怪の国の路地裏を彷彿とさせた。店は通りに面しているが、家族が使う木戸は汚いけれどあたたかい、こんな路地に向かってひらく。表通りの斜向かいにある魚屋さんで買ってきたさんまをあの路地で、七輪を使って、うちわでぱたぱたあおぎながら焼けば、香ばしくてやたらと食欲をさそう煙が、秋の空へと上ってゆくのだ。
ああ…… さんま食いてぇ。
パールの胸に熱い望郷の念が湧き起こった。それは胸を刺すような痛みではなく、泣き出しそうなほどあたたかくて、同時に胸躍るような感覚だった。
窪地の斜面に並ぶ石段ははるか下まで続き、それの尽きるところが半円形の舞台となっている。舞台のうしろには、石造りの建物が重厚な構えを見せ、窪地をふさいでいる。その等間隔に建てられた白い石柱は、大理石の観客席によく映り、最上階からのながめは壮観だった。
「ごめんね」
ぽつんとつぶやいたパールの横顔に、並んで座るスイリュウは少し驚いたように目をやった。
「馬、逃がしちゃって」
だがその言葉に、彼はまたむっとする。革袋から取り出したチーズを割ってパールに手渡す。それにかじりついたパールは、
「なにこれ」
と、手に持った残りをまじまじと見た。
「山羊のチーズだそうだ。嫌なら俺が食う」
「やだよ。私食べるってば」
それから子供が売り歩いていたパンを取り出し、うち一つをパールに渡す。
食べ終わるころ、先程から始終黙ったままのスイリュウにたまりかねて、パールは口を開いた。
「ねえ、まだ怒ってる?」
「いや。あんたには腹など立ててないさ」
その声がやはり、昨夜より愛想がない。
「私にはってことはなに、馬に怒ってるの? ダイジャに怒ってるの? あ、さっきなんか言われてたけどもしかしてそれ?」
「いや。ただ自分の愚かさが嫌になってるだけだよ」
「なにそれ」
スイリュウは何も答えずに立ち上がると、革袋を背負った。
「行くか」
パールもしぶしぶ後に続く。スイリュウの背中をながめながら、本当に話したくないのか、本当は話したいのかを見極めようとする。
だが、一人で考えたい問題に首を突っ込まれれば、うっとうしいばかり、無視された方がいいだろう。誰かに話したい問題にせよ、言うべきときくらい自分で判断する、やはり何も言わずにおくべきだろう、そう考えて、結局パールは何も言わなかった。それがパールにはやさしさのつもりだった。
町はずれに近付くにつれ、重厚な石造りの建物は今にも崩れ落ちそうな傾いた家屋へ、石畳の道は砂ぼこりの舞い上がるせまい路地へと取って代わられてゆく。
「あんたは国の者たちのために、こんな危険を冒しているのか?」
野外劇場を後にしてからずっと黙り込んでいたスイリュウが唐突に口を開いた。
「うん。――て言いたいとこなんだけど、実はそんな真摯な理由じゃないんだな。私、族長になりたいの」
「族長?」
「うん。ねこまんま族の族長。妖怪の国自体を統べるのはジュオー様だけど、一族ごとにそれぞれまとめる人がいるの。それが族長。前の族長が次の族長を指名したり、みんなで選んだり、いざこざが起きたときはジュオー様が調停に入って次の族長を指名されたりもする。それはその一族ごとによっても違うし、現在の族長さんによっても色々違う。今ねこまんま族の族長をやってんのは、メノウさんっていう私の友達の父ちゃんなんだけど、彼はねこまんま族のみんなやほかの部族の人たち、それからジュオー様も含めたいろんな人たちの意見をいれて、次期族長候補を任命するつもりでいるの。だから族長になりたい者は妖怪の国中の人たちに認められるようなすごいことをしなくちゃいけないと思ったんだ、私は。だから、ヒノリュウ様を呼んでくるってゆー大役に立候補したの」
ふふ、とスイリュウが笑った。
「なぁに?」
と、不審な目を向けるパールの前で体をのけぞらし、はははと大声をあげる。
うらさびしい路地裏に響くその声は、不気味であり同時にむなしくもあった。
「安心したよ。結局みな、己の野望を叶えたいだけなのさ」
「そんなふうに言わないでよ」
パールはむっとした。
「金の騎士ってたたえられるお兄さんに嫉妬して、つぶそうなんてたくらんでるあんたと違って、私には族長になるっていうおっきな夢があるんだからね。族長になって、ねこまんま族の人たちがもっと幸せになれるようにするんだよ!」
パールは胸にぽっかりと黒い穴が開いたような気がした。
いいんだよ、私はみんなのために族長になるんでしょ!
言い聞かせてみてはじめて、自分がなぜ族長になりたいのか、族長になって何をするのか、ほとんど考えていないことに気がついた。
人の国へ行くのが、皆のためではなく族長になるためだということに、罪悪感を感じていた。だが族長になるのは何の為なのか。
「みんなのため」でないことだけは確かだった。
パールは族長になりたいと思い始めた幼い頃を思い出す。都で大火事が起きたとき、人々をまとめて避難させる族長さんたちがかっこよかった、自分で何もかも決めるのが好きだった、人に指図するのが好きだった、自分は皆より頭がいいと思っていた…… それらのどこに、族長になる理由が潜んでいるというのだろう。
メノウさんやコハクさんはどうして族長になったのかな。私みたいに自分から望んだのかな。訊いてみなきゃ。
「そう思いたければそう思っていればいい」
スイリュウの冷たい声に、パールは我に返る。自分の内面を見透かされたようで憎らしい横顔を見上げながら、
私の迷いを悟られるわけにはいかねぇ。こいつぁあなんとかぎゃふんと言わせてやんなきゃあ。
と、闘志を燃やす。
「あのねえ、あんたのような剣一本の野蛮な人間には、私のような人道的立場はどうせ理解出来ないんだよ」
「そうかもな。『お兄さんに嫉妬してつぶそうなんてたくらんでる』俺にはな」
相手が怒りもしなければ悔しがりもしないので、パールはなおさら面白くない。
「ふん。何いきがってんだよ」
別方向から攻撃すると、
「いきがってやいないさ。ただ思いたいように思ってくれ、と言っているだけだ」
あれ……?
パールはちょっと首をかしげた。
思いたいように思えとは、族長になりたい理由についてではなく、スイリュウ自身のことだったらしい。
せまい道の両側には、内側に倒れ込むように小さな家々が建ち並んでいる。もとは白かったであろう石壁も灰色に変わり、上から青や黄の塗料を塗った家も多い。だがそれは斜めになった木の扉をいっそう古びて見せ、色がはがれ落ちた壁は灰色よりなお哀愁をかきたてる。
猫が一匹、路地を横切っていった。
「そんなふうに他人を突き放さないでよ」
スイリュウは何も言わない。
パールには、昨夜の彼が別人のように思われた。
「そんな悪い奴じゃないと思ったのにな」
前を歩くスイリュウには聞こえぬよう小声でつぶやく。
「それをあんたに言われる筋合いはない」
げっ! 聞こえてた。
「なんだよ。名誉だけのために私を救ったくせに」
スイリュウが足を止め振り向いた。パールはまたたたかれてはたまらぬと、思わず身構える。
「なんだ、俺が怖いのか」
自分を見下ろす瞳を、パールはやはり冷たいと思った。
「怖かないけど、たたかれるのは嫌だ」
パールも精一杯、怖い目をしているつもりだ。
じっと見下ろす視線を、ふいにスイリュウははずした。
「ぶったことは悪かった」
「え……」
パールは戸惑う。
「何あんた、謝ってんの」
口をとがらしてから、これでは私の方が悪役だ、と思いなおす。
「私も―― あんたが昨夜はせっかく……ええっと―― まあ今日は逃げたりして。ああ―― 別にだまそうとしたわけじゃあ……」
「もういい」
スイリュウはふいと前に向き直った。足早に歩き出したそのあとを追い、風のからむマントをつかむ。右を見上げ、何か言おうとするが、言葉がうまくでてこない。左手でうるさそうに顔を覆ったスイリュウをのぞきこむと、彼はなかばまぶたを落として、うつむいているようにも見えた。
パールは胸に痛みを感じる。
人の心にも気付けないようで、私本当に族長になれるんだろうか……
「ごめんね」
ぽつりとつぶやくと、スイリュウはまた、少し驚いたような顔で振り返った。
「あんたのこと信じられなくて。裏切るようなまねして」
スイリュウは静かに首を振る。青い髪が、肩の上で揺れた。そして、昨日の言葉をもう一度繰り返した。
「妖怪の国まで俺を案内してくれるか?」
「うん!」
パールは大きくうなずく。スイリュウはうつむくような仕草でそっとうなずいた。ゆっくりと腰の剣を抜くと、刃の曇りは水墨画に描かれた雲のように、たちまち霧散していった。神籍にあるものを斬ったゆえだろう。
目を丸くしているパールの前で、彼は頭の後ろで無造作に髪をつかみあげ、刃をうなじにあてると顔を上向け右手をはねあげた。左手に残った青い絹糸の束を、パールに向かってつきだす。
きょとんと見返すパールに、
「礼金の替わりだ。昨夜、綺麗だと言ってくれたろう?」
「うん……」
パールはくすぐったいような気持ちでそれを受け取る。
雲間から太陽が再び顔を出すと、光の帯は路地裏のすみずみまで差し込んできた。金色の光の中で、ほこりがちらちらと舞っている。
スイリュウと並んで歩いてゆくと、家の前の階段に腰掛けて、男の子が果物をかじっている。更にゆくと、荷馬車にさまざまな香辛料を積んだ若い母親とその娘に会った。
それは異国の情景ではあったが、なつかしい妖怪の国の路地裏を彷彿とさせた。店は通りに面しているが、家族が使う木戸は汚いけれどあたたかい、こんな路地に向かってひらく。表通りの斜向かいにある魚屋さんで買ってきたさんまをあの路地で、七輪を使って、うちわでぱたぱたあおぎながら焼けば、香ばしくてやたらと食欲をさそう煙が、秋の空へと上ってゆくのだ。
ああ…… さんま食いてぇ。
パールの胸に熱い望郷の念が湧き起こった。それは胸を刺すような痛みではなく、泣き出しそうなほどあたたかくて、同時に胸躍るような感覚だった。
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