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Ⅱ、道中ザコが襲い来る
19★モンスター襲来の舞台裏【敵side】
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ここは魔石救世アカデミー本部。その三階にあるラピースラ・アッズーリの秘密の部屋。
アカデミー代表であるアッズーリ教授は、日の暮れた部屋の中、大きな執務机の前に座って魔石をのぞきこんでいた。魔石は彼女の「目」の役割をする。遠く離れた土地で戦う魔物の視界を映しだすのだ。
「どぐわぁぁっ!」
楚々とした修道女服に似合わぬ叫び声をあげて、突然ラピースラ・アッズーリはのけぞった。なんの前触れもなく魔石が金色の光を発したから。
「ぐ、ぐぅぅ、目が――」
両手でまぶたを押さえ苦しむ彼女の様子は、ただ事ではない。薄暗い部屋の中で光を見たから、というだけではなさそうだ。
「せ、聖女の力を持つレモネッラめ――。聖なる言葉すら唱えず、なんの前兆もなく魔石を浄化するとは一体何をしたのだ!?」
愛するジュキエーレ様に萌え狂っただけである。
魔石から放たれた光はどうやら、執着でこの世にとどまる悪霊とも言える存在にとっては、害をなすエネルギーだったようだ。
「何があった!?」
部屋の扉が開いて、手燭を片手に金髪の皇子――オレリアン殿下が駆け込んできた。
「隣の部屋までお前の叫び声が聞こえたぞ?」
「な、なんでもない」
いまだ片手で額を押さえつつ、ラピースラ・アッズーリは平静を装った。
「我は取り込み中じゃ。殿下よ、宮殿にお帰りになったのではなかったか」
「ふん、僕を追い出す気か? 誰も彼もが弟エドモンに愛想を振りまく、あんな馬鹿みたいな場所に帰る気はせぬ」
「お好きになさるがよい」
ラピースラは古びた肘掛け椅子に座り直し、また魔石の中をのぞいた。そこにオレリアンも首を伸ばす。
「僕が資金援助したあの技術の初運用か?」
「さよう。魔石を埋め込んだ魔物を遠隔操作する実験ですよ」
「すばらしい!」
オレリアンはほくそ笑んだ。
「遠隔操作技術が確立すれば、遠方の自治領だの公国だのに魔物をけしかけて、その土地の為政者の軍隊を滅ぼしたあとで、我が騎士団が民を救う体裁で入っていくことができる」
「操縦魔石の管理下にある魔物は、騎士団には抵抗しない、と」
「その通り。民は強い騎士団を受け入れ、帝国全土が僕の土地となるのさ!」
都合の良い未来を描いてニヤついたあとで、オレリアンはラピースラを見下ろした。
「それで首尾はどうだ?」
「かんばしくない」
「なっ――」
一瞬で夢を打ち砕かれ言葉を失う殿下に、
「遠隔操作では魔物本来の力が発揮できないようじゃ。彼らは本能のままに戦った方が強い。いまの技術では魔物使いを雇った方が役立ちますな」
ラピースラは視線を魔石に落としたままで、淡々と説明する。
「くっ、何か対策はないのか!?」
オレリアンは、自分の頭で考える前に部下を叱責するタイプの上司だった。
「二匹目は遠隔で人語をしゃべらせることができる」
「それがなんの役に立つというのだ?」
「将来的には、魔物を魔物使いにできれば便利でしょう」
ふむ、とつぶやいてオレリアンは納得した。
ラピースラは小型の魔石を口もとに近付けると、
「俺……サッキノト違ウ……」
たどたどしい演技を始めた。
「どうした? 気でも違ったか?」
真顔で尋ねる皇子。
「魔物にしゃべらせておるのじゃ!」
また魔石に向かって、
「俺……サッキノ見テ学ンダ……」
「だからなにゆえカタコト?」
「魔物が流暢に話したらおかしいではありませぬか!」
ラピースラは目をつり上げて怒りつつ、
「オマエ、ウロコ、俺ノ仲間……」
「ぷぷっ……」
皇子は必死で笑いをこらえながら、
「お前それ、むなしくないか?」
「これこそ我が作戦じゃ。精神攻撃に弱いのだよ、あの少年は――」
背を向けて肩を震わせるオレリアンは無視して、ラピースラは一生懸命カタコトでしゃべる魔物の演技を続けた。しかし――
「くぅぅっ! 暴力聖女め、我が前で恋人に口づけなどしおって! 憎いっ!」
ラピースラは地団太を踏んだ。
「我とてアビーゾ様に抱きしめられたしーっ! あな悔しや! 爆発しろっ!」
「うるさいぞ」
あきれ顔のオレリアン。
「千二百歳を超えた年増が抱きしめられたいだと? 歳をわきまえろ」
ラピースラは聞いていない。
「やあっ、あの図々しい女のせいで我が精神攻撃が灰燼に帰したではないか! くっ、もうだめかえ?」
遠隔操作しようにも、どうやら魔物は体内から灼熱に焼かれているようだ。
「うぐわーっ、やられたー!」
ラピースラは肘掛け椅子にのけぞって悔しがった。
「楽しそうだな、魔物の遠隔操作」
ちょっと興味をそそられるオレリアン。
「次は僕にやらせろ」
「遊びじゃありませぬ、殿下! それに魔石を使った遠隔操作では、精霊王の末裔ジュキエーレを倒せないことが分かったのじゃ」
ラピースラは唇をかみながら、虚空をにらんだ。
「やはり魔物使いを雇って襲わせるしか――」
─ * ─
どうやら魔物の遠隔操作はあきらめたらしいラピースラ、次話こそジュキエーレに一泡吹かせられるのか!?
生温かいまなざしで見守りましょう!
アカデミー代表であるアッズーリ教授は、日の暮れた部屋の中、大きな執務机の前に座って魔石をのぞきこんでいた。魔石は彼女の「目」の役割をする。遠く離れた土地で戦う魔物の視界を映しだすのだ。
「どぐわぁぁっ!」
楚々とした修道女服に似合わぬ叫び声をあげて、突然ラピースラ・アッズーリはのけぞった。なんの前触れもなく魔石が金色の光を発したから。
「ぐ、ぐぅぅ、目が――」
両手でまぶたを押さえ苦しむ彼女の様子は、ただ事ではない。薄暗い部屋の中で光を見たから、というだけではなさそうだ。
「せ、聖女の力を持つレモネッラめ――。聖なる言葉すら唱えず、なんの前兆もなく魔石を浄化するとは一体何をしたのだ!?」
愛するジュキエーレ様に萌え狂っただけである。
魔石から放たれた光はどうやら、執着でこの世にとどまる悪霊とも言える存在にとっては、害をなすエネルギーだったようだ。
「何があった!?」
部屋の扉が開いて、手燭を片手に金髪の皇子――オレリアン殿下が駆け込んできた。
「隣の部屋までお前の叫び声が聞こえたぞ?」
「な、なんでもない」
いまだ片手で額を押さえつつ、ラピースラ・アッズーリは平静を装った。
「我は取り込み中じゃ。殿下よ、宮殿にお帰りになったのではなかったか」
「ふん、僕を追い出す気か? 誰も彼もが弟エドモンに愛想を振りまく、あんな馬鹿みたいな場所に帰る気はせぬ」
「お好きになさるがよい」
ラピースラは古びた肘掛け椅子に座り直し、また魔石の中をのぞいた。そこにオレリアンも首を伸ばす。
「僕が資金援助したあの技術の初運用か?」
「さよう。魔石を埋め込んだ魔物を遠隔操作する実験ですよ」
「すばらしい!」
オレリアンはほくそ笑んだ。
「遠隔操作技術が確立すれば、遠方の自治領だの公国だのに魔物をけしかけて、その土地の為政者の軍隊を滅ぼしたあとで、我が騎士団が民を救う体裁で入っていくことができる」
「操縦魔石の管理下にある魔物は、騎士団には抵抗しない、と」
「その通り。民は強い騎士団を受け入れ、帝国全土が僕の土地となるのさ!」
都合の良い未来を描いてニヤついたあとで、オレリアンはラピースラを見下ろした。
「それで首尾はどうだ?」
「かんばしくない」
「なっ――」
一瞬で夢を打ち砕かれ言葉を失う殿下に、
「遠隔操作では魔物本来の力が発揮できないようじゃ。彼らは本能のままに戦った方が強い。いまの技術では魔物使いを雇った方が役立ちますな」
ラピースラは視線を魔石に落としたままで、淡々と説明する。
「くっ、何か対策はないのか!?」
オレリアンは、自分の頭で考える前に部下を叱責するタイプの上司だった。
「二匹目は遠隔で人語をしゃべらせることができる」
「それがなんの役に立つというのだ?」
「将来的には、魔物を魔物使いにできれば便利でしょう」
ふむ、とつぶやいてオレリアンは納得した。
ラピースラは小型の魔石を口もとに近付けると、
「俺……サッキノト違ウ……」
たどたどしい演技を始めた。
「どうした? 気でも違ったか?」
真顔で尋ねる皇子。
「魔物にしゃべらせておるのじゃ!」
また魔石に向かって、
「俺……サッキノ見テ学ンダ……」
「だからなにゆえカタコト?」
「魔物が流暢に話したらおかしいではありませぬか!」
ラピースラは目をつり上げて怒りつつ、
「オマエ、ウロコ、俺ノ仲間……」
「ぷぷっ……」
皇子は必死で笑いをこらえながら、
「お前それ、むなしくないか?」
「これこそ我が作戦じゃ。精神攻撃に弱いのだよ、あの少年は――」
背を向けて肩を震わせるオレリアンは無視して、ラピースラは一生懸命カタコトでしゃべる魔物の演技を続けた。しかし――
「くぅぅっ! 暴力聖女め、我が前で恋人に口づけなどしおって! 憎いっ!」
ラピースラは地団太を踏んだ。
「我とてアビーゾ様に抱きしめられたしーっ! あな悔しや! 爆発しろっ!」
「うるさいぞ」
あきれ顔のオレリアン。
「千二百歳を超えた年増が抱きしめられたいだと? 歳をわきまえろ」
ラピースラは聞いていない。
「やあっ、あの図々しい女のせいで我が精神攻撃が灰燼に帰したではないか! くっ、もうだめかえ?」
遠隔操作しようにも、どうやら魔物は体内から灼熱に焼かれているようだ。
「うぐわーっ、やられたー!」
ラピースラは肘掛け椅子にのけぞって悔しがった。
「楽しそうだな、魔物の遠隔操作」
ちょっと興味をそそられるオレリアン。
「次は僕にやらせろ」
「遊びじゃありませぬ、殿下! それに魔石を使った遠隔操作では、精霊王の末裔ジュキエーレを倒せないことが分かったのじゃ」
ラピースラは唇をかみながら、虚空をにらんだ。
「やはり魔物使いを雇って襲わせるしか――」
─ * ─
どうやら魔物の遠隔操作はあきらめたらしいラピースラ、次話こそジュキエーレに一泡吹かせられるのか!?
生温かいまなざしで見守りましょう!
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