マリモに転生したくない悪役令嬢~婚約破棄のうえ断罪されるが死に戻り、ポンコツ王子に復讐するはずが溺愛されて幸せな結婚へ至る~

綾森れん

文字の大きさ
上 下
13 / 14

第13話、リーザエッテ嬢、王太子妃となる

しおりを挟む
 そして学園卒業後、私とエリックは王宮の敷地内にある礼拝堂で結婚式を行うこととなった。

 明日から王宮で暮らすのに、私はまだ城内の敷地に足を踏み入れると緊張する。純白のドレスに身を包んだ私は、礼拝堂のとなりにある小部屋で儀式開始まで待機していた。

 グランアーレント国王太子の結婚には隣国の要人たちも招かれているので、私の両親は社交に大忙し――といってもそれこそが公爵夫妻の仕事だと私も理解しているけれど。

 仕事熱心なマリーは儀式の手順を書いた紙をまた確認している。私は気持ちを落ち着けようと、窓の外をながめていた。テラスの向こうには、定規を当てて描いた図形のごとく完璧に手入れされた庭が広がっている。

「なにかしら? あれ――」

 植え込みの向こうでハニーブラウンの何かがきらりと光ったのだ。マリーが振り返ったとき、

「リイ、着替え終わったかい?」

「エリック殿下―― そこにいらっしゃるのですか!?」

 私は驚いて椅子から立ち上がると、ガラス戸をあけた。テラスから庭をのぞくと、低木のうしろからエリックが姿をあらわす。ハニーブラウンに輝く髪の上で陽光が踊り、すらりと伸びた体躯は均整がとれ古代の彫刻のように美しい。誰が言い出したか「知力が宿る金の瞳」と噂されるそのまなざしは、やさしげに私をみつめている。

 儀礼用の正装に身を包んだその姿がかっこよくて、胸がきゅんと苦しくなる。いつの間にかこんな立派になって――と思っていたら、彼が口をひらいた。

「リイ…… なんて美しいんだ――」

 そんなきれいな瞳でまっすぐみつめられたら、ドキドキして目をあわせられないわ……!

「い、いけませんわ。ちゃんと控室でお待ちにならなければ――」

 ツンと目をそらす私に、

「ここも控室じゃないか。きみと離れていたくないよ」

 彼はひらりと植え込みを飛び越えると、テラスを囲う木枠にやすやすと足をかけ、ひょいとこちら側へ下りてきた。身体は一人前の青年に成長しても、その振る舞いにはまだ少年らしさが垣間見える。

「もう僕は待ち続けるだけなんて嫌なんだ」

 テラスから部屋に入ってきた彼に、私はテーブルセットの向かいに置いた椅子を勧めた。だが彼は座らず私の横に立ったまま、

「学園で現実のリイに会うまで、僕はいつ来てくれるか分からないきみをいつも待っていたんだよ。一人になるたび、今か今かと期待がふくらむんだ」

 と寂しそうな目をした。

「ようやくきみに会えても、次いつ来るか一度も言ってくれたことがない。もう今日が最後かもって何度も思った」

 私は、ちょっとかわいそうなことをしたなと後悔する。

 エリックは私をうしろからぎゅっと抱きしめた。

「子供の頃、リイはよく僕を寝かしつけてくれたけど、寝てしまうのが嫌だった。だって目が覚めたらきみがいないって分かっているから」

 私を離さない彼の手をやさしくなでながら、

「これからは毎朝、目覚めたら私がとなりにいますわ、殿下」

「うん、ずっとずっとそばにいて。僕の愛するリイ」

 彼が私の耳元に頬を寄せる。そんなに近づかれたら心臓の鼓動が聞こえてしまいそう!

 そのとき外からバタバタとあわただしい足音と共に、

「式が始まるというのに、殿下の姿がどこにも見当たらないぞ!」

 という慌てた声が聞こえてきた。

「ほら殿下、戻らないと」

 と私が彼の手をやさしくたたいたとき、

「こちらにいらっしゃいますわ」

 マリーが予告もなしに扉を開けた。外にいた侍従は反射的に中をのぞいてしまう。その刹那――

「ああっ、申し訳ありませんっ!」

 エリックにうしろから抱きしめられたままの私と目があって、彼はがばっと頭を下げた。

 いや、こちらこそすみません…… 私は真っ赤になりながらマリーをにらみつけた。



 そして私たちは神様の像が見下ろす礼拝堂で、誓いのキスを交わした。

 エリックはどこか安堵したような、満ち足りた笑顔を私に向けていた。



----------------------------



次回で最終話です。

恋愛小説大賞に参加中です。ぜひのぞいてみてください!

『君を愛することはないと言われた侯爵令嬢が猫ちゃんを拾ったら~義母と義妹の策略でいわれなき冤罪に苦しむ私が幸せな王太子妃になるまで~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/802191018/891717449

完結済み。猫ちゃんが好きな方にもおすすめです!
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子

深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……? タイトルそのままのお話。 (4/1おまけSS追加しました) ※小説家になろうにも掲載してます。 ※表紙素材お借りしてます。

わたくしが悪役令嬢だった理由

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、マリアンナ=ラ・トゥール公爵令嬢。悪役令嬢に転生しました。 どうやら前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したようだけど、知識を使っても死亡フラグは折れたり、折れなかったり……。 だから令嬢として真面目に真摯に生きていきますわ。 シリアスです。コメディーではありません。

【完結済み】王子への断罪 〜ヒロインよりも酷いんだけど!〜

BBやっこ
恋愛
悪役令嬢もので王子の立ち位置ってワンパターンだよなあ。ひねりを加えられないかな?とショートショートで書こうとしたら、短編に。他の人物目線でも投稿できたらいいかな。ハッピーエンド希望。 断罪の舞台に立った令嬢、王子とともにいる女。そんなよくありそうで、変な方向に行く話。 ※ 【完結済み】

悪役令嬢は断罪イベントをエンジョイしたい

真咲
恋愛
悪役令嬢、クラリスは断罪イベント中に前世の記憶を得る。 そして、クラリスのとった行動は……。 断罪イベントをエンジョイしたい悪役令嬢に振り回されるヒロインとヒーロー。 ……なんかすみません。 カオスなコメディを書きたくなって……。 さくっと読める(ハズ!)短い話なので、あー暇だし読んでやろっかなーっていう優しい方用ですです(* >ω<)

【完結】婚約破棄をして処刑エンドを回避したい悪役令嬢と婚約破棄を阻止したい王子の葛藤

彩伊 
恋愛
乙女ゲームの世界へ転生したら、悪役令嬢になってしまいました。 処刑エンドを回避するべく、王子との婚約の全力破棄を狙っていきます!!! ”ちょっぴりおバカな悪役令嬢”と”素直になれない腹黒王子”の物語 ※再掲 全10話 白丸は悪役令嬢視点 黒丸は王子視点です。

転生した悪役令嬢はシナリオ通りに王子に婚約破棄されることを望む

双葉葵
恋愛
悪役令嬢メリッサ・ローランドは、卒業式のパーティで断罪され追放されることを望んでいる。 幼い頃から見てきた王子が此方を見てくれないということは“運命”であり決して変えられない“シナリオ”通りである。 定刻を過ぎても予定通り迎えに来ない王子に一人でパーティに参加して、訪れる断罪の時を待っていたけれど。険しい顔をして現れた婚約者の様子が何やら変で困惑する。【こんなの“シナリオ”になかったわ】 【隣にいるはずの“ローズ”(ヒロイン)はどこなの?】 *以前、『小説家になろう』であげていたものの再掲になります。

転生侍女は完全無欠のばあやを目指す

ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる! *三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。 (本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)

処理中です...