14 / 14
エピローグ、賢王と智妃の治世
しおりを挟む
――数年後――
五回目の人生にしてようやく王太子殿下との結婚を果たした私は、王太子妃として王宮内で暮らしていた。
「王太子妃って思ったより忙しいのね……」
久し振りに公務のないある日の午後、私はため息をついてソファに身を沈めた。
マリーがピーチティーとお菓子を持ってきて、低いテーブルに並べてくれる。
「夕方までゆっくりお過ごしください。今夜もまた晩餐会でしたでしょう?」
「ええ、テレマン卿とだったわね。王太子夫妻として私も出席しなければならないの」
繊細な金彩《きんだみ》のティーカップの中で揺れるピーチティーをみつめながら、
「一緒に過ごす時間はあっても、ちっとも二人きりで話せないわ」
口をとがらせる私に、マリーがめずらしくクスっと笑った。「王太子殿下も同じことをおっしゃっていそうですわね」
そうだといいわ、と答えようとしたが、何だか恥ずかしくて私は無言になる。
「それにしてもエリック殿下は、よほどおやさしい乳母にでも育てられたのでしょうか?」
「え?」
思いがけない問いにティーカップから顔をあげる私。
「国王陛下ご夫妻は親としてではなく為政者として長男であるエリック殿下に厳しく接していらっしゃるのに、殿下はいつも満たされたほほ笑みを浮かべていらっしゃる。あの方はどう見ても、愛されて育った幸せそうな好青年ですから」
「ああ、そういうことね」
「なにか秘密を知っていらっしゃるというお顔ですね」
マリーが私をいたずらっぽいまなざしでみつめる。さすがなかなか鋭い彼女に、私は淑女の微笑を向けた。
「この秘密は冥界の入り口まで持って行くつもりですわ」
* * *
のちに後世の歴史家は、エリック・ルノー・ド・グランアーレント王とリーザエッテ・フォン・ヴァンガルド王妃の治世を、王国史のなかで稀に見る平和と発展の時代と位置付けている。学問と芸術を好み善政を敷いた国王は賢王エリックと言われ、それを支えた聡明な王妃は智妃《ちひ》リーザエッテと呼ばれた。二人の間にはぐくまれた愛と信頼の絆が、王国に安定と豊かさをもたらしたのだろう。
――これは孤独な少年の心を支えた元悪役令嬢の物語――
----------------------------
最後までお読みいただきありがとうございます。
ブックマークやエールで応援していただけると、大変励みになります。
恋愛小説大賞に参加中です。ぜひのぞいてみてください!
『君を愛することはないと言われた侯爵令嬢が猫ちゃんを拾ったら~義母と義妹の策略でいわれなき冤罪に苦しむ私が幸せな王太子妃になるまで~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/802191018/891717449
完結済み。猫ちゃんが好きな方にもおすすめです!
五回目の人生にしてようやく王太子殿下との結婚を果たした私は、王太子妃として王宮内で暮らしていた。
「王太子妃って思ったより忙しいのね……」
久し振りに公務のないある日の午後、私はため息をついてソファに身を沈めた。
マリーがピーチティーとお菓子を持ってきて、低いテーブルに並べてくれる。
「夕方までゆっくりお過ごしください。今夜もまた晩餐会でしたでしょう?」
「ええ、テレマン卿とだったわね。王太子夫妻として私も出席しなければならないの」
繊細な金彩《きんだみ》のティーカップの中で揺れるピーチティーをみつめながら、
「一緒に過ごす時間はあっても、ちっとも二人きりで話せないわ」
口をとがらせる私に、マリーがめずらしくクスっと笑った。「王太子殿下も同じことをおっしゃっていそうですわね」
そうだといいわ、と答えようとしたが、何だか恥ずかしくて私は無言になる。
「それにしてもエリック殿下は、よほどおやさしい乳母にでも育てられたのでしょうか?」
「え?」
思いがけない問いにティーカップから顔をあげる私。
「国王陛下ご夫妻は親としてではなく為政者として長男であるエリック殿下に厳しく接していらっしゃるのに、殿下はいつも満たされたほほ笑みを浮かべていらっしゃる。あの方はどう見ても、愛されて育った幸せそうな好青年ですから」
「ああ、そういうことね」
「なにか秘密を知っていらっしゃるというお顔ですね」
マリーが私をいたずらっぽいまなざしでみつめる。さすがなかなか鋭い彼女に、私は淑女の微笑を向けた。
「この秘密は冥界の入り口まで持って行くつもりですわ」
* * *
のちに後世の歴史家は、エリック・ルノー・ド・グランアーレント王とリーザエッテ・フォン・ヴァンガルド王妃の治世を、王国史のなかで稀に見る平和と発展の時代と位置付けている。学問と芸術を好み善政を敷いた国王は賢王エリックと言われ、それを支えた聡明な王妃は智妃《ちひ》リーザエッテと呼ばれた。二人の間にはぐくまれた愛と信頼の絆が、王国に安定と豊かさをもたらしたのだろう。
――これは孤独な少年の心を支えた元悪役令嬢の物語――
----------------------------
最後までお読みいただきありがとうございます。
ブックマークやエールで応援していただけると、大変励みになります。
恋愛小説大賞に参加中です。ぜひのぞいてみてください!
『君を愛することはないと言われた侯爵令嬢が猫ちゃんを拾ったら~義母と義妹の策略でいわれなき冤罪に苦しむ私が幸せな王太子妃になるまで~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/802191018/891717449
完結済み。猫ちゃんが好きな方にもおすすめです!
12
お気に入りに追加
153
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(8件)
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢ってこれでよかったかしら?
砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。
場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。
全11部 完結しました。
サクッと読める悪役令嬢(役)。
平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子
深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……?
タイトルそのままのお話。
(4/1おまけSS追加しました)
※小説家になろうにも掲載してます。
※表紙素材お借りしてます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
わたくしが悪役令嬢だった理由
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、マリアンナ=ラ・トゥール公爵令嬢。悪役令嬢に転生しました。
どうやら前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したようだけど、知識を使っても死亡フラグは折れたり、折れなかったり……。
だから令嬢として真面目に真摯に生きていきますわ。
シリアスです。コメディーではありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結済み】王子への断罪 〜ヒロインよりも酷いんだけど!〜
BBやっこ
恋愛
悪役令嬢もので王子の立ち位置ってワンパターンだよなあ。ひねりを加えられないかな?とショートショートで書こうとしたら、短編に。他の人物目線でも投稿できたらいいかな。ハッピーエンド希望。
断罪の舞台に立った令嬢、王子とともにいる女。そんなよくありそうで、変な方向に行く話。
※ 【完結済み】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢は断罪イベントをエンジョイしたい
真咲
恋愛
悪役令嬢、クラリスは断罪イベント中に前世の記憶を得る。
そして、クラリスのとった行動は……。
断罪イベントをエンジョイしたい悪役令嬢に振り回されるヒロインとヒーロー。
……なんかすみません。
カオスなコメディを書きたくなって……。
さくっと読める(ハズ!)短い話なので、あー暇だし読んでやろっかなーっていう優しい方用ですです(* >ω<)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約破棄をして処刑エンドを回避したい悪役令嬢と婚約破棄を阻止したい王子の葛藤
彩伊
恋愛
乙女ゲームの世界へ転生したら、悪役令嬢になってしまいました。
処刑エンドを回避するべく、王子との婚約の全力破棄を狙っていきます!!!
”ちょっぴりおバカな悪役令嬢”と”素直になれない腹黒王子”の物語
※再掲 全10話
白丸は悪役令嬢視点
黒丸は王子視点です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
転生した悪役令嬢はシナリオ通りに王子に婚約破棄されることを望む
双葉葵
恋愛
悪役令嬢メリッサ・ローランドは、卒業式のパーティで断罪され追放されることを望んでいる。
幼い頃から見てきた王子が此方を見てくれないということは“運命”であり決して変えられない“シナリオ”通りである。
定刻を過ぎても予定通り迎えに来ない王子に一人でパーティに参加して、訪れる断罪の時を待っていたけれど。険しい顔をして現れた婚約者の様子が何やら変で困惑する。【こんなの“シナリオ”になかったわ】
【隣にいるはずの“ローズ”(ヒロイン)はどこなの?】
*以前、『小説家になろう』であげていたものの再掲になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
転生侍女は完全無欠のばあやを目指す
ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる!
*三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。
(本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
綾森れんさま
はじめまして。マリモに転生するのもよさそうだな、と思い、思わず手に取りました(笑)。マリモが必ずしも丸くなるとは限らないとか思いながら。
物語は、ふたりがとっても可愛らしく、リーザエッテさん(過去にそんなひどいことをした人とは思えない。環境ですね)、エリックさんとの関係にくすっと笑ったり、ほっこりしながら楽しませていただきました。
ありがとうございました。(一度感想を書いたのですが、ネットが切れたみたいで送信できたか不明で、被っていたら破棄してくださいませ)
しっかり躾た?甲斐あって良き王様に。
リィの影の頑張り実って良かった良かったですね~
しかし人生5回め頑張りました!主人公。
ホント、マリモ選ばなくて良かったね(๑•̀ㅂ•́)و✧
完結お疲れ様でした💐💐💐
マリモの言葉に惹かれて読み開きましたが人生5回め主人公も王太子もなんか全然悪役じゃなくてほのぼの読めました(笑)
また次回作でお目にかかれますように。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!!
育成ゲームとしては大成功でした笑
悪役令嬢とバカ王子のはずが、確かに二人とも悪役とは思えずほのぼのですね・・・
マリモを選ばなくて良かったと言ってもらえる人生で、リイも喜んでいるはず!
最後まで追いかけていただき、感謝です!!
ん?付き纏い、ベッタリ体質は過去世からなのか~(笑)
狙った娘には粘着したい、ボクちゃん(๑•̀ㅂ•́)و✧
感想ありがとうございます!
エリックくんは寂しがりやさんなのですo((>ω< ))o
でも今世はリイがいるから大丈夫だねっ!