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Ⅲ、クリスティーナ皇后の決定は電光石火

35、玄関ホールで突然バトル!

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聖還無滅輝燦ロヴィーナシャイン!」

「瘴気の壁よ! ぐっ」

 なっ、ラピースラめ、レモの聖魔法を防いだのか!? いや、完全に防ぎきれてはいないようだが――

「くはあぁぁあぁぁっ!」

「危ない!」

 俺は跳躍してレモを抱きしめると、横に飛んで石像の陰に入った。

「ぎゃぁっ!」

 ホールに響いた悲鳴は、俺たちのうしろに立っていた侍従のもの。瘴気を浴びた左半身の衣服が一瞬で朽ち果て、千年前の骨董品のようにボロボロになった。

「ルド、すぐに救護のへ行って侍医に見せて来い!」

 護衛に守られて、離れたところに立っているエドモン皇子が叫んだ。

「え……」

「手遅れになると体が壊死えしするぞ!」

「ひぃぃ」

 気の毒な侍従は、左足を引きずって何とか歩きだした。

「わたしが肩車して連れて行くよ!」

 ユリアが侍従に走り寄り、両脚の間に頭を突っ込む。

「わたしの頭をつかんでいて。なんとかのってのはどこ?」

 侍従が玄関ホール脇にある使用人用の階段を指差すと、ユリアは力強い足取りで登って行った。

 そのあいだに、クロリンダの姿をしたラピースラは呪文を唱え終わったらしい。

烈風斬ウインズブレイド!」

 プスン。

 ん? 何も飛んで来なかったぞ?

「きゃはははっ!」

 レモが腹をかかえて笑い出した。

「お姉様はねえ、魔力量が少なすぎてろくに魔法が使えないのよ。知らなかったぁ? ププッ!」

「なんと使えぬ器じゃ! くおぉぉぉぉ……」

 また瘴気かよ。

「凍れる壁よ!」

 レモを守りつつ、俺は腰の聖剣を抜いた。だがレモの姉さんを斬るわけにはいかねぇから、肩か脚か命に関わらないところに斬りつけて、ラピースラを追い出す作戦だ。
 悪しきものしか斬れない剣のはずだが、イーヴォの頭皮を剥いだ黒歴史があるから、どこまで「悪しきもの」認定しているのかよく分からないのだ。

 そのとき、大階段を下りてくる大勢の足音が聞こえてきた。

「殿下、ご無事ですか!?」

 瘴気対策か銀色の甲冑で武装し、手に盾を持つ騎士たちが五人ばかり、カチャカチャと音を立てながら駆け下りてきた。最後尾にユリアの姿も見える。

「うむ。あの女を殺さずに捕らえてほしい」

「承知しました!」

「きしゃあぁぁぁっ!」

 構わず瘴気を吐くラピースラ。

「なんだとっ、ミスリル製の盾が――!」

 蒼銀色に輝いていた盾が、みるみるうちに黒ずんでいく。

「ジュキ、飛ぶわよ」

 レモが耳もとでささやいた。

「えっ、だめだよ、レモに瘴気が当たったら――」

「あとで聖魔法使って回復するわ!」

 そんな無茶な!

風纏颯迅ヴェローチェファルコン!」

「我が力溶け込みし清らかなる水よ、我らを守りたまえ!」

 慌てて精霊力をこめた結界で、二人を包み込む。

「どいてぇっ!」

 俺を抱きしめて浮き上がったレモが、空中から叫んだ。

「おおっ、聖剣の騎士殿だ!」

「なんか女の子に抱えられてるけど……」

 光り輝く聖剣アリルミナスを構えた俺を見上げて、騎士たちは急いで左右に散った。

「狙うは眉間! 急所に一突き、行くわよぉっ!」

「う、嘘だろ!?」

 聖剣をにぎった俺を抱えたまま、まっすぐクロリンダの頭部へ急降下するレモ。

「くそっ!」

 俺はすんでのところで剣を横に薙ぎ、切っ先をそらした。

 ザクッ

 やっぱり何か斬ったーっ!




 ─ * ─



クロリンダ嬢の運命や如何に!?
次回『あわれなクロリンダ嬢』で判明します!
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