4 / 7
4,婚約破棄された侯爵令嬢は知的な第二王子と婚約したようです
しおりを挟む
王太子に婚約破棄されたレオノーラ嬢は、父親であるドゥランテ侯爵とともに王宮に上がり、謁見の間でなんと国王陛下に頭を下げられた。
「息子が馬鹿で本当に申し訳ない――」
「陛下、滅相もないことでございます!」
「わたくしどもにそんなっ、陛下、いけませんわ!」
父娘は慌てる素振りを見せたものの、ベネディクト王太子が馬鹿であることは否定しなかった。
(だからこそ、私がしっかり支えて差し上げなくては、と思っていたのだけど)
レオノーラにはその場ですぐに、次の婚約話が持ちかけられた。
相手はベネディクト王太子の弟アルヴィン――王位継承順位第二位であり、ファルナーゼ公爵の地位にある方だ。三年前に王弟殿下であった前ファルナーゼ公が病気で亡くなり、まだ若いアルヴィン第二王子がそのあとを継いでファルナーゼ公となったのだ。美しい海に面した広大なファルナーゼ公国は、マリナーリア王国の南の要所でもある。
レオノーラ嬢とドゥランテ侯爵はこの婚約を快諾した。
「ファルナーゼ公国には貿易のための港があって、ここで荷揚げされる品が王国内流通量の八割を占めるのですって。つまり王国経済の要ということ」
ファルナーゼ公国へ向かう馬車の中で、レオノーラは王妃教育で学んだことを侍女相手に講義していた。
「一方で海の向こうにはグランディア帝国があるでしょう、だから同時に軍備の要でもあるの」
「王都の次に重要な土地なのですね」
「そうよ。理解が早いわね」
パミーナの教育係がこの会話を聞いていたら、この侍女の半分ほどの理解力でもパミーナに備わっていたら、と願ったことだろう。
「レオノーラ嬢、ようこそファルナーゼ公国へいらっしゃいました」
海の見える丘の上に立つ宮殿で、ファルナーゼ公となったアルヴィン第二王子が出迎えてくれた。つややかな黒髪に優しげなグレーの瞳を持つ彼は、知的な雰囲気の青年に成長していた。
「このたびは兄がこの上ない無礼を働き、言葉もございません」
国王に続き第二王子にまで頭を下げられて、レオノーラはまた慌てた。
(アルヴィン様はベネディクト殿下よりお若いのに、ずっとしっかりしていらっしゃるわ)
「レオノーラ嬢の噂はファルナーゼ公国にも及んでおります。優秀なあなたを我が妃に迎えられること、大変嬉しく思います」
社交辞令かと思いきや、アルヴィンは本当にきらきらとした笑顔を浮かべていた。南の領地特有の明るい陽射しとあいまって、レオノーラの心は華やいだ。
ベネディクト王太子とは決して叶わなかった知的な会話にも花が咲いて、レオノーラはファルナーゼ公国で充実した日々を過ごしていた。アルヴィンの公国経営を手伝いつつ、夜は公国の地理について詳しく学んだ。
「息子が馬鹿で本当に申し訳ない――」
「陛下、滅相もないことでございます!」
「わたくしどもにそんなっ、陛下、いけませんわ!」
父娘は慌てる素振りを見せたものの、ベネディクト王太子が馬鹿であることは否定しなかった。
(だからこそ、私がしっかり支えて差し上げなくては、と思っていたのだけど)
レオノーラにはその場ですぐに、次の婚約話が持ちかけられた。
相手はベネディクト王太子の弟アルヴィン――王位継承順位第二位であり、ファルナーゼ公爵の地位にある方だ。三年前に王弟殿下であった前ファルナーゼ公が病気で亡くなり、まだ若いアルヴィン第二王子がそのあとを継いでファルナーゼ公となったのだ。美しい海に面した広大なファルナーゼ公国は、マリナーリア王国の南の要所でもある。
レオノーラ嬢とドゥランテ侯爵はこの婚約を快諾した。
「ファルナーゼ公国には貿易のための港があって、ここで荷揚げされる品が王国内流通量の八割を占めるのですって。つまり王国経済の要ということ」
ファルナーゼ公国へ向かう馬車の中で、レオノーラは王妃教育で学んだことを侍女相手に講義していた。
「一方で海の向こうにはグランディア帝国があるでしょう、だから同時に軍備の要でもあるの」
「王都の次に重要な土地なのですね」
「そうよ。理解が早いわね」
パミーナの教育係がこの会話を聞いていたら、この侍女の半分ほどの理解力でもパミーナに備わっていたら、と願ったことだろう。
「レオノーラ嬢、ようこそファルナーゼ公国へいらっしゃいました」
海の見える丘の上に立つ宮殿で、ファルナーゼ公となったアルヴィン第二王子が出迎えてくれた。つややかな黒髪に優しげなグレーの瞳を持つ彼は、知的な雰囲気の青年に成長していた。
「このたびは兄がこの上ない無礼を働き、言葉もございません」
国王に続き第二王子にまで頭を下げられて、レオノーラはまた慌てた。
(アルヴィン様はベネディクト殿下よりお若いのに、ずっとしっかりしていらっしゃるわ)
「レオノーラ嬢の噂はファルナーゼ公国にも及んでおります。優秀なあなたを我が妃に迎えられること、大変嬉しく思います」
社交辞令かと思いきや、アルヴィンは本当にきらきらとした笑顔を浮かべていた。南の領地特有の明るい陽射しとあいまって、レオノーラの心は華やいだ。
ベネディクト王太子とは決して叶わなかった知的な会話にも花が咲いて、レオノーラはファルナーゼ公国で充実した日々を過ごしていた。アルヴィンの公国経営を手伝いつつ、夜は公国の地理について詳しく学んだ。
114
お気に入りに追加
391
あなたにおすすめの小説
元婚約者が愛おしい
碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。
婚約者を解放してあげてくださいと言われましたが、わたくしに婚約者はおりません
碧桜 汐香
恋愛
見ず知らずの子爵令嬢が、突然家に訪れてきて、婚約者と別れろと言ってきました。夫はいるけれども、婚約者はいませんわ。
この国では、不倫は大罪。国教の教義に反するため、むち打ちの上、国外追放になります。
話を擦り合わせていると、夫が帰ってきて……。
ご自分の病気が治ったら私は用無しですか…邪魔者となった私は、姿を消す事にします。
coco
恋愛
病気の婚約者の看病を、必死にしていた私。
ところが…病気が治った途端、彼は私を捨てた。
そして彼は、美しい愛人と結ばれるつもりだったが…?
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
最後に、お願いがあります
狂乱の傀儡師
恋愛
三年間、王妃になるためだけに尽くしてきた馬鹿王子から、即位の日の直前に婚約破棄されたエマ。
彼女の最後のお願いには、国を揺るがすほどの罠が仕掛けられていた。
「婚約の約束を取り消しませんか」と言われ、涙が零れてしまったら
古堂すいう
恋愛
今日は待ちに待った婚約発表の日。
アベリア王国の公爵令嬢─ルルは、心を躍らせ王城のパーティーへと向かった。
けれど、パーティーで見たのは想い人である第二王子─ユシスと、その横に立つ妖艶で美人な隣国の王女。
王女がユシスにべったりとして離れないその様子を見て、ルルは切ない想いに胸を焦がして──。
【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。
鏑木 うりこ
恋愛
クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!
茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。
ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?
(´・ω・`)普通……。
でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。
愛せないと言われたから、私も愛することをやめました
天宮有
恋愛
「他の人を好きになったから、君のことは愛せない」
そんなことを言われて、私サフィラは婚約者のヴァン王子に愛人を紹介される。
その後はヴァンは、私が様々な悪事を働いているとパーティ会場で言い出す。
捏造した罪によって、ヴァンは私との婚約を破棄しようと目論んでいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる