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レイチェルの広範囲聖魔法はすべてを癒す
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「この瘴気―― 本当に聖ラピースラ王国じゃないわ……!」
大きな聖魔力を持つレイチェルは、大気中の魔素を感じ取り愕然とした。
(聖ラピースラ王国は本当に隣国の土地を奪おうとしていたのね…… こんなのいくら祈ったって、加護なんて得られないわ!)
国王陛下が国民をだましていた嘘、そしてさらに王太子がレイチェルについた嘘――妹クロエと結婚したいがために、レイチェルが聖女の力を失ったとでっち上げた…… 卑怯な国王親子に怒りの炎が燃え上がった。
「私の聖魔法の威力を見せてあげるわ!」
レイチェルが祈りはじめると、彼女を中心に白い光が広がっていく。土地の瘴気を浄化し、聖騎士団が掘った塹壕に緑の芽が息吹き、重い雲の立ち込めた空に虹がかかった。
「この光はなんだ?」
「聖女様がいらっしゃった!」
「我々を助けに来てくださったんだ!」
聖騎士団が喜びの声を上げる。彼らを包み込んだ白い光はさらに大きくなり、獣人の陣営にも及ぶ。
「人族ども、聖女が来たって騒いでるぞ!」
「あそこに立っているあの女――」
獣人兵の一人が、すぐ近くの小高い丘を指さした。
「――一緒にいるのは俺たちのリーダー、ジュリアン様じゃないか!」
「聖女の光が俺たちの傷も癒していくぞ!」
レイチェルの圧倒的な広範囲聖魔法は全ての兵士を癒し、人々の負の感情を消し去ってしまった。もとより誰も戦いたくなどなかったのだ。ただ一人を除いて――
「おい、お前たち! なぜ攻撃をやめるのだ!」
聖ラピースラ王国の陣地後方から怒声を上げるのは聖騎士団長。
「さっさと弓を射かけぬか!」
「我々は命令を拒否する! 聖王国を守る聖戦だと言われて来てみたら、ここは隣国だ! 聖騎士団は無用な戦いはしない!」
「わしの命令を聞かぬなら――」
「やめときな、おっさん」
攻撃呪文を唱えようとした騎士団長を、うしろから羽交い締めにしたのはジュリアンだった。
「魔力封じの術かけておいたから、魔法は発動しないはずだぜ?」
「くっ……」
ぎりぎりと歯を食いしばる団長の前にレイチェルがすっくと立った。
「誰の命令でこのような残酷なことを? あなたの一存ではないでしょう?」
「も、もちろんです、聖女様! 国王陛下の命令で……」
魔法が使えなくなった途端、騎士団長は弱腰になった。
「分かりました。この不毛な戦いを止めるには、国王陛下とお話ししなければならないようね。王宮まで案内してちょうだい」
周囲をぐるりと抜き身の剣を手にした騎士たちに囲まれて、騎士団長はびくびくしながらレイチェルを馬車のところまで案内した。
「聖女様、我々がお守りします!」
「ありがとう。私は聖魔法しか使えないからとっても助かるわ」
レイチェルは護衛を務める聖騎士たちと馬車に乗り込んだ。そのうしろには、まるで連行される罪人のように騎士たちに腕をつかまれた騎士団長の乗る馬車。
「ちょっと王都まで行ってまいりますわ!」
見送るジュリアンたちに、レイチェルは馬車の窓から手を振った。
「気を付けて。レイチェル!」
ジュリアンは泣きそうな顔をしている。
走り出した馬車へ、残った聖騎士団と亜人族の兵士たちが声を合わせて喝采を送った。
「聖女様は我々の味方だ!」
「聖女様、万歳!」
(私、必要とされてる! これぞ聖女の仕事だわ!)
神殿にこもって祈っているときには決して感じられなかった使命感に、レイチェルは胸を躍らせていた。
大きな聖魔力を持つレイチェルは、大気中の魔素を感じ取り愕然とした。
(聖ラピースラ王国は本当に隣国の土地を奪おうとしていたのね…… こんなのいくら祈ったって、加護なんて得られないわ!)
国王陛下が国民をだましていた嘘、そしてさらに王太子がレイチェルについた嘘――妹クロエと結婚したいがために、レイチェルが聖女の力を失ったとでっち上げた…… 卑怯な国王親子に怒りの炎が燃え上がった。
「私の聖魔法の威力を見せてあげるわ!」
レイチェルが祈りはじめると、彼女を中心に白い光が広がっていく。土地の瘴気を浄化し、聖騎士団が掘った塹壕に緑の芽が息吹き、重い雲の立ち込めた空に虹がかかった。
「この光はなんだ?」
「聖女様がいらっしゃった!」
「我々を助けに来てくださったんだ!」
聖騎士団が喜びの声を上げる。彼らを包み込んだ白い光はさらに大きくなり、獣人の陣営にも及ぶ。
「人族ども、聖女が来たって騒いでるぞ!」
「あそこに立っているあの女――」
獣人兵の一人が、すぐ近くの小高い丘を指さした。
「――一緒にいるのは俺たちのリーダー、ジュリアン様じゃないか!」
「聖女の光が俺たちの傷も癒していくぞ!」
レイチェルの圧倒的な広範囲聖魔法は全ての兵士を癒し、人々の負の感情を消し去ってしまった。もとより誰も戦いたくなどなかったのだ。ただ一人を除いて――
「おい、お前たち! なぜ攻撃をやめるのだ!」
聖ラピースラ王国の陣地後方から怒声を上げるのは聖騎士団長。
「さっさと弓を射かけぬか!」
「我々は命令を拒否する! 聖王国を守る聖戦だと言われて来てみたら、ここは隣国だ! 聖騎士団は無用な戦いはしない!」
「わしの命令を聞かぬなら――」
「やめときな、おっさん」
攻撃呪文を唱えようとした騎士団長を、うしろから羽交い締めにしたのはジュリアンだった。
「魔力封じの術かけておいたから、魔法は発動しないはずだぜ?」
「くっ……」
ぎりぎりと歯を食いしばる団長の前にレイチェルがすっくと立った。
「誰の命令でこのような残酷なことを? あなたの一存ではないでしょう?」
「も、もちろんです、聖女様! 国王陛下の命令で……」
魔法が使えなくなった途端、騎士団長は弱腰になった。
「分かりました。この不毛な戦いを止めるには、国王陛下とお話ししなければならないようね。王宮まで案内してちょうだい」
周囲をぐるりと抜き身の剣を手にした騎士たちに囲まれて、騎士団長はびくびくしながらレイチェルを馬車のところまで案内した。
「聖女様、我々がお守りします!」
「ありがとう。私は聖魔法しか使えないからとっても助かるわ」
レイチェルは護衛を務める聖騎士たちと馬車に乗り込んだ。そのうしろには、まるで連行される罪人のように騎士たちに腕をつかまれた騎士団長の乗る馬車。
「ちょっと王都まで行ってまいりますわ!」
見送るジュリアンたちに、レイチェルは馬車の窓から手を振った。
「気を付けて。レイチェル!」
ジュリアンは泣きそうな顔をしている。
走り出した馬車へ、残った聖騎士団と亜人族の兵士たちが声を合わせて喝采を送った。
「聖女様は我々の味方だ!」
「聖女様、万歳!」
(私、必要とされてる! これぞ聖女の仕事だわ!)
神殿にこもって祈っているときには決して感じられなかった使命感に、レイチェルは胸を躍らせていた。
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